カーテンの隙間から薄日が射しこんでいる。午前7時、いつもよりか遅くまで眠った。気温は13度、窓を開けっ放しにしていても寒くない。今朝も遠くの林から小鳥の声がよく聞こえてきて、いつもの静かないい朝だ。
権兵衛山の山頂も見えている。入笠山と権兵衛山の鞍部になる「仏平(ほとけだいら)」を抜けてくる気流によって権兵衛山の山腹に霧が生まれ、時にはアラスカの森も覆いつくす。今朝はそこまでのことはない。しかも時々雲の間から鋭い朝日がこの部屋の中にまで入ってくるくらいだから、大雨の予報は出ていても、午前中は保つだろう。
一夜の雨で靄のような緑の衣が落葉松の樹幹を少しづつ隠し始め、白樺はどの木も黄緑の葉をさらに磨き、その中に山桜だけが薄桃色の衣を替えずに見えている。
きょうは里に下る。小屋の登り段は昨日の中に修理できたし、雨の来る前にもう少し第2牧区の草刈りをしたら、何日ぶりになるのだろう、放ったらかしのままになっているわが陋屋へ帰るつもりだ。
ただ、それも切ない話ながら、ここに落ち着いてしまえば、誰もいない家は親しみの薄れた無機的な家になり、雑草に紛れた幾種類かの山野草の様子を見る、その程度のことぐらいしかひと冬、5か月を過ごしたはずの家に用はない。待ち続けてくれた人に冷淡な対応しかできないような、そんな思いがあの家に対してもして、不人情さを責められている気がしないでもない。
今、この牧場で最も早く咲くヤマナシの花の様子を見にいってきた。多くの蕾がここまで膨らんで、よく見るとすでに咲き始めた花もある。数日で満開になり、それから10日ぐらいか、いやもっとか、コナシの花が白い幾つもの縞状の帯となって放牧地を飾るはずだ。
昨夜、9日入牧は早過ぎないかと畜産課長が心配して電話してきた。調べたらもっと早い入牧の日もあったし、大丈夫。ホルスでも和牛でもたくさん上げてこい、だ。
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本日はこの辺で。