米国産牛肉の輸入再開問題に端を発した韓国の混乱が収まりません。NHKの「ラジオあさいちばん」(7/2頃)は興味深い視点からこの騒動を捉えています。青木記者のソウルからの報告を要約します。
『当初の集会は家族連れや中高生の参加が多い穏やかなものであったが、最近は労組が中心のより過激なものに変わってきた。宗教団体も加わり、政治色が強くなった。韓国最大の労組組織、全国民主労働組合総連盟も今後数万人の動員を計画している。
市民の対応は集会に賛成と反対の二つに分かれるが、それには進歩系と保守系に分かれたメディアの影響が大きい。進歩系メディアは警官が集会参加者を殴る場面を繰り返し報じ、保守系メディアは参加者が警官を取り囲んで殴る場面を報じている。保守系メディアの建物はガラスを割られるなどの被害が出ている』
騒ぎの発端は牛肉の輸入再開に伴う人型BSE感染の不安でしたが、これはほとんど根拠のないものでした(参考)。始めは不安を煽(あお)る過大な報道と、それを増幅したネットが集会への参加を促しましたが、次第に政治色の強い団体が集会を主導するようになってきたようです。運動目的は政権批判へと変わり、当初の牛肉問題は騒ぎの火付け役という程度になりました。
殴る場面を繰り返し報じるマスメディアの姿勢は国民の感情に訴えることを目的とするもので、問題を冷静に考えるための材料を提供するというメディア本来の役割から遠いものです。むろんこれは私の考えですが、日本のメディアの日頃の特性から容易に推定できます。
わが国の60年安保騒動では朝日・毎日を主とする政府批判報道に力を得たデモ隊が大規模なものとなり、最後には岸首相を辞任に追いこみました。政治を大混乱させたこの運動は個々人の冷静な判断に基づくというよりメディアの煽動の影響が大きかったものと思われます。いま思うと、複雑な外交問題を学生達が正しく判断できるものか、大変疑問ですし、安保条約を理解していない学生が多数いたともいわれています。
メディアの方はというと、6月15日、デモ隊が国会に乱入し、東大生1名が死亡した直後、騒乱の予想外の激化に危機感をもった主要新聞社の幹部は話し合いをし、騒ぎを鎮める方向で合意したと言われています。
翌16日の主要各紙は一転して「全学連学生諸君の理性に訴えて、強くその反省を求める」(朝日)、「民主社会を破壊する惨事」(毎日)、「悲しむべき野蛮な行為」(読売)などと冷静な対応を呼びかけました(【社説検証】安全保障/日中関係(5-1)より)。幸いなことにメディアの冷静な行動が混乱の激化を防ぎました。戦前、新聞は軍国主義を煽り、それが効きすぎてコントロール不能の状態を作り出しましたが、その反省があったのかもしれません。
韓国の事件で注意したいのは、政治がメディアに大きく影響され、しかもその影響力は感情的な要素に強く依存しているという事実です。一部のメディアが根拠のない人型BSE感染の不安を煽ったことを「好機」とし、感情的な対立が意図的に拡大されるという、不合理な事態です。民主政治を動かすのは理屈よりも感情なのかもしれません。
韓国の例はメディアの重要性を改めて思い知らされる例として注目に値します。国をひとつの生き物とみなせばマスメディアは全身に張りめぐらされた神経に相当します。中枢神経がおかしくなって間違った情報を伝えたり、二つの系統に分かれて別々の情報を伝えていては余計な混乱を招きます。民主主義がうまく機能するかどうかは中枢神経の出来によって決まると言えそうです。
『当初の集会は家族連れや中高生の参加が多い穏やかなものであったが、最近は労組が中心のより過激なものに変わってきた。宗教団体も加わり、政治色が強くなった。韓国最大の労組組織、全国民主労働組合総連盟も今後数万人の動員を計画している。
市民の対応は集会に賛成と反対の二つに分かれるが、それには進歩系と保守系に分かれたメディアの影響が大きい。進歩系メディアは警官が集会参加者を殴る場面を繰り返し報じ、保守系メディアは参加者が警官を取り囲んで殴る場面を報じている。保守系メディアの建物はガラスを割られるなどの被害が出ている』
騒ぎの発端は牛肉の輸入再開に伴う人型BSE感染の不安でしたが、これはほとんど根拠のないものでした(参考)。始めは不安を煽(あお)る過大な報道と、それを増幅したネットが集会への参加を促しましたが、次第に政治色の強い団体が集会を主導するようになってきたようです。運動目的は政権批判へと変わり、当初の牛肉問題は騒ぎの火付け役という程度になりました。
殴る場面を繰り返し報じるマスメディアの姿勢は国民の感情に訴えることを目的とするもので、問題を冷静に考えるための材料を提供するというメディア本来の役割から遠いものです。むろんこれは私の考えですが、日本のメディアの日頃の特性から容易に推定できます。
わが国の60年安保騒動では朝日・毎日を主とする政府批判報道に力を得たデモ隊が大規模なものとなり、最後には岸首相を辞任に追いこみました。政治を大混乱させたこの運動は個々人の冷静な判断に基づくというよりメディアの煽動の影響が大きかったものと思われます。いま思うと、複雑な外交問題を学生達が正しく判断できるものか、大変疑問ですし、安保条約を理解していない学生が多数いたともいわれています。
メディアの方はというと、6月15日、デモ隊が国会に乱入し、東大生1名が死亡した直後、騒乱の予想外の激化に危機感をもった主要新聞社の幹部は話し合いをし、騒ぎを鎮める方向で合意したと言われています。
翌16日の主要各紙は一転して「全学連学生諸君の理性に訴えて、強くその反省を求める」(朝日)、「民主社会を破壊する惨事」(毎日)、「悲しむべき野蛮な行為」(読売)などと冷静な対応を呼びかけました(【社説検証】安全保障/日中関係(5-1)より)。幸いなことにメディアの冷静な行動が混乱の激化を防ぎました。戦前、新聞は軍国主義を煽り、それが効きすぎてコントロール不能の状態を作り出しましたが、その反省があったのかもしれません。
韓国の事件で注意したいのは、政治がメディアに大きく影響され、しかもその影響力は感情的な要素に強く依存しているという事実です。一部のメディアが根拠のない人型BSE感染の不安を煽ったことを「好機」とし、感情的な対立が意図的に拡大されるという、不合理な事態です。民主政治を動かすのは理屈よりも感情なのかもしれません。
韓国の例はメディアの重要性を改めて思い知らされる例として注目に値します。国をひとつの生き物とみなせばマスメディアは全身に張りめぐらされた神経に相当します。中枢神経がおかしくなって間違った情報を伝えたり、二つの系統に分かれて別々の情報を伝えていては余計な混乱を招きます。民主主義がうまく機能するかどうかは中枢神経の出来によって決まると言えそうです。