ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

牡蠣礼賛 畠山重篤

2009-02-23 13:08:12 | 
ゴルフ場の綺麗なグリーンをみて、自然は素晴らしいなどと言わないで欲しい。

綺麗に刈りそろえられたゴルフ場の芝は、その芝を管理する苦労の成果でもある。除草剤を撒き、肥料を与え、草刈機で整備しなければ、とてもじゃないがあのような美しい芝生は維持できない。

あれは自然とは程遠い、人工的な風景そのものなのだ。ゴルフ場だけではなく、牧草を食む牛たちののどかな風景が拡がる牧場だって、やはり人工的な存在だ。意図的な努力なくして、あのような不自然な風景はありえない。

高度成長期に数多作られたゴルフ場と牧場が、海から豊かな自然を奪った。伐採される以前の原始の森では、栄養豊富な土壌が育まれ、それが雨により大地に浸み込み、やがて川の流れにしたがい海にたどり着く。

栄養分豊富な川の水は、海に流れ込むと大量のプランクトンを繁殖させる。このプランクトンを餌に、ニシンや牡蠣が大量に育つ。

かつて豊かな森を構えた北海道の沖合いには、ニシンがあふれ、その漁獲で御殿が建ったと言われる。河口域には牡蠣が大量に育ち、豊かな海産物を提供し、水の浄化に役立った。

しかし今、北海道の海からニシンは消え去り、牡蠣は激減した。観光客が綺麗と声を上げる牧場や、ゴルフ場では森の代わりになりはしない。森を伐採したことで、豊かな海が失われた。

皮肉なことに、牧場やゴルフ場にするには起伏が激しすぎ、また地形も複雑で開発に取り残された三陸では豊かな森が残された。この森が豊かな海洋資源を支えてくれた。

表題の本の著者は、「森は海の恋人」と宣した植林運動の提唱者として知られる。三陸の豊かな海を守るには、なにより山に木を植えることが必要だと考えて、それを実践してきた。山村の子供達を浜に呼んで、海の幸に触れさせて、山を守ることが海を守ることだと教えた。

その活動は多くの賛同者を呼び、水産庁の研究機関や民間の養殖業者たちの間を駆け巡る。私はこの本を読んで、日本の牡蠣がフランスやアメリカ、タスマニアで移植されて、多くの人たちの味覚を楽しませていることを知った。

ゴルフ好きの方には申し訳ないが、ゴルフ場は自然破壊の一つのかたちであることは、頭の片隅に置いて欲しい。率直に言って、日本にはゴルフ場が多すぎる。なにも産まないと思われた山林が、実は豊かな海の幸を育んでいる実情を知って欲しい。

あの美味しい牡蠣は、森の恵で育つ。森に感謝して牡蠣を食べよう。美味しさ、ひとしおだと思う。
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2 コメント

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Unknown (タク)
2009-02-24 16:23:50
遅ればせながら、また書きます。
以前、畠山さんに実際にお会いしたことがあり、今も年賀状をいただきます(取材でしたが)

山に木を植える運動もすばらしいですが、マスコミに取り上げられない活動がまたすごいです。
自前で和船を造り、山間部の子供達を招き、船に乗せ養殖いかだまで連れていく。そして海の素晴らしさ、山と海の繋がりを一生懸命説くのです。
子供達と畠山さんの心を通わせた風を見てたこっちの胸が熱くなりましたっけ。
素晴らしい方だ、と、本気で思います。

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Unknown (ヌマンタ)
2009-02-25 12:26:31
多分、タクさんはご存知だろうと思っていたのですが、実際に面識があるとはさすがです。この本にも、山間部の子供たちとの交流の話は書かれていました。このような実地教育は、本当に大事だと思います。この情熱が、日本に限らず世界でも通じたのですから、本当に素晴らしいです。
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