こんなオフィス街で、同じ時間、
目の前を、体を傾けて歩く老人がいる。
私は仕事帰り、いつもその老人を追い越して行く。
「あんな体になるまで、生きていたくない。」
いつも、そう思いながら見ていた。
ところがある日、老人の身なりが、
こざっぱりしている事に気づいた。
斜めがけの黒いバッグも、スニーカーも、
チェックのシャツも、パンツも、決して年寄りくさくなく、
みな清潔な物ばかりだった。
侮れない
もしかすると、この老人は、
このオフィス街のどこかで、働いているのかもしれない。
体が傾いているから、辛そうに見えていたが、
思い込みは、いけない。
私より、自立しているのかもしれない。
結婚するなら
人は、結婚より先に、自立する事が大切だ。
もし結婚するなら、経済力というより、
自活力のある男とした方がいい。
ただ、金持ちなのではなく、
生き抜く能力に優れた男がいい。
これは、今の私の切実な気持ちだ。
私が、あの人を忘れられないのは、
あの人の中に、わずかな理想を見ているからだ。