ヌマンタの書斎

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国産ロケットはなぜ落ちるのか 松浦晋也

2009-08-21 12:19:00 | 
そろそろ理系だ、文系だと分けるのは止めたほうがいいのかもしれない。

私自身は文系なのだが、実は理系の勉強は嫌いではない。文系を選んだのは、大学では経済学部を受験するつもりだったからだ。本当は史学を学びたかったのだが、社会に出たら民間の会社で働くつもりだったので、経済を理解することが必要だと考えて、好きな歴史を学ぶことを断念した。

ただ、理工系の勉強もけっして嫌いではなかった。化学や物理などは、まさに知的な面白みがあって、やりがいの有る分野だと認めていた。きわめて実証的な点も、私の知的好奇心を満足させたからでもある。

ただ、いささか数学が苦手だった。これは落ちこぼれだった中一、中二の頃に数学を一切勉強しなかったことのツケでもある。理系を選ばなかった遠因に、数学に対する苦手意識があったことは否めない。

もっとも高校の授業レベルの数学なら、好んで予習していたし、幾何などは面白いと思っていた。ただ大学受験の数学は、いささかつまらなく感じていた。多分、数学はもっと面白いはずだとも思っていた。

そう思いながらも、理系を避けたもう一つの理由は、勉強が大変だと聞いていたからだ。大学を社会に出るまえのモラトリアム(猶予)期間だと考えていたので、実験や論文書きに追われるのも、いささか気が重い。

高校時代の友人のMは「理系に行ったら遊べない」の一言で文系選択を決めた。私より数学的センスは良かったと思うが、きわめて現実的な奴なので、遊ぶために有効な選択をしたようだ。むろん、私も同類である。

大学時代に遊び呆けたことは悔いてはいない。私の場合、遊び=登山(WV部)だったが、まさに学生時代にしか出来ない贅沢(時間的、体力的にだが)な遊びであった。

ただそれでも、理工学関連の知識教養の必要性は年々感じるようになった。もし、頭の柔軟な学生時代に理工系の学部を選んでいたのなら、今よりもずっと理工的なセンスは高まっていたはずだと思うと、いささか悔いることはある。

現代社会はきわめて複雑だ。とりわけ大きな社会的変化に対応するためには、広範囲な知的センスが求められる。日本の場合、明治時代の半ばを過ぎてからは、圧倒的に文系(法学部系)のエリートが社会を主導してきた。

その伝統は今も変らずで、霞ヶ関のエリート官僚はもちろん、永田町の政治家も大学は文系出身者であふれている。安定した社会を統治するのには、この文系エリートたちに任せることは、それなりに有効であったと思う。

文系エリートは、模範解答の決まっている問題ならば、それがいかに複雑でも的確に答を導き出すことに長けているからだ。それが社会の安定につながる。

しかし、未知の分野に打って出ると、文系エリートはいささか心もとない。失敗を恐れ、未知の状況には近似値をもって判断し、過去の実績で解決を図ろうとする。

これが理工系のエリートなら違った解決法を模索する。現実を的確に捉え、実際のデーターから理論を構成して、予測と反証により新たな解決策を練り上げる。

この違いが、日本と共産シナとの宇宙開発に現われた。共産シナの政治指導者は、驚いたことに圧涛Iに理工系の人材で溢れている。宇宙開発のような分野では、理工系の知識、教養、理解力が求められる。

日本の場合、政治家も官僚も圧涛Iに文系であるため、先例(アメリカ)の後を追い、その流れに追随することを志向する。しかし、シナの政治家はもっと現実的だ。自分たちの経済規模、技術レベルに合わせて考え、最適な計画を練り、その実現に尽力をつくす。その結果が今の現状に表れる。

私も表題の本を読んで改めて認識したが、アメリカのスペースシャトル計画は失敗だった。あのやり方であるがゆえに、膨大な予算を無駄に遣い、人材と資源を浪費した。もちろん幾つかの成功例もあるが、当初の見込みからは程遠いことは認めざる得ない。

そのアメリカの宇宙計画に追随した日本も、無駄に予算を遣い、何度もロケットを墜落させる羽目に陥ったことも必然とさえ言える。更に霞ヶ関式の人事異動の慣習の持ち込みが、人材育成を妨げ、理工系のセンスのない政治家たちが、宇宙計画を無駄に拡張して失敗の原因をひろげる。

かくして、日本の宇宙計画はおおいに停滞し、シナはいまや月に届かんとしている。その原因は、著者の言うように、文系偏重の歪みであることは、かなりの説得力を持つ。興味がありましたら是非ご一読を。
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4 コメント

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Unknown (kinkacho)
2009-08-21 12:47:58
ヌマンタさん、こんにちは。
筋金入りの文系のkinkachoです。おかげでつぶしのきかない東洋史学なんぞを専攻してしまいました。およそ大学で学んだことは実生活で役に立ちません。
でも、高校が進学校だったので、文系でも数Ⅲまで必修で、化学Ⅱやら生物Ⅱもやらされました。こっちの方は何かと役立ってます。
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Unknown (セレンディピティ)
2009-08-22 02:10:35
先日、理系・文系の格差について取り上げられている本を読んだばかりでしたので、興味深く記事を拝読しました。
私も周りでも、密かに子供には将来文系に進んで欲しいと思っている親御さんが少なからずいます。その方が結局得である…と。でもこのまま理系離れが進むと、技術立国である日本の将来はどうなるのでしょう…と心配です。
アメリカでは、理工系の大学にもビジネススクールがありますが、日本でも、理系のセンスを持った政治家や官僚がもっと出てくれば、おもしろくなるのになあと思います。
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Unknown (ヌマンタ)
2009-08-22 13:19:32
kinkachoさん、こんにちは。専門分野の深みと、広い見識の双方がバランス良く必要なのでしょうね。私が雑学知識先行型でしたが、今の仕事について専門知識の必要性も実感しています。一方、実務に役に立たなくても、見識を深める知識はあってもいいと考えています。
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Unknown (ヌマンタ)
2009-08-22 13:26:31
セレンディピティさん、こんにちは。子供の将来を考えると、文系を勧める親の気持ちも分りますね。現状では文系(事務方)偏重であるのは事実ですから。

日本でも理工系がもてはやされた時期もあったのですが、バブル崩壊とともに減少傾向にあります。新しい分野に挑もうと思ったら、理工系のセンスは絶対に必要だと考えています。文系は失敗と分っても、前例を平然と踏襲する悪癖がありますから・・・
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