寒い日は白い煙をふうふうはきながら歩くのが好きです。
重たいコートにかばん、スーツで駅から降りると服から寒さがしみこんで、
どんどん重たく冷えてゆく夜でした。
一月電車のお供をした本を閉じてまだぐるぐると熱っぽい静かな興奮が
おさまらずにふと見るとバスが止まっています。歩けば大回りですが
バスならば5分ほどで過ぎてしまう道を通りたくなって乗り込みました。
奴がそこにいました。
12月5日の日記に書いた男は、ジャンパーの肘にコンビニの一番小さいビニール袋
をかけ、腕と足を組み目を閉じて優先席に腰掛けていました。
その、すらりと伸びたふくらはぎは、肌の色がほのかに透けて見える
黒いストッキングに包まれ、黒いプリーツスカートから始まり
白いピンヒールの先の尖った27センチの靴にはまったつま先で終わります。
奴は悠々と右の太ももに左の膝を乗せ、床についた足先をわずかに伸ばして
組んだ足が台形をきれいに描く形で坐っていました。
バスが走り出してしばらく、奴は鼻歌を歌いながら手すりにぶらさがったチラシを
指先ではじき、席を立ちました。そこまで背は高くありません。ただスカートから
突き出た太ももの太さが、女の子ならちょうどいいはずなのに、男特有の密度の
濃い固さのせいか妙におかしな気持ちになります。
丈は膝上20センチ。
カーキ色のジャンパーから鍵盤のように突き出たプリーツに乱れはなく、足を
取り囲むようにくるりと白いラインが染め抜かれています。
1000円のバスカードを右手に振りながら、壁の広告を眺めていました。
普通男性の立ち姿というものは、両足の開き方がどこか角ばって、地面を掴むよう
にがちっと立っているものですが、奴の両足は足の内側の筋肉を全力でつっぱらせ、
そのくせ足元はそっと地面を踏む女性の立ち姿を取っていました。
足首から上とスカートから下の二本が描くアーチの線のやわらかさが、肉の固さを
補って余りある女性なのです。
飽きたのか、奴はまた左足を上に足を組んでもといた席に坐りました。
バスの揺れに合わせた揺れと、時折ぴしぴしとチラシをはじくほかは何もせず、
スカートから突き出た足を組んで坐っていました。
皆だまってそれぞれの前を見て坐っていました。バスは走ります。
信号をいくつか越えた停留所で私は降りました。奴は降りませんでした。
バスは私を追い抜いて、坂の上の自動車会社に続くネオンへまっすぐに走って
ゆきました。
この冬三度目の邂逅(年が明ける前、深夜の中央線にて)、同じジャンパー同じ靴
同じストッキングの男は、窓に頭をもたせかけることもなく、バスに運ばれて
町の奥へ消えてゆきました。
なめうさ母:「ハイヒールを履くと足がキュッ!と締まるのよ」
なめ:「実感しました」
:追記(帰宅して弟父親叔父を見て):
膝上20センチのスカートにも関わらず、太ももだけくっきりと見せ続けていると
いうことは、膝上20センチのスカートに堪え得る男性用下着、あるいは(勇気が無く自重)
もしかしたら(もっと自重)なのでしょうか。おそるべき重大な問題です。
この冬三度目の邂逅です。四度目は春一番かも知れません。
重たいコートにかばん、スーツで駅から降りると服から寒さがしみこんで、
どんどん重たく冷えてゆく夜でした。
一月電車のお供をした本を閉じてまだぐるぐると熱っぽい静かな興奮が
おさまらずにふと見るとバスが止まっています。歩けば大回りですが
バスならば5分ほどで過ぎてしまう道を通りたくなって乗り込みました。
奴がそこにいました。
12月5日の日記に書いた男は、ジャンパーの肘にコンビニの一番小さいビニール袋
をかけ、腕と足を組み目を閉じて優先席に腰掛けていました。
その、すらりと伸びたふくらはぎは、肌の色がほのかに透けて見える
黒いストッキングに包まれ、黒いプリーツスカートから始まり
白いピンヒールの先の尖った27センチの靴にはまったつま先で終わります。
奴は悠々と右の太ももに左の膝を乗せ、床についた足先をわずかに伸ばして
組んだ足が台形をきれいに描く形で坐っていました。
バスが走り出してしばらく、奴は鼻歌を歌いながら手すりにぶらさがったチラシを
指先ではじき、席を立ちました。そこまで背は高くありません。ただスカートから
突き出た太ももの太さが、女の子ならちょうどいいはずなのに、男特有の密度の
濃い固さのせいか妙におかしな気持ちになります。
丈は膝上20センチ。
カーキ色のジャンパーから鍵盤のように突き出たプリーツに乱れはなく、足を
取り囲むようにくるりと白いラインが染め抜かれています。
1000円のバスカードを右手に振りながら、壁の広告を眺めていました。
普通男性の立ち姿というものは、両足の開き方がどこか角ばって、地面を掴むよう
にがちっと立っているものですが、奴の両足は足の内側の筋肉を全力でつっぱらせ、
そのくせ足元はそっと地面を踏む女性の立ち姿を取っていました。
足首から上とスカートから下の二本が描くアーチの線のやわらかさが、肉の固さを
補って余りある女性なのです。
飽きたのか、奴はまた左足を上に足を組んでもといた席に坐りました。
バスの揺れに合わせた揺れと、時折ぴしぴしとチラシをはじくほかは何もせず、
スカートから突き出た足を組んで坐っていました。
皆だまってそれぞれの前を見て坐っていました。バスは走ります。
信号をいくつか越えた停留所で私は降りました。奴は降りませんでした。
バスは私を追い抜いて、坂の上の自動車会社に続くネオンへまっすぐに走って
ゆきました。
この冬三度目の邂逅(年が明ける前、深夜の中央線にて)、同じジャンパー同じ靴
同じストッキングの男は、窓に頭をもたせかけることもなく、バスに運ばれて
町の奥へ消えてゆきました。
なめうさ母:「ハイヒールを履くと足がキュッ!と締まるのよ」
なめ:「実感しました」
:追記(帰宅して弟父親叔父を見て):
膝上20センチのスカートにも関わらず、太ももだけくっきりと見せ続けていると
いうことは、膝上20センチのスカートに堪え得る男性用下着、あるいは(勇気が無く自重)
もしかしたら(もっと自重)なのでしょうか。おそるべき重大な問題です。
この冬三度目の邂逅です。四度目は春一番かも知れません。