1954年
さかや・えつおはタイガースのホープであり、その成績が阪神今年度の戦績に大きくひびくことになると思う。いかに闘志がさかんでも、いかに打力が強くとも・・・最近の阪神投手力ではライバル巨人に勝越すことはまず不可能に近い。第一に必要なのは使える左投手、巨人をおさえる左投手であることは万人の認めるところ、この候補者として白羽の矢を立てられたのが栄屋、話をきり出すまでの阪神が慎重に検討を加えたことがうなずける。話をうけた栄屋がまず第一に考えたことは体力的にいけるか、どうかの点、相当期間熟慮したうえで決意した心境もよくわかる。二十四歳、五尺六寸五分、十六貫(十七貫になれば理想的本人もそれを望んで手をつくしている)左投げという武器そして都市対抗に優勝した球歴、この条件で使えると断定した阪神も、やりとおしてみようと決意した栄屋もともに正しい考えだと思う。全国的な大会(高校春、夏の大会、都市対抗)に優勝するためには、大会に出場するため予選に勝つことが第一の関門、そして八月の酷暑をおかし連投、強敵に勝ちぬかねばならない。幸運や器用、非力では決してつかめぬ優勝、あくまで安定した実力がモノをいうだけに・・・かつて優勝してプロ入りした投手たちはいずれも一つの時代をつくっている。栄屋も二十四日までに6勝3敗の成績を挙げその6勝のうちには巨人と中日から得た金星も入っているが、世評は「栄屋活躍す」というところまでいっていない。その原因の一つは、加入に際してじっくり考慮したその性格・・・自省の深さ、反省の強さがわざわいしているのではあるまいか。大阪府立化工から近畿大、駄々と努力して第一線に出て来た投手、今年で投手経歴八年目、そのコースを見るといかにも知的投手。さらに鐘紡チームで理論的指導をうけたことを思うと・・第一に必要なことは健康な体力と大胆な投球であろう。現在の投法は上手投げにときどきスリー・クォーターをまじえ内角低めにきまる速球(手首のきくときはよくのびる)内外角をつくカーブ(大きく落ちる時もあるが大体曲がりが小さい。大きく曲がると打たれる率が多い)これに時たまスライダーかと思う球が入るがまだほんものではない。左投手としては単調であり打者に圧迫感を与えない原因は外角周辺をつくシュートが少ないことである。これこそ左投手としては天ぷの武器であるだけにこの威力を欠いてはカーブのききめは半減する。あらゆる意味においてシュートの研究と活用が第一の課題であり、コントロールを生かしてのチェンジ・オブ・ベースの修得、この二つを巧みに操作したら「うまい栄屋」から「こわい栄屋」に躍進するに違いない。
栄屋投手
中沢さんはまず第一にがん強な体力が必要だといわれているが全くその通りで十六貫の体重では足をあげて豪快なフォームをすることもできない。それが結局打者に圧迫感を与えない原因だと思っている。大体いままでがラッキーにすぎたわけで、むろん鐘紡で優勝したからといって大投手だとはつゆ思っていない。シュートが大事なことそしてそのシュートがないこともよくわかる。鐘紡へ入社するまではシュートもよくきまったのだが、それからフォームを研究している間に、フォームはスムーズになったけれどもシュートがなくなってしまった。いまのシュートは鋭角的に曲がらないので、打たれる球はほとんどスピードがないシュートだ。しかし左投手のウイニング・ショットは必ずしも鋭いシュートだけにあるとは思われない。いままで負けたことがない。見た感じでは非常に遅いようにみえるらしいが、内角の手もとでのびる球は打たれていない。カーブは大きく曲がるとき威力がなくなり小さいカーブは阪神入りしてからマスターしたもの。シュートももちろん藤村隆男投手に教わって研究しているが、いちばん大切なのは「手首を強くすること」と「内角低目のコントロール」だろう。中沢さんは反省の深さがわざわいしているといわれているが、私が皆さんからあまり期待されすぎていままで固くなっていたことは確かだ。しかし見た目に消極的にうつるのは、性格だから仕方がないと思う。
