読み終えると、背筋を伸ばし、凛とした気概を持つことを自らに課したくなる作品だ。
短編集なのだが、この原稿が書かれたのは太平洋戦争中であったそうだ。原稿用紙にも物資不足の影響で不足する時代、そのせいか文章は切り詰められ、無駄な文章がない。
だが絞り込まれた文章から描き出される侍の時代における妻や母たちの暮らしの厳しさは、清貧などという言葉ではとても言い尽くされない。
近代に入り人権思想が至上の価値観とされ、男女平等が当たり前のこととされた私だと、封建時代の女性の置かれた立場に違和感を感じない訳ではない。おそらくこの作品が発表されて以来、ウーマンリブ運動家や進歩的文化人から誹謗されたこともあったと思う。
時代が違うのに、異なる価値観で過去を誹謗することは滑稽だと思う。私自身、子供の頃から成人に至るまで、男女平等こそ正しいと教わり、江戸時代のような封建主義の価値観はおかしいと刷り込まれた世代である。
だから、この作品で描かれる女性たちの姿に、ある種の憤りに近い感覚がない訳ではない。でも読後に貧しさの中でも妥協せず、厳しい生き方を自らに課した女性たちへの畏敬の念が生じるのは避けられない。
このような妻、母がいたからこそ、日本は近代化に成功し、欧米の侵略に抗しえたのだと思う。時代が違えど、彼女らの生き方を尊敬せざるを得ないのは、人として自然な感情だと思う。
日本の今日があるのは、過去の積み重ねの成果である。外国から賞賛される日本の豊かさ、公正さ、清廉さを育んだのは、貧しい中でも守るべき矜持を持ち続けた家庭があったからだ。その家庭を支えてきた主役が、妻であり、母であった。
最近は専業主婦をバカにする輩が増えていると聞いているが、そのような輩こそ読むべき作品だと思いますね。
ちなみに、この作品は直木賞を受賞したのだが、周五郎はあらゆる文学賞を辞退しており、あくまで大衆小説作家であることを自らの矜持として、その生涯を終えています。
貧しかろうと、金持ちであろうと、心の持ち様こそが大切であることを語らずして分からせてくれる作品でもあると思うのです。未読の方は是非とも目を通して欲しい作品です。
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