人の秘密を暴くことにかけては一流の雑誌、週刊文春についてはよく知りませんが、月刊文芸春秋は優れた雑誌だと思います。数十万部の発行部数は総合月刊誌中トップであり、それだけに強い影響力を持ちます。しかしながら近藤誠医師の記事は世に大きな誤解を広める結果となりました。
ずいぶん以前から文春は近藤氏の記事を取り上げてきました。一時、批判者の反論記事を同時掲載した記憶がありますが、多くは近藤氏単独の記事で現在の癌治療を全面的に否定する持論を展開しています。統計資料などを用いて、一見、説得力があるかのように見えるため、このとんでもない説を信じてまともな治療を受ける機会を逃してしまった方は少なくないと推定されます。
2012年に文春は近藤氏に菊池寛賞を与え、彼の発言力をさらに強めるという結果になります。近藤氏は5月号にも「がん検診 百害あって一利なし」という記事を載せています。記事は、注意深く読まないと、彼の説がもっともだと思ってしまうように巧妙に作られています。
彼が従来から使っている一例を挙げます。「胃がんの発見数は1975年が75000人で2011年が132000人。増加した6万人のほとんどは検診による早期発見なので、がんの転移と患者の死亡を早期発見で防げるという『検診理論』によれば胃がんの死亡数は大幅に減るはずです。ところが実際には胃がん死亡はまるっきり減らず、横ばいでした。これは放置しておいても問題のない患者を、過剰診断によって、毎年6万人近くも発見したということです」
実は、1975年から2011年にかけては高齢化が進み高齢者の割合が高くなって、がんの発生率もそのために増加します。その影響を差し引けば、つまり胃癌の年齢調整死亡率は男女とも低下の一途をたどっている、とされます。胃がん死が減っているとなれば近藤氏の説明は根拠を失います。これは一種のトリックと言えるでしょう。
近藤氏は外国の研究などを挙げ、癌検診をすべて否定していますが、ウィキペディアによれば「死亡率低下が研究により示された癌検診は、胃癌検診(胃X線撮影)・乳癌検診・大腸癌検診(便潜血)のみであり、他の癌腫については未だ結論が出ていない」とされています。
近藤氏の基本的な考え方は独自の「がんもどき理論」で、癌は初めから本物の癌と癌もどきに分かれており、前者は治療をしても決して治らないが、後者は放っておいてもよい、というものです。検診によって早期に発見しても本物の癌は決して治らないとして早期発見や早期治療を否定します。そしてその癌がどちらであるかは決してわからないといいます(これを分別する方法を見つけずに理論と呼べるでしょうか)。これから検診や癌治療は無意味であると結論が出るというわけです。世界でも珍しい理論であり、もしこれが本当であれば、世界中の癌治療はすべて無意味となるわけです。世界の医学の常識をたった一人で否定するという勇気は大したものですが。
近藤氏の理論は複雑極まりない癌というものを極端に単純化しているため、大変わかりやすいのですが、その単純化のために穴だらけになっているという印象です。近藤氏の著書は38点、共著を含めると51点にも及びます。癌の研究者というより、癌作家と呼ぶのがふさわしいと思います。
近藤氏が勝手にこのような言説を主張されのは仕方ないことですが、文芸春秋はこれを世に広め、権威づけまでしました。近藤氏に対する反論は数多くあったので、文春がそれらを知らない筈はないと思います。しかしそれらを理解しようとせず、文春は世界の癌医学を無意味とする近藤氏を信じたということになります。単に無知ゆえなのか、それともセンセーショナルな記事で販売を優先したのでしょうか。しかしこれは癌患者から治療機会を奪うという深刻な実害を生じる問題です。
このような怪しい言説を繰り返し取り上げて、世に広めるからには、文春の編集者の方々は癌検診を受けたり、癌になっても通常の治療を受けたりはされていないでしょうね。もしそんなことがあれば出版人として、いや人としてのモラルが強く問われます。こんなもんだ、と言われればそれまでですが。
ずいぶん以前から文春は近藤氏の記事を取り上げてきました。一時、批判者の反論記事を同時掲載した記憶がありますが、多くは近藤氏単独の記事で現在の癌治療を全面的に否定する持論を展開しています。統計資料などを用いて、一見、説得力があるかのように見えるため、このとんでもない説を信じてまともな治療を受ける機会を逃してしまった方は少なくないと推定されます。
2012年に文春は近藤氏に菊池寛賞を与え、彼の発言力をさらに強めるという結果になります。近藤氏は5月号にも「がん検診 百害あって一利なし」という記事を載せています。記事は、注意深く読まないと、彼の説がもっともだと思ってしまうように巧妙に作られています。
彼が従来から使っている一例を挙げます。「胃がんの発見数は1975年が75000人で2011年が132000人。増加した6万人のほとんどは検診による早期発見なので、がんの転移と患者の死亡を早期発見で防げるという『検診理論』によれば胃がんの死亡数は大幅に減るはずです。ところが実際には胃がん死亡はまるっきり減らず、横ばいでした。これは放置しておいても問題のない患者を、過剰診断によって、毎年6万人近くも発見したということです」
実は、1975年から2011年にかけては高齢化が進み高齢者の割合が高くなって、がんの発生率もそのために増加します。その影響を差し引けば、つまり胃癌の年齢調整死亡率は男女とも低下の一途をたどっている、とされます。胃がん死が減っているとなれば近藤氏の説明は根拠を失います。これは一種のトリックと言えるでしょう。
近藤氏は外国の研究などを挙げ、癌検診をすべて否定していますが、ウィキペディアによれば「死亡率低下が研究により示された癌検診は、胃癌検診(胃X線撮影)・乳癌検診・大腸癌検診(便潜血)のみであり、他の癌腫については未だ結論が出ていない」とされています。
近藤氏の基本的な考え方は独自の「がんもどき理論」で、癌は初めから本物の癌と癌もどきに分かれており、前者は治療をしても決して治らないが、後者は放っておいてもよい、というものです。検診によって早期に発見しても本物の癌は決して治らないとして早期発見や早期治療を否定します。そしてその癌がどちらであるかは決してわからないといいます(これを分別する方法を見つけずに理論と呼べるでしょうか)。これから検診や癌治療は無意味であると結論が出るというわけです。世界でも珍しい理論であり、もしこれが本当であれば、世界中の癌治療はすべて無意味となるわけです。世界の医学の常識をたった一人で否定するという勇気は大したものですが。
近藤氏の理論は複雑極まりない癌というものを極端に単純化しているため、大変わかりやすいのですが、その単純化のために穴だらけになっているという印象です。近藤氏の著書は38点、共著を含めると51点にも及びます。癌の研究者というより、癌作家と呼ぶのがふさわしいと思います。
近藤氏が勝手にこのような言説を主張されのは仕方ないことですが、文芸春秋はこれを世に広め、権威づけまでしました。近藤氏に対する反論は数多くあったので、文春がそれらを知らない筈はないと思います。しかしそれらを理解しようとせず、文春は世界の癌医学を無意味とする近藤氏を信じたということになります。単に無知ゆえなのか、それともセンセーショナルな記事で販売を優先したのでしょうか。しかしこれは癌患者から治療機会を奪うという深刻な実害を生じる問題です。
このような怪しい言説を繰り返し取り上げて、世に広めるからには、文春の編集者の方々は癌検診を受けたり、癌になっても通常の治療を受けたりはされていないでしょうね。もしそんなことがあれば出版人として、いや人としてのモラルが強く問われます。こんなもんだ、と言われればそれまでですが。