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Photo by Ume氏
午前5時半、気温5度、曇天。別に決めてはいないが、ここでの毎日は大体この時間に目が覚めて始まる。この間の5日間続いた撮影のせいだろう。まだそれがもう1日残っている。
夜は酒が入るし、それで疲れも出るから、夢遊病者とあまり変わらないような気分で時の過ぎるに任せ、寝たい時に寝てしまう。それも大体自分の意志というよりか身体の命令に従って布団を引き、そうすれば、あまり時間をかけずに眠りに入り、一日は終わる。
もちろん、食事の支度や、入浴などもすれば、洗濯もして、夢遊病者なりに山の暮らしに遺漏のないよう努力はしているつもりだ。
やはりこの時季は、朝がいい。春宵一刻値千金などと言っても、牧の夕暮れはもう少し季節が進んでからの方が良く、今はゆっくりと日が昇ってくるのを待ちながら茶など喫しつつ最愛の人・牧の目覚めを待つ。クク。
古来稀なる年齢を過ぎた者が「最愛の人」などと呟けばさぞかし滑稽だろうが、幾つになってもそういう気持ちはどこかにある。現実にではないにしても、またその資格のない者でも、おとぎ話のようなもので、これは心のビタミン剤とでもいうことにしておこう。
小入笠の上に雲を透かして日がようやく顔を出した。幾種もの鳥の声が聞こえてきて、その声がいっそう静寂を深める。囚われの鹿たちはまだ眠っているのか姿を見せない。
きょうは、昨日40本以上打ち込んだグラスファイバーの支柱に、リボンワイヤーと呼んでいる通電用の電線を取り付ける作業が待っている。第1牧区を囲む電気柵の一部300㍍くらいの距離に張られていたそれを撤去して、新たな場所に設置する。
この電気柵は鹿対策用に県が実験的に設置した。以来、その効果は不明ながらも、保守にはどれほどの手間をかけたか分からない。夏は漏電対策のためキロメートルを越える下草刈り、冬は雪による折損の恐れがある場所を撤去し、春になればまたそれを立ち上げる・・・、電圧が落ちれば点検、修理、こういうことを何年もずっと繰り返してもきたのだ。
意外なことに、ふと、そのままそこに残しておきたいという気持ちが湧いてきたのには自分でも驚いた。長年愛用した軽トラを廃車にするようなもので、この場所に電牧はなくなるし、もう再び張られることはない。
しかしそういうふうに、ここに存在するものは自然だけでなく、この電気柵や小屋のような人工的な物も含め、様々なものに愛着を持っていることを改めて識った、識らされた。
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本日はこの辺で。