集英社文庫で、宮城谷昌光の『青雲はるかに』を読んだ。大望を抱いた貧しい男・范雎(はんしょ)は、学問を基に諸国を巡るが仕官の道を得られず、空しく故郷に帰ってくる。故国でただ一人理解し待っていてくれた友人の妹の病を救うべく、意に沿わない仕事に就くが、そこで冷酷な魏の宰相・魏斉により無実の罪に落とされる。無残に鞭打たれ、厠室に投げ込まれて蛆虫の餌食になるところを、死の寸前で救われた范雎は、じっと身を潜めて気力と健康の回復を待つ。彼を救ったのは、不幸にも魏斉の妾とされていた最愛の女性・原声と、楚の貴族の娘でありながらひたむきに范雎を愛する女性・南芷らであった。やがて、友人らの奔走で魏を脱出することができ、張禄と名を変えて秦の昭襄王の知遇を得、徐々に秦の政治を変えていく。一つ、また一つと魏の領地を少しずつ蚕食するように削り取る秦の背景には、范雎のたぐいまれな戦略眼があった。ついに秦の宰相となり、仇敵・魏斉の手から最愛の女性・原声を奪い返し、魏斉を倒し復讐を果たす物語である。
いろいろな復讐の物語があるが、デュマの『モンテ・クリスト伯』の復讐は後半かなり陰惨な色を帯びてくる。物語の描き方は、そこまでするか、という気がするときもある。ただ、克明に描かれてはいないが、実際には『青雲はるかに』における復讐のほうが、多くの戦役を経て実現されているわけで、死傷者の人数はずっと多いのだろう。白起将軍の残虐行為などは、目をおおいたくなるほどだ。本書は、読後の爽快感があるだけに、そのことを見失いやすいように思われる。
写真は、九龍側から見た香港島の夜景。
いろいろな復讐の物語があるが、デュマの『モンテ・クリスト伯』の復讐は後半かなり陰惨な色を帯びてくる。物語の描き方は、そこまでするか、という気がするときもある。ただ、克明に描かれてはいないが、実際には『青雲はるかに』における復讐のほうが、多くの戦役を経て実現されているわけで、死傷者の人数はずっと多いのだろう。白起将軍の残虐行為などは、目をおおいたくなるほどだ。本書は、読後の爽快感があるだけに、そのことを見失いやすいように思われる。
写真は、九龍側から見た香港島の夜景。