1954年
渡辺投手は一見平凡らしいが、よくみると多くの特長をもっている。第一に「東の大友」に対し「西の渡辺」この二人こそ「軟式野球で認められた双璧」である。第二にかんたんに大胆に投げこむピッチングのどこに大打者の苦しむ秘密があるかちょっとわからないこと、第三に三者三振にうちとっても、無死で二塁打をたたかれても同じ顔つきをしているし、大切なときに塁上で従死しても、ヒットを打ってスタンド全体がわいても打った渡辺はだれが打ったのかといったそしらぬ面持ちで心もち内またの走り方で静かに一塁につき、次の打者をみている。どこに闘志がひそんでいるのか、神経が太いのか、それとも気は小さいが、表情に出さないのか、考えてみるとなかなか特長が多い。朝鮮の古都であり、今や北朝鮮の首都である平壌生まれ、十二歳まで牡丹江の流れをみて暮らし、愛媛県の西条市に引き揚げて野球をおぼえたのであるから、渡辺の身についているのは「四国の野球」である。西条中学で軟式野球、倉敷レーヨンに入社し「軟式の投手、二年目に硬球チームになって渡辺も硬球を握ることになったが、前途に望みをもって二十七年春タイガース入りしたのが球歴であるから硬球握って今年で四年目の投手、二十八年二軍から昇格。登録され十勝十一敗、防御率2・86でリーグの十二位(阪神では藤村に次いで二位)その十勝のうちには、巨人に三勝、中日に一勝という金星がはいっている。全く無名の新人でありながら「大試合用の投手」今年はさらにその才能をのばし十日現在で十勝十一敗、その中には巨人に二勝の金星が入っているし、対巨人戦というと登板する実力投手にのし上がってしまった・・・がそのたねは?投法は上手投げとスリー・クォーター、外角と内角を変わった球質でうまくついてくるのが案外カーブを多投する。外角を攻めるカーブは曲がりが小さいので効果が多い。その球にまぜて外角をつく直球が自然スライダーになるので打者としては相当な警戒をしている時天ぷのシュートでさっと内角をついて凡打させている。これがウィニング・ショットになっていると思う。そのシュートが落ちるとシンカーまがいの球質になり「飛ばない球」の一つになっている。ただし今年はこの球を使う数が減り内、外角へふわりときめるスローカーブを少し用いているが、内角へ落ちながら入るスローカーブはいいコースになっている。しかし驚くほどのスピードもカーブももっていないのであるから、シュートが甘くなれば危ないと気づいたのか、ナックルの研究をしているらしいからあるいは時に用いているのではないかと思う。目標は藤本投手の全盛時代といっているから藤本のスライダーとフォーク・ボールに対しスライダーとナックルを身につける方針かもしれない。四球を出した時、少しおもしろくもない表情をするだけで気も強い。やはりコントロールと投手守備この二つを完全にすることが大投手への道であろう。
渡辺投手
中沢さんは僕のピッチングをだいぶ買いかぶっているようだ。僕は全体にもう一ケタレベルが低いと思う。まず球速もAの下ほどはない。僕自身が採点すればBの中だと思う。コントトールはBの下がついているが、まあこんなものだろう。チェンジ・オブ・ベースは去年よりは自信がもてるようになってはいるが、まだ採点以前、ウイニング・ショットのAの下はつけすぎだ。今年はカーブをマスターしてこれを有効に使っている程度で、これまで極め球にしていたシュートは自分でも感心したものではなかった。守備のBの下は申し分?ありません。自分でもなぜ下手なのかわからないぐらいです。度胸はAの下になっていますが、もしこの採点どおりの度胸があれば、もっと勝ち星がかせげています。研究課題にコントロールと守備を指摘されてますが、終わったときフォームがなめらかでなく突っ立ているので「もつとねさせ」とよく注意される。ここらを改良するとよくなるのかもしれない。もともと身体が固くやわらかくすることが念願です。巨人の藤本投手を目標にというのはその巧味を見習いたいのです。
