リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

バロック・リュートのオクターブ弦をガットに(3)

2024年06月27日 14時51分19秒 | 音楽系

左手で押さえるのは6コース、それよりは頻度は減りますが7コース、8,9コースはさらに頻度は減ります。6コースにしても高音弦ほどは頻繁には押さえないでしょうから耐久性の問題はほとんどないと思います。でもガット弦は湿度にとても敏感なので素早く調弦できるように楽器を調整しておく必要があります。

ポイントは3つ。まずペグがどんなに速度を遅くしても完全無段階でまわるようにすること。ある程度の速度ではなめらかに動くが、スローにまわすとカクカクするペグはNG。キッキッキと鳴くようはペグは論外です。

2つ目はナットの部分の滑りをよくすること。4Bとか5Bのような鉛筆でナットの溝が黒くなるように塗りつけます。同じような処置はロバート・ダウランドの理論書にも書かれています。

3つ目はペグボックス内の弦を伸びない素材(高強力アラミド繊維など)でつなぎペグの回しがダイレクトに弦の音高変化につながるようにすること。ルネサンス・リュートのようにペグボックスがあまり長くない楽器の場合は問題にはなりませんが、バロック・リュートのように長いペグボックスを持つ楽器は、5コース~8コースあたりの弦の音高を調整しようとしたとき、ペグを回した分がどうしてもペグボックス内の弦の部分に吸収されてしまいがちです。リュートのペグはギターのようにギヤがついているペグと比べるとハイレシオなので、本来はホンの少し動かすだけで音程が変わるはずです。

以上のポイントは別にガット弦を使っていなくてもきちんとしておくべきことですが、ガット弦は合成樹脂弦と比べると表面の滑りが悪いので特に念入りに調整しておく必要があります。

参考までに私の楽器で使われている弦の素材を書いておきましょう。1~3コース→ガムート社のナイロン弦、4、5コース→サヴァレス社のカーボン弦(KF弦)、6コース以下→CD弦とガット弦。