まだ囲いの中には20頭くらいの牛が残っているが、それでもすっかり寂しい牧場になってしまった。第1牧区へ上がってみれば、牛たちの消えたその風景には、どこへ行っても主役のいないもの足りなさを感じた。木漏れ日の射す森の中では「こんな所に」、というような場所にも牛の足跡や落とし物があって、一般には愚鈍だと思われているあの牛たちの旺盛な行動力が伝わってきた。
ジャージー牛のチビはトラックに乗せようとしたら膝を折り、乗るのを嫌がった。どこへ連れていかれるかと、きっと不安になったのだろう。大型の和牛5頭に脅されながらも、いつも給塩の呼び掛けに一番の反応を見せた牛だった。下に行けば、出産が待っている。
懸念していた種牛と和牛125番の2頭は、やはり一筋縄ではいかずにさんざんに手を焼かせてくれ、就中マッキー奴は、自分の畜主にさえ2度も激しい攻撃を仕掛けて周囲をヒヤッとさせた。
そしてきょうで撮影も終了する。撮影日数そのものは10日ばかりだったが、その他の打ち合わせや準備などにも日時を要し、これはこれで長い仕事になった。先程、監督を始め主要な関係者に挨拶をしてきたばかりだが、その際に、牧場であることを充分に理解してもらい、今後の放牧に何の問題も残すことはなかったと言い添えた。監督はいつもと変わらず礼儀正しく応じてくれた。
また下からは、牛の下牧を待っていたかのように鹿の捕獲に関する問い合わせが来た。同じ偶蹄類のせいか、放牧が始まると鹿の行動も大胆になり、一緒になって草を食んでいる光景をよく目にした。それだけでなく、牧柵の被害は圧倒的に鹿のせいで、大型の囲い罠から牛が下りたら、やはり何とかしなければならない。
10月、いい季節がやってくる。まだそれほどでもないが、ポツポツ予約が入るようになりました。
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