上図はNHKニュースのアクセスランキングです。3月2日までの1週間分の集計ですが、なんと7位までが中1生徒殺害事件で占められ、かなりの期間、この事件へ世間の関心が集中したことを示しています。NHKはとりわけこのニュースに熱心で、テレビ・ラジオとも連日のようにトップで報道していた印象があります。そして続報の多くは瑣末なことと思われます。
この事件がたいへん衝撃的であったことは確かですが、それにしてもこの報道とその結果としての世の関心は大きすぎるように感じます。報道が関心を呼び起こし、関心が高まることによって関連する報道が勢いづき、さらに強い関心を呼ぶ、という循環が起きているように思います。
演説会の会場などで拡声器のボリュームを上げすぎると、ピーという大きな発振音が出ることがあります。これはハウリングと呼ばれ、スピーカーから出た音をマイクが拾い、それがアンプで増幅されてスピーカーから発せられ、再びマイクが拾うという循環が拡大していき、ついに発振する現象です。フィードバックとも呼ばれますが、報道機関と視聴者による循環によって生じる過熱報道はこれとよく似ています。
循環拡大を起こす大きな要素は視聴率でしょう。視聴者の関心に迎合する姿勢です。1週間も7位まで独占といった極端な状態では、他の重要ニュースが片隅に追いやられているわけです。この時期は国会の開会中でもあり、必要なものを知らせるというメディア本来の役割が十分果たされないことを意味します。またそれほど視聴率を気にする必要がないNHKが民放よりも熱くなるようではその存在理由すら怪しくなります。世間がカッカしていても冷静さを保つのがその役割だと思いますが。
集中報道はたいてい正邪を強調したわかりやすい形をとります。つまり正の側の悪い点や邪の側の良い点はまず報道されません。その結果、世論が極端な方向に流れてしまうことが起こります。少年法は衝撃的な事件が起きるたびに改正が行われてきましたが、今回の事件でも少年法の改正が取り沙汰されています。法改正のきっかけになるのはよいのですが、軽率な報道に流されない、冷静な議論を望みたいものです。
ついでながら、奥野修二著「心にナイフをしのばせて」は1969年、同じ川崎市で起きた同級生による15歳の少年惨殺事件について書かれた本です。被害者の遺族に焦点を当てたもので、家族を失った遺族が癒されることのない傷を負う一方、謝罪をも拒否する加害者が弁護士として成功する事実が描かれています。少年法によって保護される加害少年に対し、援助もなく放置される被害者の問題を提起した本です。