「環境変化に応じ防衛政策を見直すのはいいが、近隣諸国がどう受け止めるか、無用の摩擦を生み外交の妨げにならないか。とりわけ平和国家としてのブランド力を失うことにならないか。(中略)
英国やドイツは国防予算の大幅カットや、兵員や装備の削減に踏み切ろうとしている。日本も人員縮小や給与体系などの見直しに踏み込んではどうか」
これは2年前の2010年11月19日の朝日新聞の社説にある記述で、尖閣諸島での中国漁船衝突事件から約2ヵ月後、日中の緊張状態が続いていた時期のものです。形の上では「新防衛計画の大綱」に対する批判となっていますが、真の意図は防衛力の削減にあるようです。
具体的に言うと、首相の諮問機関が提言した「部隊や装備の大きさよりも、即応力や機動力に重点を置く動的抑止という新たな考え方や、武器輸出三原則の緩和や沖縄周辺の離島防衛強化など」に対する反論と言えますが、とりわけ離島防衛がお気に召さないのでしょう。
実は同月22日の拙稿でもこの社説に言いがかりをつけて、次にように書きました。
「19日の社説では英国やドイツを例にとり、日本の防衛力縮小を主張しています。しかし05年の国防費のGDP比は英国2.3%、ドイツ1.4%、フランス2.5%、米国4.0%などに比べ日本は最低水準の1.0%ですから、ベースがまったく異なります。軍事的脅威が減少している西欧諸国に対し、軍事力を急拡大させている中国や核兵器の配備を企む北朝鮮に隣接する日本とは環境が大きく異なります。これらの条件の差異を無視して防衛力の削減を主張するのは実に不誠実な態度です」
不誠実な態度と書きましたが、いま思うと非常に危険な考えであると思われます。隣国との間で緊張が高まっているときに防衛力を削減して「仲直り」を目指すのもひとつの考えかもしれません。自から銃を捨て、戦う意思のないことを示すというわけです。
しかしいいチャンスだとばかり撃ってくる相手もないとは限らないわけで、そうなれば戦争を誘発することになります。他国からの攻撃が絶対にないといえない限り、防衛力は軽視してはならないものです。戦争ともなればその被害は朝日の恐れる原発事故の比ではありません。
将来、隣国にどんな性格の政権が生まれるかを確実に予測することは不可能です。アジア製のヒットラーが生まれないとは断言できません。そして一度防衛力を削減してしまえば短期間で復元することはできません。防衛力は万一の攻撃に備えるもので、たぶん攻撃されることはないだろうという楽観的な前提で防衛努力を放棄する国はないでしょう。
周囲に領土的な野心をもつ国がない欧州諸国でも国防費のGDP比は日本よりかなり高いのはそれが必要という認識があるからです。領土的な野心をもって軍事力を増強している隣国があり、しかも話もまともに通じない国となると、リスクはずっと高いと見るべきでしょう。
朝日は社説で防衛力の削減を主張しているわけですから、それは十分に検討された、新聞社としての総意であると考えられます。社説は2年前ですが「気が変わりました」とも聞かないので、現在も不変であると思われます。緊張状態における防衛力削減は国民を危険にさらす可能性が高く、その主張を生みだした異常な見識は問われるべきでしょう。
非武装中立を目指す社民党と共通するところがありますが、こちらは支持率が1%にも満たない政党の主張であり、どこの世界でも人口の1%程度の変わり者がいるのは仕方がありません。しかし800万の販売数を誇る大新聞が変わり者の集まりであればその影響は大きく、困った問題であります(相手国にとっては実にありがたい存在なのですが)。
朝日の主張は「東シナ海を友愛の海に」と唱えた鳩山氏にも通じています。その鳩山内閣は呆れられて自滅し、民主党自体も風前の灯となっていますが、この新聞社は健在です。ドジを踏めば政党は責任をとらされますが、メディアは国の方向を左右しても責任をとらなくて済む、まことに結構なお立場であります。
英国やドイツは国防予算の大幅カットや、兵員や装備の削減に踏み切ろうとしている。日本も人員縮小や給与体系などの見直しに踏み込んではどうか」
これは2年前の2010年11月19日の朝日新聞の社説にある記述で、尖閣諸島での中国漁船衝突事件から約2ヵ月後、日中の緊張状態が続いていた時期のものです。形の上では「新防衛計画の大綱」に対する批判となっていますが、真の意図は防衛力の削減にあるようです。
具体的に言うと、首相の諮問機関が提言した「部隊や装備の大きさよりも、即応力や機動力に重点を置く動的抑止という新たな考え方や、武器輸出三原則の緩和や沖縄周辺の離島防衛強化など」に対する反論と言えますが、とりわけ離島防衛がお気に召さないのでしょう。
実は同月22日の拙稿でもこの社説に言いがかりをつけて、次にように書きました。
「19日の社説では英国やドイツを例にとり、日本の防衛力縮小を主張しています。しかし05年の国防費のGDP比は英国2.3%、ドイツ1.4%、フランス2.5%、米国4.0%などに比べ日本は最低水準の1.0%ですから、ベースがまったく異なります。軍事的脅威が減少している西欧諸国に対し、軍事力を急拡大させている中国や核兵器の配備を企む北朝鮮に隣接する日本とは環境が大きく異なります。これらの条件の差異を無視して防衛力の削減を主張するのは実に不誠実な態度です」
不誠実な態度と書きましたが、いま思うと非常に危険な考えであると思われます。隣国との間で緊張が高まっているときに防衛力を削減して「仲直り」を目指すのもひとつの考えかもしれません。自から銃を捨て、戦う意思のないことを示すというわけです。
しかしいいチャンスだとばかり撃ってくる相手もないとは限らないわけで、そうなれば戦争を誘発することになります。他国からの攻撃が絶対にないといえない限り、防衛力は軽視してはならないものです。戦争ともなればその被害は朝日の恐れる原発事故の比ではありません。
将来、隣国にどんな性格の政権が生まれるかを確実に予測することは不可能です。アジア製のヒットラーが生まれないとは断言できません。そして一度防衛力を削減してしまえば短期間で復元することはできません。防衛力は万一の攻撃に備えるもので、たぶん攻撃されることはないだろうという楽観的な前提で防衛努力を放棄する国はないでしょう。
周囲に領土的な野心をもつ国がない欧州諸国でも国防費のGDP比は日本よりかなり高いのはそれが必要という認識があるからです。領土的な野心をもって軍事力を増強している隣国があり、しかも話もまともに通じない国となると、リスクはずっと高いと見るべきでしょう。
朝日は社説で防衛力の削減を主張しているわけですから、それは十分に検討された、新聞社としての総意であると考えられます。社説は2年前ですが「気が変わりました」とも聞かないので、現在も不変であると思われます。緊張状態における防衛力削減は国民を危険にさらす可能性が高く、その主張を生みだした異常な見識は問われるべきでしょう。
非武装中立を目指す社民党と共通するところがありますが、こちらは支持率が1%にも満たない政党の主張であり、どこの世界でも人口の1%程度の変わり者がいるのは仕方がありません。しかし800万の販売数を誇る大新聞が変わり者の集まりであればその影響は大きく、困った問題であります(相手国にとっては実にありがたい存在なのですが)。
朝日の主張は「東シナ海を友愛の海に」と唱えた鳩山氏にも通じています。その鳩山内閣は呆れられて自滅し、民主党自体も風前の灯となっていますが、この新聞社は健在です。ドジを踏めば政党は責任をとらされますが、メディアは国の方向を左右しても責任をとらなくて済む、まことに結構なお立場であります。