えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

『Free』 クリス・アンダーソン 2009年

2010年06月08日 | コラム
:Free 〈無料〉からお金を生み出す新戦略
クリス・アンダーソン 高橋則明訳 2009年 NHK出版

:立ち止まる視点

 日本語の副題はどうも違和感があってたまらない。『新戦略』なんて、本のどこにも書いていなかったからだ。副題「The Future of a Radical Price」直訳すると「革新的な価格の未来」となる。やっぱりなあ、と思った。監修した人も訳している人も、いつの間にか世界のスタンダードに取り残された(と思っている)自分の何もなさに驚いていて、副題のつけ方は、流行に一刻も早く乗らなければと焦る人をかきたてる。

 作者のクリス・アンダーソンは雑誌「ワイアード」の編集長で、かつては科学誌の「ネイチャー」と「サイエンス」の編集者もつとめていた。世の中やテクノロジーの流れを楽しみつつ、流れの行き先を冷静な視点で取り上げられる人だと思う。読者はアンダーソンの落ち着いた視点から、漠然とした現象をはっきりと見ることができるのだ。

 ここで言われるFreeとは費用からの自由、無料を指している。何かを無料で提供する手段を利用した商売は今に始まることではなく、無料サンプルなど身近な形で使われていることから話は始まる。成功の仕組みは、無料にすることで得たものをいかに生かしてお金につなげるかということだ。無料にすることで得るものとは、評判だ。評判と言う価値を利用しやすいことが無料の強みならば、インターネットはそれを膨大に、しかも簡単に集められる。インターネットで集められる評判をまた別の価値に変え、最後にお金に換えることが、フリーと言うモデルなのだ。このことを、グーグルやモンティ・パイソンやら数々の成功例を解き明かす鍵として丁寧に説明してくれている。

 本書はインターネットを主な舞台に広がるFreeをからめたビジネスモデルを、一度慌てずに眺めてみようよ、と呼びかけている。仕組みとして新しいことは無く、むしろ評価と言う価値の新しい捉え方を問いかけているのだ。ネクタイをゆるめてお茶でも飲みながら、まったり読むのがよいと思う。(800文字)
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