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秋日和、まさにそうだ。東に傾きだした太陽にはもう夏の威勢はなく、秋雲の棚引く空の青さはどこまでも濃くて深い。昨夜も一雨あったのだろうか、草が濡れている。目の前にある黄ばみ始めたコナシの葉がまた散って、あの夥しい数の枝が剝き出しになってきた。
鈴の音が聞こえる。登山者がテイ沢へ向かうのだろう。そうだ、昨日からここを訪れているUさん夫婦に、入笠山周辺の簡単な案内図を描いて渡すことになっていた。入笠山、大阿原、テイ沢、高座岩のおよその位置関係が分かればいいだろう。
二人を登山口まで送っていく途中に見た北アルプスは峰々を一瞬山かと見紛う黒い雲が隠し、他方中央アルプスは白い雲の中に見慣れた山々が見えていた。秋色が深まり、やがては両方のアルプスの山肌が赤身を帯びるころには、白い物がさらに見ごたえのある姿に変えていくだろう。
道路には落ち葉が大分目立つようになり、そんなことを横に乗っていたUさんの奥さんと話していると、落葉松の枝に絡むとろろ昆布のような地衣に目が留まったらしく、その正しい名前、サルオガセを知っていた。
ご夫婦は70歳代で、牧場へは初めてと聞いたが山もかなり登っていた。山の仲間がいて、冬はスノーシューズで雪山を楽しみ、ご主人はいまだパラグライダーもやり、ご夫婦で飛ぶこともあるという。
昨日のキャンプ場は他に訪問者もなく、夕暮れの牧場を案内したら「スイスに行ったことはないけれど、ここはスイスのようだ」と大いに気に入ってもらえた。この独り言を聞いて来てくれたらしく、それも有難かった。
静かな秋の日、ヒグラシ(カナカナ虫)が突然鳴き出し、そしてすぐに止んだ。ヒグラシと言えば秋の季語だが、俳句とはすっかり遠ざかったままだ。
名前は知らないが、秋らしい清楚な草花が目に付くようになってきた。コスモス、ススキ、キキョウ、ナデシコ・・・、花を見てもその名前を覚えるのは英単語と同様、諦めている。知らなくとも、眺めるだけでいい。
いつになく快い平安、落ち着いた雰囲気が朝からずっと続いて、牛たちは昨日のように小入笠の頭まで行ったか、囲いの中には1頭も見えない。
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本日はこの辺で。