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コロナ感染に見る推論方法の誤り

2021-01-08 21:37:04 | マスメディア
 1月4日にTBS系で放送された番組の中で、辛坊治郎氏が神奈川県の黒岩知事に対して神奈川県のベッド数を把握していないことを詰問する場面が話題になった。しかしこれはともかく、問題にしたいのはこの後、辛坊氏が「GO TOトラベルは家族単位で行くものであるし、新型コロナの感染を広めるものではない」と断言したことだ。GO TOトラベルは家族単位で行くものとは限らない。友人のグループもあれば会社のグループもあるし、家族だけでも旅先での接触がある。ひどい単純化である。この現状認識の問題に加えて感染拡大の要因に対する推論に問題がある。

 辛坊治郎氏は見識や認識能力に於いてテレビ界ではトップクラスの人物てあると思うが、新型コロナの感染拡大要因については、そのような人物でも推論方法には問題があると思わざるを得ない。

 感染者数の変化を表すのに実効再生産数というものがある。平均的に1人の感染者が何人に感染させるかというもので、実効再生産数が1以下では減少、1以上では増加となる。この数値に影響を与えるものは当然ながらひとつではない。人の移動、人と人との接触度合い、手洗いなどの習慣、マスクの装着率、気温、湿度など多くあり、それぞれの感染に対する寄与率(影響度)は異なる。

 GO TOトラベルは7月頃から始まったのに感染者数はその後下がっていることを取り上げてGO TOは感染拡大に無関係だとの主張があるが、そのような断定は怪しい。仮にGO TOが実効再生産数を0.2だけ上げるものとしよう。7月からの高温多湿がマイナスに働き実効再生産数が1以下であればGO TOの影響は見えない。11月になって低温と乾燥が仮にプラスに働くようになって、GO TOによる加算で実効再生産数が1以上になったとすれば11月からの上昇は説明がつく。つまり7月以後のGO TOと感染者数を見て単純に無関係だとは言うのは誤りである。

 ある事象が他の事象に影響を与え場合、独立変数と従属変数の関係でもよいが、双方が1対1とは限らない。独立変数が多数(現実にはこの方が多い)の場合もあるし、それぞれの従属変数に対する寄与度も一定ではない。しかもそれぞれの独立変数と従属変数の関係も直線関係だけとは限らない。ここまで考えることもないとも言えるが、単純にひとつの独立変数だけに注目して因果関係を断定する危険について述べたいわけである。

 ものごとを単純化するとわかりやすくなるのは確かであるが、危険な誤解を招くことがある。床屋談義のレベルならこれでもよい。辛坊治郎氏のような信頼性と発言力のある人物がGO TOは感染拡大に無関係などとテレビで発言すれば世論をミスリードする可能性が高い。こういう考えがGO TOの停止に反対する動きとなった可能性も否定できない。

 本日、ようやく緊急事態宣言が発令されたが、かなり遅すぎた感がある。大雑把な推論であるが、12月の感染者数の急増期になされたのは「勝負の3週間」という呼びかけだけであった。それまでの増勢傾向に加えての急増は感染拡大の強い要因があると考えるべきである。それを放置して、何とかなるだろうと考えたのは見通しが甘い。GO TOに対する楽観的な見方もそのひとつだと思うが。

 化学プラントなどではフェイル・セーフという考え方が設計の基本にある。不測の機器故障、地震など外部の影響があったとき、安全に自動停止させるという考え方である。12月に強力な対策を取らない場合、医療崩壊の可能性が考えられた。たとえ対策が必要以上であって経済に負担をかけても医療崩壊よりはマシと考えるなら、その時点で対策を取るべきであったろう。早く収束させた方が結局、経済に対する負担も少ないという発想が少なかったように思う。また感染者数が多くなれば感染経路の調査も不可能になる。感染が拡大するほど対応は困難になるということも軽視されているように感じる。

 誰が言い出したのか知らないが、ウィズコロナという言葉がある。コロナと共存を図るという考えであるが、とんでもない誤りであろう。共存期間が長くなれば変異種の発生機会も増え、強毒化の危険もある。一緒に暮らせるほど甘い相手ではない。