入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

       Ume氏の入笠 「冬」番外編(10)

2014年12月13日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 入笠も少しづつ変わっていく。しかし、冬の伊那側を訪れる人は稀で、その自然は今もあまり時代の波には影響を受けていない。この美しいUme氏の作品を見れば、それが分かる。ただしここへきて、入牧頭数は激減した。牧場の存続や美しい景観は常に危機にある。
 この写真が撮影されたのは実はかなり以前のことで、場所は北門を入って左手、第3牧区西斜面一体だ。幸運に恵まれた、ということではない。撮影者のこの山や森や林への深い愛着、そして磨かれた技量と自然がマッチしたのだと言いたい。
 入笠牧場の今の平穏な環境を守りたいと願いつつも、やはりあの人やこの人、彼や彼女、この雪景色や星空を見せたい人、連れてきたい人がいる。来て欲しい人たちがいる。

 夕暮れ、なるべく風の当たらない平地を選び、重いザックを下ろす。しっかり雪を踏みしめてからテントを張る。かじかんだ手で雪を落とし、中に落ち着く。
 ザックの中から必要な物を取り出し、雪で湯を沸かす。冬の単独の山では、ウイスキーの消費を抑えるためにお湯割りと決めている。クラッカーにチーズを塗り付け、ウイスキーを舐める。苦くて渋い琥珀の液体が、喉を焼く。「ウイスキーよりビールがいい」と言ったら、「過ぎた望みだ」と叱ってくれた男がいた。無事帰ってきたら結婚すると言って出掛けた海外の山から、彼は帰ってこなかった。
 ゴウゴウと力強い音を立てて燃えだしたラジュウスがテント内を暖め、コッヘルの湯が沸騰する。ほのかな酔いに安堵感が広がると、睡魔と疲労感も一緒になってやってくる。味噌漬けにした豚ロースをスライスし、茹でたラーメンに放り込む。外の風の音を気にしながら、それを噛み、啜る。
 深い森の中の雪原に夕闇が迫り、オレンジ色のテントに灯が点る。無音の闇とともに長い夜が、また始まる。

 山小屋「農協ハウス」の冬季営業に関しましては、11月17日のブログをご覧ください。12月5日、9日のブログも参考にしてください。
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