
闇が下りてくる前の一時の静けさ、音が悉く消えたわけではないのに、夢幻のような静謐が支配する。春の夕暮れ。そのわずかな時が妖しさを匂わせ、手招きしている。万物(ものみな)が生気を発散して艶めかしい、心騒ぐ。
1本の熱燗がさらに深くへ落ちていけとそそのかし、巧みに誘う。独酌はさらに2本、3本と続き、どこまで行けば尽きるのか、果てしない沈みの快感に戸惑いつつも喜ぶ。
あの山頭火は、自らの数々の悪行を、酒が美味すぎるせいにした。酒のせいにした人は古今に絶えないが、しかしその美味さを責め、己が罪をなすりつけようとした罰当たりは、あの人しか知らない。美酒という言葉は素晴らしい。それをかの大酒飲みは地下足袋で踏み荒らし、挙句に、その文字通り、切な糞のような句を残した。
捨てきれない荷物のおもさまへうしろ - 山頭火
山頭火は僧衣に地下足袋だが、俳人で、同じく日本中を歩き回った河東碧梧桐(かわひがしへきごとう)の装束ときたらこれは凄い、笑わずにはいられない。いまその写真を載せようとしたら、本は上(牧場)に行ってしまっているようで見付からない。そのうち是非ご覧に入れたい。
ほの暗き忍び姿や嫁が君 - 碧梧桐
春宵の酒のことから、つい話が脱線してしまった。本格的な仕事が始まるまでにもう、1週間を残すだけとなった。5か月の休業の時が終わり、人生の区切りがまたひとつ、呆気なくつく。
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