(なんでも診るぞう先生の看板。貝瀬皮膚科医院のHPより引用。)
幼いころ私は、上のように標榜科の数が多い医院ほど、優れたお医者さんがいるんだと思っていました。医学部に入って、それは全然違うのだと分かりました。
もっともそのころの内科医は、今では信じられないほどの広範囲の病気を受け持っていました。一人の医者が、それこそ結核も白血病も潰瘍性大腸炎も診ていました。
そのころから、臓器別の細かい専門に分かれるようになり、20年ほど前から各科に専門医制度ができて、それぞれの学会が専門医の認定を行うようになりました。
ところが今度は専門が細かく分かれ過ぎたために、ふたたびなんでも診る総合診療科の必要性が生じてきました。総合診療科をこころざす医学生も増え、総合診療科は充実してきました。むろん総合診療科の専門医という資格もできました。
ここで厚労省がおかしなことを始めました。「日本専門医機構」という第三者機関を作って各科の専門医を一元的に管理しようというのです。表向きの理由は「各科の専門医ごとにスキルにでこぼこがあってはいけない」というものです。
ですがこれは「将棋の初段と囲碁の初段のスキルにでこぼこがあってはいけない」というのと同じ妙な論理です。それに、苦労して専門医認定制度を作ってきた各学会の努力を横取りするものです。なおかつ学会の独自性を損なうものです。
厚労省は専門医を認定する側に回りたいのでしょう。ですが、健康保険医の資格を剥奪することが、影響の強い行政処分になりえたように、将来、専門医の剥奪という権限を厚労省がもつようになるのは明らかです。(健康保険制度の黎明期には、健康保険医の資格が、よもや行政処分のネタに利用されるようになると考えた医者はほとんどいませんでした。)
それだけが理由ではありませんが、にわか仕立ての「日本専門医機構」を疑いの目をもって見ている医者は少なくないのです。(機構の設立に協力している「名医」たちが、いったい何を理想と考えているのか、いまひとつ見えてきません。)