噛みつき評論 ブログ版

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台風21号の予報は妥当であったか

2019-04-14 22:07:08 | マスメディア
 先日「北山」を歩いてきた。北山は京都市の北に広がる標高1000mに満たない山地で、北山杉や、戦前、楽しむための登山の発祥地であったことで知られる。そのためか、登山道や林道が縦横に走っている。したがって様々な登山コースがあるのだが、そのほとんどが倒木で通行ができない、あるいは通行困難となっていて、その状態は現在も続いている。道に横たわった数本の杉の大木を乗り越え、またはくぐり、あるいは斜面を迂回して進むのだが、人ひとり通れる程度に枝が切ってあるところもあり、時間はかかったがなんとか通れた。

 しかしこんなに多くの倒木は初めての経験である。場所によって風の強さに違いがあるようで、谷底から山頂まで全面的に杉がなぎ倒されている斜面もあれば、ほとんど被害のない斜面もある。不思議なのは谷沿いにも多くの被害があったことである。谷沿いは風が弱いと思いがちだがそうではないらしい。また尾根は風が強いと考えられるが、倒木の分布は必ずしもそうではなかった。しかし植生との関係もあるので一概には言えないことと思う。こんなに大きな風の被害は初めての経験である。私の家でも多少の被害があった。門の扉の鉄製の閂(かんぬき)が曲がって脱落し、門が風で勢いよく開き、一部が壊れた。

 昨年の9月4日、台風21号が接近してきた折、気象庁、つまりテレビはいつもの通り強い警戒を呼びかけていた。私もそれは知っていたが、通常の台風と特に異なるとは考えなかった。いつものように大げさな報道であり、言うほどのことはなかろうと考えていた。ところが台風が接近した2~3時間、びっくりするような強風に慌てて、風雨の中、対策に走り回った。あとから気象庁はオオカミ少年であることを知った。果たして気象庁は台風21号がこれほどの被害を与えるとは予想していたのだろうか。国土交通省 近畿地方整備局が後になって発表した台風21号に関する資料では以下のように述べている。

『【台風21号の概要】
非常に強い台風第21号は、勢力を落とさず9月4日午後2時頃に神戸市に上陸した。過去に大阪湾沿岸で甚大な被害をもたらした室戸第風、ジェーン台風、第2室戸台風と比較して最低気圧、平均最大風速とも同規模レベルであり、その経路は既往最高潮位を記録していた第2室戸台風とほぼ同じであった。』

 比較された中で最も新しい第2室戸台風は1961年であるから60年近くも昔である。台風第21号は約60ぶりに来襲した台風ということになる。問題だと思うのは、これほどすごい台風なのに近畿地域の住民は事前にそのことを認識できていなかった、つまり適切に知らされていなかったということである。気象庁の観測、予報技術は年々向上しており、予報の精度はかなり良くなった。にもかかわらず、わずか半日ほど先の予想が間違っていたのだろうか。当時の予報データが少ないので確実なことは言えないが気象庁の認識もかなり甘かったのではないか。気象庁では台風21号の上陸時の中心気圧を950ヘクトパスカルとしているが、室戸岬で11時前に934.8ヘクトパスカル(速報値)を観測していたそうである(饒村曜 気象予報士による)。真偽のほどはわからないが、この差は実に大きく、もし934.8ヘクトパスカルが正しければこの台風の強さを裏付けることになる。つまり上陸直後の観測次第ではもっと正確な予報が可能であったのではないかと思う。大変重要なことだがこの差に関する言及は見られない。

 もうひとつの点は発表の文章、文言の問題である。気象庁の発表はつねに大袈裟の観がある。少なくとも私はそれに慣れていて、過去の台風の予想は半分以下に割り引いて理解してきた。それで充分であった。大袈裟の度合いは年々強まって、中程度の台風でも最大級の警戒を呼びかけるのが普通になった。つまり中程度の台風でも最大級の台風でも同じ、最大級の警戒なのである。安売り、大安売り、逆安売り、超安売りと、言葉は過激になっていく傾向がある。これは一方で、段階・程度を正確に表す言葉の機能が衰退することになる。とにかく、台風21号は予想を超える強さだったと感じた人が多かった。発信側とのギャップがあったことは疑いない。

 予報を甘く発表して、大きな被害がでると責任を問われかねない。気象庁にはそういった気持ちがあるのだろう。そのため大袈裟な発表を続けてきた結果、本当に深刻に受け止めるべき台風21号の予報が正しく周知されなかったということになったように思う。正確に伝えるという言葉の機能を大切にしたい。気象庁の方々には国語を勉強していただきたいものである。