村に戻って家に帰ると、家の前で、コルがしゃがんで、地面を小枝でひっかいて何かを描いていた。人の顔に見える。なかなかにうまい。アシメックは心がほぐれるような気がして、コルに声をかけた。
「うまいな。だれの顔だ」
するとコルは、明るい声で、「かあちゃん」と言った。
アシメックは絵をよく見た。ユカダにも、ソミナにも見える。コルにとっては、どちらも大事な母親なのだ。どちらなのだと問い詰めることはよしたほうがいい。アシメックはコルの頭をやさしくなでると、家の中に入っていった。すると外でソミナの声がした。
「コルや、おいで、虫がいるよ」
アシメックが入り口から外を覗いてみると、ソミナが大きな甲虫を手に持って、コルに見せていた。コルは虫が好きなのだ。コルはうれしそうにソミナの膝にだきつき、虫を見ていた。
コルが来る前は、虫になど何の興味もなかったがな。最近ではよく探してくる。ソミナはコルを愛しているのだ。我が子のように世話を見ている。コルの嬉しそうな顔を見ているソミナの顔は、本当に幸せそうだった。
子供をもらってよかったと、アシメックは思った。
族長の仕事は、こんなみんなの幸せを守ることだ。少しでも不穏な要素があれば、それを忘れてはならない。常に何とかしようと努力せねばならない。