リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

リサイタル終了

2013年05月20日 00時46分13秒 | 音楽系
リサイタルが無事終わりました。リサイタルにお越し頂いた方には御礼を申し上げます。今回は「リュートの新しい光」というテーマで、現代曲とバロックの曲を対比するという、普通はあまりやらないことをやってみました。多分リュートでは現代曲の作品そのものが少ないこともあって、滅多にないことだろうと自負しています。

でも滅多にやらないことをやるのはやはり大変でした(笑)。特に委嘱作の、久保摩耶子さんの作品は、音域の拡張が顕著で、普段は楽器の左手のポジションや右手の親指の位置はほとんど見ないで演奏しているんですが、この曲ではさすがに目で確認をしなくては不安定になる箇所が何カ所かあって、目をキョロキョロさせていました。

バッハの995番も当時にあっては「異形」のリュート曲でして、昨年末に完成した13コース楽器へのアダプテーションから何十回も部分変更しました。最終変更は何と本番当日の朝でした。

今回は、調が次から次へと変わっていくので、曲の順番にもひと工夫が要りました。本当はドゥ・ヴィゼーの曲を最初に持ってくるのが一番いいかなと思ったんですが、そうすると、バス弦の調弦変更が多くなり弦が安定しないので、ヴァイスのロジー伯のトンボーをオープニングの曲としました。この曲は、レ、ミ、シが♭になりますが、プログラムを進めていくにつれて、レをナチュラルに、次にミを、そしてシをナチュラルにして、プログラム後半に至るという風にしました。

演奏会当日は雨男の私としては極めて珍しく好い天気に恵まれました。そのため会場内の気温も大変安定しており、(会場の電気文化会館ザ・コンサートホールは地下にあるのでもともと気温は安定していますが)弦のピッチは信じられないくらい動きませんでした。自宅のレッスン室でエアコンできちんと温度管理して曲をさらっているときより弦の安定度は高かったです。

当初はガット弦をトレブルとミドルレンジ、バスレンジの上の方まで使おうと思っていたのですが、現代曲があるので、とても弦がもちそうもないことが分かって3月の終わりに合成樹脂弦に切り替えました。1,2弦とバス弦の一部は、1週間くらい前に替えましたが(1弦は3月終わりから当日まで4本使っています)他の弦は1ヶ月半同じものを使っていますので、安定していたわけです。そしてペグも最高の精度で動くように、ペグコンポジションで何度も調整しました。

あと何故かガット弦では問題にならなかったですが、合成樹脂弦に替えてから開放弦が強く弾くと少し第1フレットに当たるようになったので、ナットに紙を挟みました。紙の厚さは、ガムートのガット弦のラベル、厚さ0.15ミリです。文字通り紙一重ですが、これで問題は解消です。フレットは0.1ミリとか0.05ミリ差で太さを変えていきますので、0.15ミリであればそういった問題解決するに充分だということです。

こういう細かいことを積み上げていかないと、古い様式の楽器であるリュートで、他の楽器のリサイタルで曲が進んでいくような感じには行かないのです。逆の言い方をすると、古っぽいスタイルの楽器であっても、きちんと「整備」してあり、会場のコンディションが整っていれば、今の楽器とさほど変わらないレベルで運用ができるということです。でもまぁ、外気温、湿度、両指の温度、両指の湿り具合が、弦の安定性のファクターになるリュートは、間違いなく最も弦が不安定になる楽器ではあります。だからと言って、しょっちゅう調弦に時間を取り、オマケに不正確な調弦で見切り発車ではいけません。弦が多いから調弦に時間がかかってゴメンしてね、というようなことを言っていてはいけないのである、なんてね。(笑)

さて苦労話はこんなところで、とにかく私のプロ転向10周年を飾るリサイタルは終了しました。いろんな意味で節目のリサイタルって感じでしたね。(笑)次回はフランスの曲か久々にアンサンブルを入れてみようかなと思っています。次回は来年です!?