えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

風邪をひくとき

2017年09月09日 | コラム
九月は振り返ってもよく体を壊している印象がある。一応、気温の変動や天気の気まぐれといった原因はあるらしい。
とはいえ休まないで動き続けられた年のほうが少ないと近々を思い返して指を折った。
あまりうまく眠れなかったせいかもしれない。喉のかわきで目が覚めた。順々と体調は悪くなり夕方を迎えるころには
熱をぼんやり帯びた頭で何もまとめられずに家を目指していつもの道をたどっていた。その晩はのど飴をなめながら寝た。
次の朝に熱を測ると七度と少しあった。木曜日だったので医者は休みだったものの、歩いて出かけるのは大分億劫な仕事に
なっていたので家にいることにした。眠っても眠っても起きる。息が詰まって目覚めた。鼻を何度もかんでいた。
喉は相変わらず焼石を入れたように干からびていた。

金曜日は家を出た。喉の熱さに加えて鼻がすっかり詰まっていた。秋風も暑苦しいほど体に熱がこもっているが、
体温計の数字は低かった。電車に乗ると人いきれで頭が重くなる。マスクをつけた姿はどう見ても風邪ひきなものの、
外へ出なければならない日だったので優先席に座る。すっかり忘れていた。うとうとと数分すると電車が駅に停まり、
閉まる寸前に何かが乱暴にドアへ挟まった音がした。低い男が唸るように「殴ってやる、殴ってやる」と、ドアの側で
呻きだした。最近その車両のその席の近くにこの駅で乗り込み、次の駅に着くまで誰も誰かはわからない男へ延々と
約4分間自嘲ふうみの恨み言を言い続ける男のことを忘れていた。小心なのか狡猾なのか、彼の狼藉は電車の中だけで、
ドアを派手に殴りながら焦点を誰にも合わせずにがなりたてるだけで、まだ人の少ない区間だからそれができることを
理解しているかのように彼はドアへこぶしを何度もぶつけ、時に笑い声を立てながらパフォーマンスする。
周りは当然ながら巻き込まれてそのこぶしをぶつけられるのを避けるためにスマートフォンや窓の外へ目をやり、
座る人は目を閉じる。だが至近距離はまた別だった。ドアが殴られる振動が響く。耳をふさいで目を閉じると頭痛が増した
気がした。

その日も同じように彼は同じ駅で悪態をひとつ残して降り、入れ替わりに人がどっと増えた。熱気で頭が重くなりながら、
電車に乗り続けてその日の行き先に向かった。

結局医者に行ったのは土曜日の朝で、病名は「副鼻腔炎」だった。
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