仙岩峠を越え、岩手に入って、やっと日差しに暖かさを感じるようになった。
五月の岩手路は、目に映るすべてが、鮮烈で、穏やかで、優しい。
渋滞を避けるため早々に国道を降り、雫石町内に入ってきた。
通り過ぎた後方で、立派なカメラをセットして、何かを待ち構えている風の人がいた。
岩手山の雪解け水を集める葛根田川。架かる鉄橋はJR田沢湖線。
カメラのあの人は「こまち」待ちかな。
なんてこった!!そうか、「軽トラ市」かあ・・・再び、46号へ。
十年は過ぎたかなあ。ヤスと一緒、内山を冷やかしに来たことがあった。
懐かしい思い出だけを残して、時間だけがどんどん過ぎていくんだもんなあ。
再び46号を下りて、繋温泉を経由するルートをいく。
御所湖は、御所ダムが雫石川を堰き止めて生まれた人造湖。
でも、この景観は計算ずくで造られるもんじゃないだろ?!
なんという眩しさ!
踏み入れずとも、芝生の柔らかさ、みずみずしさが感じ取れる。
ツーリング中でも離れなかった不安が少しばかり消え、意欲が湧いてきた。
「観でえ!岩手山」スタンドにオサムがいた。
そう、これ以上の舞台はないね。ありがたいやら、もったいないやら・・・幸せだなあ。
やっぱり、来てよかった。
間もなくして、現役と若手OBの一戦が始まった。
こんな素敵な会場での仲間との再会が嬉しくて、試合の方に目が向かなかった。
前半はOBが獲ったけど、結局、後半スタミナが切れたのかな、現役が勝った。
ボク等の仲間は、地元勢のテツ御大、オサム、カンチャン、GM、岩井沢。
遠来組は、アネとボク、それにコン先輩。オサムはコン先輩譲りの白パンを履いていた。
ボク等は電力と消防との混成チームに入り、その名も「オール盛岡」。
対戦相手は、盛工OB中心のエリス。15分クオーター制で、ボク等は二本出させてもらった。
「5分で交代するからね。」と言っていたオサムも、肉離れに耐え15分間出尽くした。
ボールを持って突進してくる相手に、「来るなあ!!」と叫んで、相手を停めたらしい。
「相手の隙を見つけて抜けていく」とアネに言わせるオサムは、どこに行った?
一人で抜けようと思ったら Oka さんがいたので、つい・・と言うアネからパスをもらった。
二次攻撃でたまたまSOの位置にいたら、SHの岩井沢がパスを出してくれた。
早々、ラックで首を痛め、今、むち打ち状態だけど・・、楽しかったよ。
試合に備え走っていたつもりだけど、ハアハア息をあげているのはボクだけだった。
試合後、宿に向かう途中、南大橋の路肩にバイクを寄せた。カメラに収めたかった岩手山。
三月、一関へ向かうヤスの車の助手席から観た岩手山と北上川と盛岡の街。美しかったなあ。
カラカラの喉、フラフラの足取りで駅横の会場に着いたら、「ここじゃなくて・・」だあ?!
だったら開運橋わたって、すぐ曲がってりゃあ、とっくに着いてたじゃねーか。
昔の話をするつもりはないけど、もうボク等の時代の雰囲気はどこにもない。
その象徴のひとつは、女子マネの多さかな。
何でこんなにいるんだあ? アネが何度も口にした。
そのアネがOB会の事務を担当する元女子マネにセクハラまがいの話を連発する。
そういうの今はセクハラだぜと言うと、「いいんだ、オレは。同郷だし。」
元女子マネも、「セクハラは受ける方の感情ですから、いいんです。」だと。骨あるなあ。
最後の締めは恒例の部歌。
三番まで、まあまあ、歌い切ったけど、どこだったかメロディに違和感が・・・
作詞は仲間内だけど、作曲は偉い先生にお願いしたと聞いてる。正確に引き継がないとね。
懇親会終了後、オサムとふたり、蕎麦屋を探し歩いたけど、どこも店じまい。
夜の盛岡を60代半ばのオサムとボクがフラついているこの縁って、不思議だなあ。
ところで、オサム。純米だから美味しいってもんじゃない。金印をバカにしちゃあいけない。
あの大将は、酒の味を知らないんだ。そう思うだろ。
オサムと別れた後、創業昭和十三年の暖簾にほだされ、大盛りを食った。やたら、熱かった。
翌朝、覚悟はしていたけど、首が痛くて回らない。幸い、手足に麻痺はなかったけど。
雨雲が東側から接近してくるというので、早々に宿を出て、お土産の調達に「福田パン」へ。
満車の駐車場、店内に入りきれない行列が外まで続いている・・・8時前だぜ。諦めた。
帰りは、雫石から横手方面へ抜ける盛岡横手線を走った。
山伏トンネルを抜け沢内村に入ると、秋田県との県境に和賀岳が鎮座する。
この辺りには、岩手山や八幡平とは趣が異なる奥羽山脈の風景がある。
春先の雫石・沢内間の盛岡横手線を、ボクは「花街道」と呼んでいる。
沿道のあぜ道や農家の庭先には、切れ目なく色とりどりの花々が咲いている。
特別にこしらえた感が全くしない自然体の花々がいい。植えた人々がいい人なんだ。
路面の凹凸による振動が首筋にボディブローのように効いてきて、首筋が耐えられなくなった。
あと30キロほどのところでバイクを降り、ヘルメットを脱ぎ、路肩に腰を下ろした。
こんな重いもの被ってちゃあ、首がもたねーよ。
最上川の川風に当り、ボーとしているうちに眠気が差してきて、夢見心地の気分に陥る。
「こういう場所で、このぐらいの内容だったら 、年一回ぐらいは、いいね。」
5分で交代すると言っていたオサムの顔が浮かんできた。
そういう思いはあるけど、前回は肋骨で今回は首。身体がラグビーを忘れている。
走るだけじゃあ、気持ちだけじゃあ、身体が順応しないんだよ。そこが問題だあ。
ラグビー、仲間、岩手山、北上川、いかり、盛岡、五月・・・・
この刺激から遠のいてしまった後のボクは、もっと問題になる。そこは問題だ。