平凡なケアマネジャーだった私が結婚退職すると職場へ告げた時、まわりはみな一様に妙な表情を浮かべた。
もう少し祝福してくれてもいいだろうに、と私は内心不満を覚えたのだが、そのあと不思議な出来事が次々に起こった。
退職を宣言して2日後、取引先の福祉用具貸与事業所長から誘われてランチに出た先で、いきなりプロポーズされた。
彼は気さくで気前がよく、私もなんだかだと重宝に頼みごとなどしていた部分もあったのだけれど、彼との結婚は考えたこともなかったことから、その場で即座にお断りした。
「きみがいなくなると、月の上にいるようにさびしいな。」
翌日、終業後に足を運んだ茶道のお稽古場で、どこから聞きつけたのか、弟弟子の男の子に僕を見捨てて行くのですか、もう手遅れですか、と泣かれてしまった。
彼の母親は同門の姉弟子でもあり、息子の嫁として私に白羽の矢を秘かに立てていたらしい。
ありがたいお話ではありますが、きみのお守りは誰か別の方を探してね、とやや冷たく突き放した。
さらにその3日後、スポーツクラブで一緒になった中学時代の同級生に呼び止められた。
彼はバドミントンのラケットをくるくる回しながら言った。
お前、結婚して県外へ行くんだって?やめとけよ、それよりもっと条件のいい男が目の前にいるだろ。だいたいお前、独身主義じゃなかったっけ?
―いいえ、違うし、願い下げです。
なぜ私の周囲にはこんな意気地なしやポンコツしかいないのだろう。ああ、もうヤダ!!
目を覚ますと、私はつかんだ枕を壁まで放り投げたあとだった。
夢か、、。
JET
(作詞作曲 ポール・マッカートニー)
ジェット、ジェット
今でもよく覚えてるよ
きみがもうすぐ結婚するって言った時の
みんなのおかしな表情を
ねえジェット、僕もそれまでは月の上がもっとも孤独な場所
かと思っていたんだけどな
ジェット、ジェット
きみの父さんは頑固な特務曹長だったよね?
よくまあ、きみに遠慮なくまだ若いって言えたものだ
ねえジェット、特務曹長は婦人参政権論者だったよね?
ジェット、
とにもかくにもきみに愛されたい
それとも、もう手遅れかい
ジェット、
風になびくきみの髪は無数のレースのよう
二人して空に駆け上がろうよ
ねえジェット、特務曹長は婦人参政権論者だったよね?
それでね、ジェット、
僕はきみも婦人参政権論者だと思っていたんだけどな
可愛いきみ、
きみまでもね