二銭銅貨

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高慢と偏見/ジェーン・オースティン(富田彬訳)

2010-07-16 | 読書ノート
高慢と偏見/ジェーン・オースティン(富田彬訳)

岩波文庫

人の心の動きを繊細に、心情的に、美術的に表現して行くのが心理小説というものだと思うけれども、本作はそれをロジカルに綿密に検討している点が特徴だ。この作者自身が普段からそういう思考をしていると思われ、それは興味深いことだ。この人は情動と論理的考察が、同時あるいはそれに近い形で心の中で機能するような人なんじゃないかと想像したが、そのような人は少ないと思うので、そういう人が居るということ自体がおもしろいと感じた。

普通、人は情動に動かされて行動しながら、その上に論理的考察が乗っかっているように思われ、また、その情動と理性は同時には働かないように思う。たとえば、ある一定時間怒り狂って怒鳴りちらした後、少し時間が経過して、落ち着いて来た所で理性が働くというようなケースである。こんな風に理性と情動はタイムシェアリングで交互に出て来て機能することが多いと思う。けれども、この小説では情動に基づく行動と論理的な考察が分離して同時に並列処理されているかのように見える所が面白い。仮に交互に出て来るとしても、その交代時間が短い。論理的考察は常に心に常駐し情動をモニターしているかのようである。

普通ロジカルに心理を考察すると小説として成立しなくなるし、一方で芸術を志向して小説を書くと論理的で無くなるように思う。芸術とは情動に基づくものであり、また論理は物理科学の基礎だから、普通はこの両者は両立しないと思う。だから、この小説の論理的な基礎は面白いとい思う。
内容は出来損ないの少女マンガのようだし、表現も素朴と言うか幼稚だけれども、この小説が評価されている事の1つはそれだと思う。

これを20代前半の女性が書いたことは驚きだ。

この作品が評価されるもう1つの特徴は、作品全体に流れる荒削りだけれども若々しく荒々しいチャレンジングな特質だと思う。この特徴は、こうしたデビュー前の若い女流作家の作品に共通しているようにも思う。むやみに自信に満ち怖いもの知らずで、一直線に暴走している感じだ。まさに作品自体が高慢と偏見なのだ。

10.07.16
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男と女

2010-07-03 | 洋画
男と女 ☆☆
Un homme et une femme
1966 フランス、カラー、横長サイズ
監督・脚本:クロード・ルルーシュ、
脚本:ピエール・ユイッテルヘーヴェン
出演:アヌーク・エーメ、ジャン・ルイ・トランティニャン

粗い画面の中、
テスト・コースを疾走するレースカーとF1、
走行前の車両の爆音、
ルマンを走りぬけるムスタングのエンジンの唸り、
モンテカルロ・ラリーの夜道、
雪道を走り抜けるラリーカー。
カーレーサーが主人公の1人でジャン・ルイ・トランティニャン。
映画のスクリプターが女主人公でアヌーク・エーメ。

ラリーのナビゲータとスクリプターが同じだという趣旨で、
両方のカットが交互に繰り返すシーンがあったりして、
それが恋愛の高まりを表現するようにできている。

2人の子供が出て来て、その仲の良さは、
それぞれの両親の恋愛に重ねられていて、
この映画の恋愛の甘さを出す甘味料になっている。
4人の歩く海岸のシーンは印象的だった。

全体に物語は少なくて、イメージと音で作られている。
エンジンの爆音、ベッドのシーツの音、ラジオのアナウンサーの語り、
様々な音が効果的に使われている。
低予算映画らしく、音楽の録音の音質が良くないと感じたが、
その音楽と効果音とが良くマッチして、
逆に音質の悪いことが効果的だったかも知れない。

どの映像も構図が美しく画面も美しかったけれども、
音質と同様に画質は良くなかった。
これがこの映画の特質だと思った。

ベッドシーンではやけに音の大きいシーツの音に、
かすかな風の音が重ねられているような感じた。
そら耳かも知れないけれど、
この恋愛の微妙な隙間を表現しているように思った。

Wikiによるとテスト・コースのレース・カーはフォードのT40というものらしい。

10.06.19 シネコン映画館(午前十時の映画祭)
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