「あっためないの?」
病院の飲食ルームで、持参の弁当を食べようとしたら、
向かいのおじさんに聞かれた。
空いていたカウンター席は、座りにくいので、
「ここで食べてもいいですか?」と、
私が先に、声をかけていた。
近くの売店に、電子レンジがあって、使用可らしい。
長年、来ている病院なのに、知らなかった。
「いいねぇ。」
おじさんは、私のボトルを見て言った。
「ただのムギ茶ですよ。」
おじさんは、透明容器に入った、
うどんと野菜炒めを食べていた。
「自分で、作ってるんですか?」
「外食、ダメだから。」
「体…、ですか?」
「透析してるから。」
「あー。私は、お金が無いので、外食しないんです。」
弁当持参の理由も、病気のレベルも、
全く違うものだった。
「1日に、500mlしか飲めない。」
「えっ!! 夏でもですか?」
「オシッコ、出ないから。」
「それは、キツイ…。」
「慣れたけどね。」
おじさんが、「いいねぇ。」と言っていたのは、
目一杯入っている、「量」の事だったのだ。
おじさんの前にある、
小さなペットボトルに分けられた、水とほうじ茶は、
昼間だというのに、両方とも、3分の1を切っていた。
「ビール、飲みたいねぇ~。」
明るく笑う。
顔色も悪くないし、特にやせてもいない。
一見、普通に見えるのに、重症なのだ。
「4時間かかるから、寝てるよ。」
「本とか、読めないんですか?」
「片腕伸ばして、管刺してるから、本持てない。
TVは見られるけど、疲れるから寝てる。」
「痛いんですか?」
「管を入れる時は痛いけど、その後は別に…。」
それから、飲んでる薬の話などした。
「じゃ、行くね。」
透析に向かい、おじさんは立ち上がった。
これがライフワークだ、とでも言うような、
当たり前の後ろ姿だった。
私は、自分が言われて、一番嫌な言葉を、
おじさんに向かって言った。
「頑張って下さい。」
オシッコが出るのは、当たり前じゃない。
いつも疲れて、やる気が出ないし、
今月から、謎のしっしんが出て、すごくかゆい。
皮ふ科に行っても、治らないのだが、
それでも私は、あのおじさんより、健康なのだろう。
水は、好きなだけ飲めるし、アイスも食べる。
お金も無いのに、スタミナつける為に、
ステーキランチを食べたりもする。
カクテル飲んで吐いても、
トイレで休めば、歩けるまで回復するし、
鉄剤飲んで、負担がかかっているはずの肝臓も、
アルコールを分解してくれる。
私が払っている健康保険。
あのおじさんに、お金を回してあげて。
私は、弁当をあっためようと思うほど、
頻繁に、病院に行ってるわけじゃない。
いつも、老人や病人にはげまされている、
弱っちい私って、何なんだ…。
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