「まだ事業所が一つか二つだったころ、シオーモ市で開催された小規模多機能型ホームの公開セミナーに出席した。
シオーモ市社協が運営するホームの管理者と、隣りのT市で民家改修型ホームを運営している民間事業者の管理者の二名が話題提供者だった。
登壇したスピーカーにちょっと驚いた。
ケアマネジャーで管理者だというその女性はどう見ても二十代後半で、ロングヘアにピンヒール、およそ介護職には見えなかった。
ウチの管理者も若い女性だったけれど、まるでタイプが違っていた。
ところが、彼女が写真スライドを使いながら楽しそうに話すおんぼろホームでの賑やかな日常は、とても魅力的だった。
無意識のうちに、僕は自分のホームのそれと比べていた。
若く働き盛りで行動力があり、職員思いの経営者とともに、苦労は多いものの、やりがいを持ってサービス提供にあたっている、とも彼女はたびたび語った。
そして心底びっくりしたのは、スライドのラストがその経営者のアップ写真だったこと。
会場に彼はいただろうか。
もしいたとしたら、最高のサプライズ・プレゼントだ。
尊敬と愛情がなければ、絶対にこういうことはない。
楽しい内容だったにもかかわらず、聞き終えた僕はひどくイライラしていた。
僕はそれまで(そして現在も)自分の時間も私財もすべて会社に費やしてきた。
それをアピールするつもりは決してないし、それはカッコ悪いことだ。
けれども、理解者もいないのだな、とその時思い当った。
翌年、僕はたびたび意見が食い違っていた管理者を追い出すことになるのだが、今思い返すと、あのセミナーが遠因になったのかもしれない。
幸い後任に恵まれて、その方と野山を駆け巡って切り取り御免でNPO法人なごやかを飛躍的に発展させた。
そして、いつしかジェラシーも、とげとげしい気持ちも、霧散していた。
ちなみに、その後あちらの経営者は訳あって事業を準大手へ譲渡している。
(これを言い添えてしまうことが、明らかに僕の執念深さだろうね。)」
昔、夢中になった映画。内容は全く関係ありません。