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東電元幹部に無罪判決、東電の罪は他にある

2019-09-22 23:18:31 | マスメディア


 東京地裁は、検察審査会によって強制起訴された東京電力元経営陣3被告に対し、無罪を決定した。妥当な判決であると思う。検察側の主張は被告らは15.7mの津波の可能性を知りながら対策を怠ったというものだが、それが過失というなら防潮堤を管理する国や自治体も起訴されなければならない。防潮堤がより完全なら被害の多くは防げた筈だから。

 検察審査会による強制起訴は、有権者から選ばれた審査員11人が検察官が不起訴とした事件を審査する制度である。民意を反映するために、司法制度改革に伴い導入された。民意を反映するということはポピュリズムに影響されやすいということでもある。かつて強制起訴されたJR西日本の福知山線脱線事故では歴代3社長が無罪となった。事故の第一原因は運転士の非常識な速度超過だが亡くなっている。遺族の方々の無念を思えば、誰かが、できれば偉い人が罰せられないと納得できないという感情も理解できる。しかし法に従って冷静に対処するのが当然である。一方、強制起訴された被告という立場を2度経験することになり、長期間、精神的・経済的負担を強いられる。

 この無罪判決に対し、産経と読売の社説が肯定的であるのに、朝日は否定的である。原発に対する姿勢が判決に反映しているわけである。NHKは判決を不服とする人の「誰が責任を取ると言うのか」と怒る姿を取り上げていた。災害には誰かが責任をとらなければならないのだという姿勢を強調したかったようだ。判決を肯定する立場ではなさそうである。

 判決に対する評価をみると、ある傾向が見て取れる。原発に否定的な新聞やテレビは無罪判決に否定的である。つまり原発に対する考え方によって判決の評価まで変わっている可能性がある。そういう意見を持つのは自由だが、それを判決を否定する側ばかりを取り上げるような印象操作をしながら全国に報道するのは報道ではなく扇動というのが正しい。

 しかし東京電力に過失がないとは言えない。それはむしろ津波後の対処にあると思う。地震後しばらくして津波が到着し、原発は全交流電源を失い、冷却機能が働かなくなって炉心溶融に至ったとされている。この過程はいろいろと調査され、報道もされている。しかし1号機の初動対応の遅れが1号機の建屋爆発につながり、それが他号機への対処にも悪影響を及ぼした事実は、ことの重大性のわりには知られていない。

 ごく簡単に言うと、1号機には電源なして動作するIC(非常用復水器、イソコン)と呼ばれる非常用の冷却装置がついていたのだが、理解不十分のために途中でこれを手動で停止してしまった。直流電源の不安定さから計器が読めないなど、いろいろ事情があったと思うが、絶対にしてはならない過ちであった。停止していることが明らかになったのはICが停止してから8時間経っており、既に炉心溶融が始まっていた。ICが停止してから1時間で燃料棒が水面から露出し、さらに1時間で溶融が始まるそうである。簡単な計算でもわかる、絶対に必要な基礎的な知識である。一部の人は気づいていたが、これが共有されないかったために起きた事態だと言ってもよい。幹部が集まる免振棟でも1号炉の冷却にあまり注意を払っていなかったようである。細心の注意を向けるべきところなのにである。2号機、3号機にも非常用の冷却装置が用意されていたが、こちらも途中で停止し、十分に機能を活用できたか、わからない。

 この1号機の不手際がなかったなら原発事故がなかったとまでは言わないが、相当程度軽減された可能性があると思う。裁判を勧めるわけではないが、東京電力の過失というならこちらの方が適切ではないか。組織の問題や運転員の教育問題など問題点は少なくない。マニュアルはきっちり整備されているだろうが、マニュアルにない不測の事態に直面した時、頼れるのは広範な知識を持つ人間である。

参考記事前編
参考記事後編