さかや・えつおはタイガースのホープであり、その成績が阪神今年度の戦績に大きくひびくことになると思う。いかに闘志がさかんでも、いかに打力が強くとも・・・最近の阪神投手力ではライバル巨人に勝越すことはまず不可能に近い。第一に必要なのは使える左投手、巨人をおさえる左投手であることは万人の認めるところ、この候補者として白羽の矢を立てられたのが栄屋、話をきり出すまでの阪神が慎重に検討を加えたことがうなずける。話をうけた栄屋がまず第一に考えたことは体力的にいけるか、どうかの点、相当期間熟慮したうえで決意した心境もよくわかる。二十四歳、五尺六寸五分、十六貫(十七貫になれば理想的本人もそれを望んで手をつくしている)左投げという武器そして都市対抗に優勝した球歴、この条件で使えると断定した阪神も、やりとおしてみようと決意した栄屋もともに正しい考えだと思う。全国的な大会(高校春、夏の大会、都市対抗)に優勝するためには、大会に出場するため予選に勝つことが第一の関門、そして八月の酷暑をおかし連投、強敵に勝ちぬかねばならない。幸運や器用、非力では決してつかめぬ優勝、あくまで安定した実力がモノをいうだけに・・・かつて優勝してプロ入りした投手たちはいずれも一つの時代をつくっている。栄屋も二十四日までに6勝3敗の成績を挙げその6勝のうちには巨人と中日から得た金星も入っているが、世評は「栄屋活躍す」というところまでいっていない。その原因の一つは、加入に際してじっくり考慮したその性格・・・自省の深さ、反省の強さがわざわいしているのではあるまいか。大阪府立化工から近畿大、駄々と努力して第一線に出て来た投手、今年で投手経歴八年目、そのコースを見るといかにも知的投手。さらに鐘紡チームで理論的指導をうけたことを思うと・・第一に必要なことは健康な体力と大胆な投球であろう。現在の投法は上手投げにときどきスリー・クォーターをまじえ内角低めにきまる速球(手首のきくときはよくのびる)内外角をつくカーブ(大きく落ちる時もあるが大体曲がりが小さい。大きく曲がると打たれる率が多い)これに時たまスライダーかと思う球が入るがまだほんものではない。左投手としては単調であり打者に圧迫感を与えない原因は外角周辺をつくシュートが少ないことである。これこそ左投手としては天ぷの武器であるだけにこの威力を欠いてはカーブのききめは半減する。あらゆる意味においてシュートの研究と活用が第一の課題であり、コントロールを生かしてのチェンジ・オブ・ベースの修得、この二つを巧みに操作したら「うまい栄屋」から「こわい栄屋」に躍進するに違いない。
栄屋投手
中沢さんはまず第一にがん強な体力が必要だといわれているが全くその通りで十六貫の体重では足をあげて豪快なフォームをすることもできない。それが結局打者に圧迫感を与えない原因だと思っている。大体いままでがラッキーにすぎたわけで、むろん鐘紡で優勝したからといって大投手だとはつゆ思っていない。シュートが大事なことそしてそのシュートがないこともよくわかる。鐘紡へ入社するまではシュートもよくきまったのだが、それからフォームを研究している間に、フォームはスムーズになったけれどもシュートがなくなってしまった。いまのシュートは鋭角的に曲がらないので、打たれる球はほとんどスピードがないシュートだ。しかし左投手のウイニング・ショットは必ずしも鋭いシュートだけにあるとは思われない。いままで負けたことがない。見た感じでは非常に遅いようにみえるらしいが、内角の手もとでのびる球は打たれていない。カーブは大きく曲がるとき威力がなくなり小さいカーブは阪神入りしてからマスターしたもの。シュートももちろん藤村隆男投手に教わって研究しているが、いちばん大切なのは「手首を強くすること」と「内角低目のコントロール」だろう。中沢さんは反省の深さがわざわいしているといわれているが、私が皆さんからあまり期待されすぎていままで固くなっていたことは確かだ。しかし見た目に消極的にうつるのは、性格だから仕方がないと思う。