さて、オラブをどうするべきか。アシメックは囲炉裏のそばに座って考えた。火種のくすぶっている囲炉裏を、鹿の骨でつつきながら、自然アシメックの思いはオラブの暮らしのことに飛んだ。
山でネズミも食って生きているという、その暮らしはどんなものなのか。まるで想像ができなかった。一人で何を考えているのか。あらゆるものに背を向けて生きて、どんな思いがするのか。
あれは弱いのだ。人より小さく醜く、体から嫌な匂いがすることで、子供のころから嫌われていた。それがつらかったのだろう。村のみんなが、全部自分よりいいものだと思うのだ。それでみんながうらやましくて、人のものを盗むようになった。人のものを盗むのは間違ったことだ。カシワナカも厳しくいさめている。そんなことをすれば大変なことになるぞと、親が何度もしかったが、オラブはやめなかった。
とうとう村にいることができずに、山に逃げた。
オラブが逃げた時、アシメックはまだ族長ではなかった。役男をしながら心配そうにオラブを見ていた。あの時、なにがしかのことをしてやっていれば、こういうことにはならなかったかもしれない。
エルヅのように、いいところを見てやっていれば、なんとかなったかもしれないのに。
そんな風に心を砕いているアシメックの心などおかまいなしに、次の日、オラブのことがまたアシメックのところに飛び込んできた。モカドが蓄えていた鹿肉と鹿皮をごっそり盗まれたというのだ。