へそ曲がり、他の牛はすぐ傍の塩場へ集まっているのに
なぜ突然にこの呟きを中止したのかと、幾人からか問い合わせの電話を頂戴した。身体を悪くしたのかと、心配してくれる人もいた。確かにこの年齢で一人だけで山の中に暮らしていれば、思いがけないことも時には起こりうる。
しかし体調に格別の変化はなく、相変わらず牛の世話をしたり、牧柵の修理などをしながらいつもの秋を、変わらぬ日々を送っていた。
ところが或る日、これまでのように風が吹いた、空が広い、鳥の声がする、牛が、鹿が、どうしたこうしたというようなことを呟く気力をすっかり失ってしまうような出来事があった。あったが、そのことについてここでは触れないでおきたい。
気持ちの和むいい秋日和だ。空はあくまで青く、深く、そこに浮かぶ雲は同じようにあくまでも白い。第2牧区の乳牛たちは群を割ることなく乏しくなった草を食べ続け、他方、和牛は囲いを出ればまだ第4牧区にはふんだんに牧草が残っているというのに、なぜかそこに留まろうとはせずに帰ってくる。
今年は下牧をいつもの年よりか早くし、9月の19日と決めた。牧草の状態以外に、里の都合で10月に入れば市場の仕事が忙しくなるらしく、仮にそこまで牛たちを置いてみても放牧料などは高が知れている。下では煩わしい仕事は早めに切り上げたかったのだろう。
牛がいなくなっても、牧を閉ざし、山を下るというわけにはいかない。伸び始めたカヤを刈ったり、牧柵の補修が待っている。また、今では牧場の大事な収入源になってしまっている撮影、それもかなり大きな企画が決まっている。それに何より深まりゆく秋、「姫君の秘められた恋」と形容した紅葉を求め、あるいは黄金の谷を目指してここへやってくる人たちもいるだろう。
これからちょうど2カ月先、遠い山に雪が降り出すころの11月の19日までは、牛のいない牧の仕事に精を出すことになる。それにしてもこういう生き方、わがことながら不思議に思う。
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本日はこの辺で。