二銭銅貨

星の数: ☆良い ☆☆すごく良い ☆☆☆激しく良い ☆☆☆☆超激しく良い ☆☆☆☆☆ありえない

高慢と偏見/ジェーン・オースティン(富田彬訳)

2010-07-16 | 読書ノート
高慢と偏見/ジェーン・オースティン(富田彬訳)

岩波文庫

人の心の動きを繊細に、心情的に、美術的に表現して行くのが心理小説というものだと思うけれども、本作はそれをロジカルに綿密に検討している点が特徴だ。この作者自身が普段からそういう思考をしていると思われ、それは興味深いことだ。この人は情動と論理的考察が、同時あるいはそれに近い形で心の中で機能するような人なんじゃないかと想像したが、そのような人は少ないと思うので、そういう人が居るということ自体がおもしろいと感じた。

普通、人は情動に動かされて行動しながら、その上に論理的考察が乗っかっているように思われ、また、その情動と理性は同時には働かないように思う。たとえば、ある一定時間怒り狂って怒鳴りちらした後、少し時間が経過して、落ち着いて来た所で理性が働くというようなケースである。こんな風に理性と情動はタイムシェアリングで交互に出て来て機能することが多いと思う。けれども、この小説では情動に基づく行動と論理的な考察が分離して同時に並列処理されているかのように見える所が面白い。仮に交互に出て来るとしても、その交代時間が短い。論理的考察は常に心に常駐し情動をモニターしているかのようである。

普通ロジカルに心理を考察すると小説として成立しなくなるし、一方で芸術を志向して小説を書くと論理的で無くなるように思う。芸術とは情動に基づくものであり、また論理は物理科学の基礎だから、普通はこの両者は両立しないと思う。だから、この小説の論理的な基礎は面白いとい思う。
内容は出来損ないの少女マンガのようだし、表現も素朴と言うか幼稚だけれども、この小説が評価されている事の1つはそれだと思う。

これを20代前半の女性が書いたことは驚きだ。

この作品が評価されるもう1つの特徴は、作品全体に流れる荒削りだけれども若々しく荒々しいチャレンジングな特質だと思う。この特徴は、こうしたデビュー前の若い女流作家の作品に共通しているようにも思う。むやみに自信に満ち怖いもの知らずで、一直線に暴走している感じだ。まさに作品自体が高慢と偏見なのだ。

10.07.16
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする