「96歳の大学生」という本を読みました。
著者の歌川豊國という人は、明治36(1903)年2月3日生まれで、尋常小学校しか出ていなかったですが、93歳のときに高校に入り、卒業して、96歳で近畿大学に入学したということです。
この本は、大学生になったときに書かれたものでした。
代々続く浮世絵師の一門に生まれ、子供のころから浮世絵の技術を身に着け、その後戦争や時代の変化につれて様々な仕事をしてきたということです。
明治生まれなので、明治天皇崩御・乃木将軍夫妻の殉死、米騒動、関東大震災などの実際の体験や記憶があり、江戸時代のことさえも年上の人から聞いていたりして、歴史の先生よりもよくわかっていたりします。明治から平成に至るまで、世の中を全部見て体験しているということになります。
そして、90代になってからは、妻の介護や自分の勉強や浮世絵の仕事などを精力的にこなしており、本当にパワーのあるおじいさんです。
人は何歳になっても意欲と好奇心を失わず、健康に留意しつつ、目的達成に向かって生きていくべきだということが書かれていました。
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私は60代の大学生で、もう老域に達していると思っていたのですが、90代になってからもこんなに意欲を持って前進できることを知り、私なんてまだまだ若いなと思ったのでした。
ところで、この本は平成11年(1999年)に書かれており、今は2021年なので、当時96歳だった著者の方が、今現在、存命であるわけはありません。
96歳で大学に入学された著者は、近畿大学法学部を卒業されたのだろうか、と調べてみました。
すると、2000年11月11日に亡くなられていることがわかり、残念ながら翌年(大学2年の途中)で終わっているということがわかりました。
しかし、97歳まで生きられたということでもすごいことではあります。ご本人の願いは、大学・大学院を卒業し130歳まで生きたいということでした。
歌川豊國という浮世絵師のことをネットで検索すると、1代目から7代目など、同じ名前の人がいてわけがわかりません。これは歌舞伎役者のようなもので、その流派の人が同じ名前を代々継いでいくのでしょう。この人の本名は、本の中の記述によれば豊春というようです。
代々同じ名前では区別がつかないので、個人の名前のほうがわかりやすいなとは思いました。
著者の方は6代目豊國で、その息子さんが7代目になっているようです。
浮世絵は、版画の摺り方の技術は伝統を継承するために、文化庁が補助金などを出しているそうですが、肝心な原画を描く浮世絵師の育成には何もされていないのが問題だとのこと。
確かに、原画を描く人が続くことが大切だと思いました。
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人生は目標を持ってそれに向かって活動していかなくては、何も達成されない。
この人は、大学卒業という目的は達成できなかったけれど、こうやって著書を残してくれたので、多くの人が人生観を学ぶことができます。
感謝したいと思います。