足が遠ざかっていた店へ久しぶりに行く時に限って欲しいものがある。昔はついていると思っていたがこの頃は物に呼ばれているのではないかと思うようになった。
用事の帰りに本屋へ立ち寄り、ついでに近くのアクセサリーショップへ足を運んだ。店の前を通り過ぎる度に気にかけながら思い切ってディスプレイの一番良い場所に飾られているアクセサリーの購入を切っ掛けに、嫌な予感は薄々覚えていたが案の定物と、何より懇切丁寧かつ情熱的にアクセサリーとファッションを語る店員に絡め取られるように惹かれて気がつくと「最近あの店に行っていないな」と思う程度には予定の一部として頭の隅に残る場所になってしまっていた。今日も今日とて本屋の帰り、好きな作家がわずかに寄稿していた高額なムック本を片手にぶら下げてアクセサリーショップを覗きに行った。左手には店で買ったバングルが、透明なスワロフスキーの粒に日光を受け止めて白色に光っている。
店に入ると良く話す店員はカウンターの奥でおそらくパソコンだろうか視線を下に向け、わずかに眉間へ皺を寄せて何か作業に没頭していた。黒を基調とした服装の店員の多いこの店には珍しく灰色のジャケットとスカートの若い店員が他の客を相手をしている。声をかけるのも憚られたので私はショーケースに並べられたアクセサリーを端から眺めることにした。この店では輸入品を扱っており、定番として作られ続けている型も多いが、その年その時期だけ姿を現しては在庫がなくなると消える新作も多い。歴史の長いブランドなので復刻アクセサリーも数多い。値段は高騰した。特に原材料の貴金属の高騰が響いているとのことで、最近の新作は可能な限り貴金属の消費を抑えつつ豪奢な輝きを維持できるよう、唐草模様を組み合わせたようなすかし細工が目立っていた。ぼんやり円や鎖の連なりを眺めているともう一人の客が帰り若い店員がそれを見送っていた。彼女は客を見送ると私に笑顔を投げかけ、カウンターの奥へと滑り込む。いつもの店員がひまわりのような笑顔で現われた。
「お待たせしちゃってすみません」「いえお仕事のお邪魔をするわけにもいかないですし」「そんなことないですよ、どんどん声かけてください」「ありがとうございます」
繊細な線を雫が連なる形に整形したイヤリングの似合う若い店員が笑顔で会釈して離れていった。
「今日はもう、いい新作を見せたくて見せたくて」「どんなものでしょうか」「絶対似合うと思って、早くいらっしゃらないかなあと思っていたんですよ」「確かにこれは素敵ですね」「でしょう、久しぶりに紹介したい新作が出たんですよ。最近はガーリーなデザインが増えた中では珍しくて」「言われてみればこのところは女の子らしいデザインが増えましたね。それにこの間来たときも確かに新作は紹介されませんでした」「そうなんですよ。私はお客様に似合うものしか紹介したくないんです。これは絶対お似合いになると思っていました」
あえて艶を消した加工のおかげで金箔を貼ったチョコレートのような質感の、人差し指の第二関節ほどの大きさのイヤリングは店員の言うとおり私の肌合いや耳たぶの間隔を知っていたかのようにしっくりと嵌まった。
それから2時間近くお喋りを楽しみながら購入を迷う流れは、多くの店で経験しながらいつまでも変わらない私の物欲のままに滔々と私の判断を狂わせていった。私に似合うという自分の眼識を確かめたい店員の率直な願いに引きずられたのかもしれない、と、黒のワンピースに首から提げたプラチナの鎖型の首飾りを着こなす店員の輝く明るさが眩しかった。
用事の帰りに本屋へ立ち寄り、ついでに近くのアクセサリーショップへ足を運んだ。店の前を通り過ぎる度に気にかけながら思い切ってディスプレイの一番良い場所に飾られているアクセサリーの購入を切っ掛けに、嫌な予感は薄々覚えていたが案の定物と、何より懇切丁寧かつ情熱的にアクセサリーとファッションを語る店員に絡め取られるように惹かれて気がつくと「最近あの店に行っていないな」と思う程度には予定の一部として頭の隅に残る場所になってしまっていた。今日も今日とて本屋の帰り、好きな作家がわずかに寄稿していた高額なムック本を片手にぶら下げてアクセサリーショップを覗きに行った。左手には店で買ったバングルが、透明なスワロフスキーの粒に日光を受け止めて白色に光っている。
店に入ると良く話す店員はカウンターの奥でおそらくパソコンだろうか視線を下に向け、わずかに眉間へ皺を寄せて何か作業に没頭していた。黒を基調とした服装の店員の多いこの店には珍しく灰色のジャケットとスカートの若い店員が他の客を相手をしている。声をかけるのも憚られたので私はショーケースに並べられたアクセサリーを端から眺めることにした。この店では輸入品を扱っており、定番として作られ続けている型も多いが、その年その時期だけ姿を現しては在庫がなくなると消える新作も多い。歴史の長いブランドなので復刻アクセサリーも数多い。値段は高騰した。特に原材料の貴金属の高騰が響いているとのことで、最近の新作は可能な限り貴金属の消費を抑えつつ豪奢な輝きを維持できるよう、唐草模様を組み合わせたようなすかし細工が目立っていた。ぼんやり円や鎖の連なりを眺めているともう一人の客が帰り若い店員がそれを見送っていた。彼女は客を見送ると私に笑顔を投げかけ、カウンターの奥へと滑り込む。いつもの店員がひまわりのような笑顔で現われた。
「お待たせしちゃってすみません」「いえお仕事のお邪魔をするわけにもいかないですし」「そんなことないですよ、どんどん声かけてください」「ありがとうございます」
繊細な線を雫が連なる形に整形したイヤリングの似合う若い店員が笑顔で会釈して離れていった。
「今日はもう、いい新作を見せたくて見せたくて」「どんなものでしょうか」「絶対似合うと思って、早くいらっしゃらないかなあと思っていたんですよ」「確かにこれは素敵ですね」「でしょう、久しぶりに紹介したい新作が出たんですよ。最近はガーリーなデザインが増えた中では珍しくて」「言われてみればこのところは女の子らしいデザインが増えましたね。それにこの間来たときも確かに新作は紹介されませんでした」「そうなんですよ。私はお客様に似合うものしか紹介したくないんです。これは絶対お似合いになると思っていました」
あえて艶を消した加工のおかげで金箔を貼ったチョコレートのような質感の、人差し指の第二関節ほどの大きさのイヤリングは店員の言うとおり私の肌合いや耳たぶの間隔を知っていたかのようにしっくりと嵌まった。
それから2時間近くお喋りを楽しみながら購入を迷う流れは、多くの店で経験しながらいつまでも変わらない私の物欲のままに滔々と私の判断を狂わせていった。私に似合うという自分の眼識を確かめたい店員の率直な願いに引きずられたのかもしれない、と、黒のワンピースに首から提げたプラチナの鎖型の首飾りを着こなす店員の輝く明るさが眩しかった。