渡辺投手は一見平凡らしいが、よくみると多くの特長をもっている。第一に「東の大友」に対し「西の渡辺」この二人こそ「軟式野球で認められた双璧」である。第二にかんたんに大胆に投げこむピッチングのどこに大打者の苦しむ秘密があるかちょっとわからないこと、第三に三者三振にうちとっても、無死で二塁打をたたかれても同じ顔つきをしているし、大切なときに塁上で従死しても、ヒットを打ってスタンド全体がわいても打った渡辺はだれが打ったのかといったそしらぬ面持ちで心もち内またの走り方で静かに一塁につき、次の打者をみている。どこに闘志がひそんでいるのか、神経が太いのか、それとも気は小さいが、表情に出さないのか、考えてみるとなかなか特長が多い。朝鮮の古都であり、今や北朝鮮の首都である平壌生まれ、十二歳まで牡丹江の流れをみて暮らし、愛媛県の西条市に引き揚げて野球をおぼえたのであるから、渡辺の身についているのは「四国の野球」である。西条中学で軟式野球、倉敷レーヨンに入社し「軟式の投手、二年目に硬球チームになって渡辺も硬球を握ることになったが、前途に望みをもって二十七年春タイガース入りしたのが球歴であるから硬球握って今年で四年目の投手、二十八年二軍から昇格。登録され十勝十一敗、防御率2・86でリーグの十二位(阪神では藤村に次いで二位)その十勝のうちには、巨人に三勝、中日に一勝という金星がはいっている。全く無名の新人でありながら「大試合用の投手」今年はさらにその才能をのばし十日現在で十勝十一敗、その中には巨人に二勝の金星が入っているし、対巨人戦というと登板する実力投手にのし上がってしまった・・・がそのたねは?投法は上手投げとスリー・クォーター、外角と内角を変わった球質でうまくついてくるのが案外カーブを多投する。外角を攻めるカーブは曲がりが小さいので効果が多い。その球にまぜて外角をつく直球が自然スライダーになるので打者としては相当な警戒をしている時天ぷのシュートでさっと内角をついて凡打させている。これがウィニング・ショットになっていると思う。そのシュートが落ちるとシンカーまがいの球質になり「飛ばない球」の一つになっている。ただし今年はこの球を使う数が減り内、外角へふわりときめるスローカーブを少し用いているが、内角へ落ちながら入るスローカーブはいいコースになっている。しかし驚くほどのスピードもカーブももっていないのであるから、シュートが甘くなれば危ないと気づいたのか、ナックルの研究をしているらしいからあるいは時に用いているのではないかと思う。目標は藤本投手の全盛時代といっているから藤本のスライダーとフォーク・ボールに対しスライダーとナックルを身につける方針かもしれない。四球を出した時、少しおもしろくもない表情をするだけで気も強い。やはりコントロールと投手守備この二つを完全にすることが大投手への道であろう。
渡辺投手
中沢さんは僕のピッチングをだいぶ買いかぶっているようだ。僕は全体にもう一ケタレベルが低いと思う。まず球速もAの下ほどはない。僕自身が採点すればBの中だと思う。コントトールはBの下がついているが、まあこんなものだろう。チェンジ・オブ・ベースは去年よりは自信がもてるようになってはいるが、まだ採点以前、ウイニング・ショットのAの下はつけすぎだ。今年はカーブをマスターしてこれを有効に使っている程度で、これまで極め球にしていたシュートは自分でも感心したものではなかった。守備のBの下は申し分?ありません。自分でもなぜ下手なのかわからないぐらいです。度胸はAの下になっていますが、もしこの採点どおりの度胸があれば、もっと勝ち星がかせげています。研究課題にコントロールと守備を指摘されてますが、終わったときフォームがなめらかでなく突っ立ているので「もつとねさせ」とよく注意される。ここらを改良するとよくなるのかもしれない。もともと身体が固くやわらかくすることが念願です。巨人の藤本投手を目標にというのはその巧味を見習いたいのです。