噛みつき評論 ブログ版

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「家族という病」…自分は偉大だと勘違いをされているのでは?

2016-05-02 08:51:35 | マスメディア
 家族に不向きな、あるいは家族に失敗した人物による家族否定の本であります。多くの人にとって、家族とは幸せをもたらすものという認識が普通ですが、本書はその常識を打ち破る試みです。家族のもつ負の面が次々と取り上げられます。

 すでに家族の価値を知っている者が読めば、家族にもそういう面があるな、くらいで済まされるでしょうが、経験の少ない者が読めば誤解を招き有害となる恐れがあります。本書を読んだために、家族の価値を知る前に家族を否定してしまうという人が出ないよう願うばかりです。

 著者の下重暁子氏は1936年生まれなので近く80歳になられます。本書はまあ高齢者の愚痴と自慢話のようなもので、とても出版されるレベルに達しているとは思えません。ベストセラーと言ってもアマゾンのレビューは厳しく、301のレビュー総数のうち過半の167が最低ランクで、その多くは酷評です。アマゾンの読者レベルは高いですね。

 しかしベストセラーとなり、幻冬舎と著者は第2弾まで出しました。幻冬舎は本を売るのが上手です。上手というのは本の内容以上に売るということです。アマゾンのレビューのなかに「ぼったくりバーの客引き看板に引っかかったようなもので、時間と金を浪費させられた」という記述がありますが、納得できる表現です。幻冬舎の商売は優秀なのでしょうけど、その分、時間と金を失う人たちが多数出るというわけです。

 全体に見られる傾向として、家族内で起きた事件など少数の事例を取り上げて安易に一般化するという論理の稚拙さが目立ちます。著者は育った家庭に深刻な問題があったようですが、それを一般化し、家族の問題点をこれでもかとばかり列挙し、否定しています。しかしなぜかご自分は結婚されて家族をお持ちのようです。

 家族の話はしょせん自慢と愚痴であるとし「自分の家族や家柄しか話題にしない鼻持ちならない奴がいる」と著者は言います。しかし、この本には著者の家族、エリート軍人の家系であった父、地主階級出身の母だけでなく、なんとか大学の名誉教授であった叔父、医者であるもう一人の叔父と教授であったその妻、などなど、話の筋にはあまり関係のない「立派な人物」の紹介がてんこ盛りです。著者は親切にも鼻持ちならない「実例」を示されたのでしょうか。

 「お互いを理解し助け合って生きている。そんな家族がいたらいっそ気持ち悪い」と書かれています。ここには背筋が寒くなるような著者の心象風景を感じます。。著者は家族に対して強い恨み持っているようですが、それはご自分の特殊な家族だけにしていただきたいものです。決して一般化すべきものではありません。

 また路上生活者を家族から逃れて自由な生活を楽しんでいる人として礼賛しています。自説を主張するためには特殊な例外まで一般化するという姿勢は論理が壊れています。それに路上生活者の多くは好きでやっているわけではないでしょう。

 全体を通じて気になるのは、教訓を垂れるような著者の姿勢です。ご自分は偉大な人間だと勘違いされているのでしょうか。ただこんな本でもアマゾンのレビューのうち10%強は最高評価をつけています。いろいろな読者がいるようですが、世の中には簡単に詐欺にかかる人が少なくないわけですから、この本の価値を示すことにはならないでしょう。

 戦後の一時期、戦前からの反動もあって、家や共同体というものを否定して個人を大切にしようとする個人主義の風潮がありました。著者はそれを極端な形で受け入れたように感じます。著者の性格にもよく適合したのでしょう。ただ、こんな考えに同調する人が多くなれば少子化はさらに進み、将来、社会は存続の危機を迎える可能性が高くなります。それでも家族を否定し、個人を大切にすべきでしょうか。高齢の著者は逃げ切れるでしょうが、後の世代は影響を受けることでしょう。お粗末で、かつ有害な本でありました。