三年越しに叶った。
滝沢インター近くのコンビニに全員集合し、渋民の啄木記念館の駐車場に車を止めた。
ここからは、オサムの車に便乗して一本杉園地キャンプ場に向かう。
ヤスとオサムとボクの三人かなあ・・と思ってたところに、キクちゃんも加わった。
ヤスは、キクちゃんが来ることを、昨日、ボクが口にするまで知らなかった。
マジか。この連絡網の不徹底さ、妙に可笑しい。
管理棟に置いてある入山者名簿に四人の名前を書いた。
一丁前の登山愛好家になったような気分。
9時45分スタート。
それなりの覚悟はそれぞれにしているけど、心配するこたーないって。
おれら、最強のラガーマンだぜ。
出発してまもなく、明るい草原のずーっと遠くに姫神山の頂が見えた。
マジ、あそこまで行くのかあ・・・
ヤスー! ちょっと速くねー。
これじゃあ、キクちゃん、もたないよ。
快晴とまではいかないけど、木漏れ日が差すコンディションに気分も高揚する。
台風の影響を最後まで心配していた。文字通り、千歳一隅の好機に恵まれた。
「二百年ぐらいは経ってんじゃない」と、うん蓄を垂れるオサム。
そう、山は全くのド素人のボク等三人にとって、オサムが頼り。
今回のリーダーは、オサムさん。
登り始めて20分ほどで、膝に手を当てるヤス。
筋肉が慣れるまでのこのぐらいの時間が一番きついんだよ。
ヤスを除く三人が、うん蓄を垂れる。
大丈夫ー?! ちょっと、ヤバそう。
力が入らないようなことを言っていた。
オサムが今日のために買って来た「岩手県の山」を開きながら、この先をガイドしてくれた。
「いまここで、ここから何分で五合目、あともうじきだからあー。頑張ってヤッさん!」
さすが、リーダー。
これも山登りの鉄則なんだって。
「今の限界が解るって、立派だよ」って、キクちゃんがヤスを褒めた。
一人で下りるヤスが少し心配になったけど、冷静なヤスのこと。大丈夫・・・・
登り始めて35分。五合目にたどり着いた。
下りてきたおばさんグループに遭遇。カメラを渡し撮ってもらった。
夏休み最後の週末。人も多かったけど、子供の少なさが意外だった。
ボクは、格好から入るってこたあ、しないんだ。
にやけているのは、「姫神のひと」と言葉を交わしたからじゃないぜ。
いいなあ、素敵なひとだったなあ・・って繰り返すボクに、「おまえ、バカかあ」はねえだろ。
元気、もりもり。
終始、不安気だったけど、ここまでくれば大丈夫だよ。
正直、ボクは心配していなかったよ。キクちゃん、筋肉も関節もしなやかだもの。
オサム、何故、背を向ける。
ここは手を差し出すところだぜ。
でも、今日はコン先輩がキクちゃんを支えていると思うよ。
登り始めて1時間40分。
「あと、もう少しだからあ!」と、励ますリーダー。
頂上のちょっと手前。急に視界が開けたあ!
たまらず、それぞれに記念撮影。
そうかあ。スマホは自撮り画像を見ながら押せるんだあ。
ボクの安いカメラじゃあ、これが限界。
キクちゃんの腕のせいじゃない。
でも最高の記念になる一枚だよなあ。
登り始めて1時間50分、1123.8mの姫神山山頂に到達した。
なんとなく呟いていたことが、本当に実現したことに感激しているボクです。
みなさんの顔が、全員笑顔に満ちて穏やかだ。こんな人だかりって、ありそうでないかも。
格好を見ても、山慣れした人たちだってわかる。
ボクなんかは、旅先の居酒屋の暖簾をくぐった一見さんみたいなもん。
想像はしていたけど、このパノラマを観たくて登って来たんだ。
「このぐらい雲があった方が、かえっていいよ。壮大な雲の景観も堪能できるし・・」
口惜しまぎれの強がりを言ってみたけど・・、もう少し晴れてたらなあ。
岩手山の東側に「七時雨山」が見えた。
ボク的には、「次は、七時雨山」だけど、今、誘ったらドン引きされるかもなあ。
名前に魅かれた山だけど、七時雨の名は伊達じゃない。慎重に考えないとね。
岩手山に背を向けるように東の北上山系の方に目をやると、風車群が微かに見えた。
葛巻高原かあ。平庭があって、山形村を越え、その先の久慈、小袖海岸・・、あまちゃんだあ。
ボクの気持ちが、三陸の海まで飛んじゃってる。
1千メートルを超えた岩だらけの山頂に多くの蝶が舞ってるって、ボクには意外だった。
でも、待てよ。羽根を広げて留まるのは、蛾かあ?
「蛾じゃないよ。舞い方が蝶だよ。」と、オサムとキクちゃんは言うけれど。
高名の木登りの教えじゃないけど、登る時から下りのことは考えていたよ。
達成感に満たされた後のどうでもいい感、やっつけ仕事的な脱力感は、要注意。
湿り気のある濡れた下り坂は用心しないと大けがの元。
まあ、この様子じゃあ、無気力とか脱力感とは無縁だよ。
下りたあと、「一週間分は笑ったわ。」とキクちゃん。
いやいや、ボクは、少なくとも、半年分は笑ったよ。
午後1時35分。
一本杉園地キャンプ場の駐車場で待つヤスの姿を見つけ、正直、ホッとした。
キクちゃんの「顔色よくなかったよ。」が気になり、何度も電話したのに、出ねえしっ!
「みんな静かに下りてくるのに、どこのガヤのグループ・・と思ったら、やっぱり」だとよ。
一応、勝利のVサイン・・、二人だけかあ。
リーダー・オサムのチョットだけ苦虫かみつぶしたような顔。
「スリッパじゃだめだよ、Okaさん。」のアドバイスは、今後に活かしましょう。
近くの「ユートランド姫神」に寄ったら、こんなところで出身高校に出会うとは。
訊けば、盛岡で高校文化祭の大会があって、ここが宿泊所になっているとか。
どうでもいいけど。
特にこれといった特徴のないお湯っこでしたが、ぬるめの肌触りのいいお湯っこだった。
もう少しゆっくり湯に浸かっていたかったけど、みんな、早いんだよ。
さあ、あとは盛岡帰って、「いかり」でグイ―ッだね。
今までは、遠くから「優美なお山だなあ。」と眺めるだけだったけど、この瞬間から変わる。
ああ、姫神山ねえ。なかなかいい山だよ。初心者にはちょうどいいんじゃない・・なんてね。