それで、雪だ。- 全てに混沌を齎す雪。
雪が降る、一月に、そして五月にもそれほど少なくなく、八月にも、君が気が付いたように雪が降る。総じて言えば、雪が降ること無く過ぎ去る月は無いのだ。これは、断言できるよ。
Und dann der
Schnee – er bringt alles durcheinender.
Es schneit im Januar,
aber im Mai nicht viel weniger, und im August schneit es
auch, wie du bemerkst. Im ganzen kann
man sagen, daß kein Monat vergeht,
ohne daß es schneit, das ist ein Satz,
an dem man festhalten kann.
トーマス・マン作「魔の山」より。
ダヴォースで八月に雪がちらつくとすれば下旬の事だろうか?標高からすれば、偶に頂上にかかる雲とか雷雨時に風花が舞い落ちたり、雹が降るのかもしれない。夏の情景である。
この一説は、先にサナトリウムに逗留していた長患いの従兄弟が新米のハンス・カストロプに対して、山の生活の鬱陶しさを語った場面ではないかと想像する。当時のサナトリウムの部屋からダヴォースの町とその教会の鋭塔を眺めた白黒写真がカレンダーに印刷されている。クライマックスである雪の遭難シーンは終盤にやって来るが、この一節は、その後混沌とする世界大戦勃発で終わる物語の破局の伏線なのだろうか。
響きが良い。特に二行目の名詞・シュネー[∫ne:](雪)の喉からの響きを主語・ エル[er](彼)の嵩高感とその後の動詞の切れ、それを受ける副詞・デュルヒアイナンダー(乱雑に)への、あたかも硬くも柔らかく、冷たくも融け行く嵩高い雪の性質をカオスとして表現する語り口は見事である。
試供品として貰ったドイツのブランデー・アスバッハのリキュールに氷を一欠片入れて、ちびちびと舐める。ブランデー41%に対して30%のリースリングのアウスレーゼを加えて、19度のアルコールとしたものである。残りの19%はなになのだろうか。少なくとも甘く、後口が悪い。出来の悪いアウスレーゼを巧く味を調整して、一定の味覚を作っているのだろう。ワイン産地では、ウィスキーは好まれてもブランデーは好まれない。
´
参照:
山間の間道の道端で [ 生活 ] / 2006-03-24
即物的な解釈の表現 [ 文化一般 ] / 2006-03-23
谷間の町の閉塞感 [ 歴史・時事 ] / 2006-03-22
時間差無しに比較する [ 音 ] / 2006-03-21
高みから深淵を覗き込む [ 文学・思想 ] / 2006-03-13
雪が降る、一月に、そして五月にもそれほど少なくなく、八月にも、君が気が付いたように雪が降る。総じて言えば、雪が降ること無く過ぎ去る月は無いのだ。これは、断言できるよ。
Und dann der
Schnee – er bringt alles durcheinender.
Es schneit im Januar,
aber im Mai nicht viel weniger, und im August schneit es
auch, wie du bemerkst. Im ganzen kann
man sagen, daß kein Monat vergeht,
ohne daß es schneit, das ist ein Satz,
an dem man festhalten kann.
トーマス・マン作「魔の山」より。
ダヴォースで八月に雪がちらつくとすれば下旬の事だろうか?標高からすれば、偶に頂上にかかる雲とか雷雨時に風花が舞い落ちたり、雹が降るのかもしれない。夏の情景である。
この一説は、先にサナトリウムに逗留していた長患いの従兄弟が新米のハンス・カストロプに対して、山の生活の鬱陶しさを語った場面ではないかと想像する。当時のサナトリウムの部屋からダヴォースの町とその教会の鋭塔を眺めた白黒写真がカレンダーに印刷されている。クライマックスである雪の遭難シーンは終盤にやって来るが、この一節は、その後混沌とする世界大戦勃発で終わる物語の破局の伏線なのだろうか。
響きが良い。特に二行目の名詞・シュネー[∫ne:](雪)の喉からの響きを主語・ エル[er](彼)の嵩高感とその後の動詞の切れ、それを受ける副詞・デュルヒアイナンダー(乱雑に)への、あたかも硬くも柔らかく、冷たくも融け行く嵩高い雪の性質をカオスとして表現する語り口は見事である。
試供品として貰ったドイツのブランデー・アスバッハのリキュールに氷を一欠片入れて、ちびちびと舐める。ブランデー41%に対して30%のリースリングのアウスレーゼを加えて、19度のアルコールとしたものである。残りの19%はなになのだろうか。少なくとも甘く、後口が悪い。出来の悪いアウスレーゼを巧く味を調整して、一定の味覚を作っているのだろう。ワイン産地では、ウィスキーは好まれてもブランデーは好まれない。
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参照:
山間の間道の道端で [ 生活 ] / 2006-03-24
即物的な解釈の表現 [ 文化一般 ] / 2006-03-23
谷間の町の閉塞感 [ 歴史・時事 ] / 2006-03-22
時間差無しに比較する [ 音 ] / 2006-03-21
高みから深淵を覗き込む [ 文学・思想 ] / 2006-03-13
というか、あまりに美しく描かれているのがミソなのかも。
原書で読めるpfaelzerweinさんが羨ましく思います。
ドイツ語の「Schnee」と日本語の「雪」ではイメージがあまりに違いますね。
やいっちさんの記憶では、どうですか?第7節は、二月頃でしょうね。
語感の違いは、雪の質だけでなくて、冬の戸外での会話とか、声の響き方とか、ありますね。
予想通りとすると、上の台詞は青年が少し気取って語った感じでしょう。
書いておられるように(察するとおり)八月の従兄弟との会話の中にあるようです(第四章のヨーアヒムの発言)。
第四章ですか、記憶から再構築してみると面白い。
トマスマンの文学も昔よく読んだものです。
ドイツ語とオランダ語と英語を並べてその文法を比較すると分かる筈ですが、オランダ語はどちらとも言える言語のようです。
するとドイツ語の音の特徴に上の[∫]などの頻繁に表れる鋭い音が挙げられます。この響きの鋭さは音の通りは良くなるかもしれませんが、冷たい感じも与えるかも知れません。
マンの文章の音は流れないので、その分、自然な抑揚が利いているような気がします。沈着と焦燥などがコントラストを付けて表れるのが良いように思います。