えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

同居するひと

2010年04月17日 | コラム
同居人は今、隣で椅子に腰掛けている。かなり昔、友達から誕生日プレゼントにもらった
椅子は、角が擦り切れたりペンのしみがついていたりするけれども、足はがっちりしていて
揺らがないのが気に入ったようだ。肩から腰にかけてゆるやかな曲線で出来ている背中に
はまるよう、いちょうの葉に似たすぼまりが腰のあたりまで続く。腰掛けたあと、足を
広げやすくするためすえひろがりになった席が、同居人にはうまくはまるようだった。

一週間前、250円でひきとってからすぐこの椅子にすわり、そのまま坐り続けている。
煙がかった深い緑色は飽きない。つくりもののようにひきしまった硬さのある色だが、
外に出てくる緑色は表面に生えたわずかな白い和毛にはばまれて柔らかい。
とりあえず「カクさん」と名づけた。カクさんはくもひとでのように五指をもつトゲを
あちこちにはりめぐらせている。小指のつめくらいしかないトゲは横に広がっていて、
撫でやすそうだなあと指をつっこむと皮膚のすきまに針の先をひっかけて警告する。
あんまり触ってはほしくないらしい。

松葉色のこんにゃくゼリーを饅頭型につみかさねた、丸っこい形をしているくせに、
こんにゃくゼリーのヘソにはばっちりと針を生やしている。おまけにさっき眺めていたら、
ヘソのひとつに小さな小さな、消しカスくらいの子供がいた。子持ちなのも黙っていた
ところをみると、そこそこにちゃっかりしている。それでいて水をくれとも言わず、
ただ窓のそばを陣取って日に当たっていれば満足。ストイックなのかずうずうしいのか
よくわからない性格をしている。時々ゆすぶると、砂を針の間に引っ掛けてわずらわしそう
にじっとしている。

カクさんの住まいはコップで、親指と人差し指でつくった○くらいの大きさの植木鉢に
細かな石を敷き詰め、首から頭が出るくらい石で埋まっている。砂を半分ほど出して
しまえば4頭身くらいになるのにさっき気づいた。出してやろうかとも思ったけれど、
首まで埋まっているほうが愛嬌があるのでそのままにしておく。水色の椅子型ケータイ
ホルダーがお気に召したのか、コップの中で毎日ふんぞりかえっている。でも寒いと
緑が縮こまって灰色味が強くなる。はいはいと部屋の奥、タンスの上辺りに置いておくと
機嫌がよい。ひよこ用の電球でも買ってやろうかと思う。でもそれじゃあちょいと
日射しが弱いのだろう。なんてったって出自は砂漠だ。
緑といったら東洋文庫の背表紙くらいしかない本で乾いた私の部屋で、
カクさんは唯一の華やかな緑である。

追記:せっかくなのでカクさんの本名を調べてみた。「Coryphantha」という種類らしい。コリファンタと読む。いろんな種類に別れているが、詳細はどれだかわかっていない。
硬い炭酸飲料みたいで好かないので名前はカクさんに決定。
コメント
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