ノーブル・ノーズの花の穴

麗しき本音のつぶや記
~月に1度ブログ~

500mlのライフワーク

2014-08-20 11:07:35 | Weblog

「あっためないの?」
病院の飲食ルームで、持参の弁当を食べようとしたら、
向かいのおじさんに聞かれた。

空いていたカウンター席は、座りにくいので、
「ここで食べてもいいですか?」と、
私が先に、声をかけていた。

近くの売店に、電子レンジがあって、使用可らしい。
長年、来ている病院なのに、知らなかった。

「いいねぇ。」
おじさんは、私のボトルを見て言った。
「ただのムギ茶ですよ。」

おじさんは、透明容器に入った、
うどんと野菜炒めを食べていた。

「自分で、作ってるんですか?」
「外食、ダメだから。」
「体…、ですか?」
「透析してるから。」
「あー。私は、お金が無いので、外食しないんです。」

弁当持参の理由も、病気のレベルも、
全く違うものだった。

「1日に、500mlしか飲めない。」
「えっ!! 夏でもですか?」
「オシッコ、出ないから。」
「それは、キツイ…。」
「慣れたけどね。」

おじさんが、「いいねぇ。」と言っていたのは、
目一杯入っている、「量」の事だったのだ。

おじさんの前にある、
小さなペットボトルに分けられた、水とほうじ茶は、
昼間だというのに、両方とも、3分の1を切っていた。

「ビール、飲みたいねぇ~。」
明るく笑う。

顔色も悪くないし、特にやせてもいない。
一見、普通に見えるのに、重症なのだ。

「4時間かかるから、寝てるよ。」
「本とか、読めないんですか?」
「片腕伸ばして、管刺してるから、本持てない。
TVは見られるけど、疲れるから寝てる。」
「痛いんですか?」
「管を入れる時は痛いけど、その後は別に…。」

それから、飲んでる薬の話などした。

「じゃ、行くね。」
透析に向かい、おじさんは立ち上がった。
これがライフワークだ、とでも言うような、
当たり前の後ろ姿だった。

私は、自分が言われて、一番嫌な言葉を、
おじさんに向かって言った。

「頑張って下さい。」

オシッコが出るのは、当たり前じゃない。

いつも疲れて、やる気が出ないし、
今月から、謎のしっしんが出て、すごくかゆい。
皮ふ科に行っても、治らないのだが、
それでも私は、あのおじさんより、健康なのだろう。

水は、好きなだけ飲めるし、アイスも食べる。
お金も無いのに、スタミナつける為に、
ステーキランチを食べたりもする。

カクテル飲んで吐いても、
トイレで休めば、歩けるまで回復するし、
鉄剤飲んで、負担がかかっているはずの肝臓も、
アルコールを分解してくれる。

私が払っている健康保険。
あのおじさんに、お金を回してあげて。

私は、弁当をあっためようと思うほど、
頻繁に、病院に行ってるわけじゃない。

いつも、老人や病人にはげまされている、
弱っちい私って、何なんだ…。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 行きは酔い酔い 帰りは怖い | トップ | 洗脳につける薬は無い »

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事