プロ野球 OB投手資料ブログ

昔の投手の情報を書きたいと思ってます

麻生実男

2016-11-07 20:18:59 | 日記
1962年

ゲームがはじまると麻生はバットをかついでブルペンへ走っていく。控え投手がウオームアップしているそばで思いきった素振りを二度三度・・・。気合いがこもってくると打席へはいる。左腕、上手投げ、下手投げ、いろいろな型の投手を相手にじっくり目をならす。それが代打の準備運動だ。オールスター戦出場がきまったことをきいて三原監督が喜んだ。「これは川上君のタイムリー・ヒットですな。代打ひと筋に生きてきた男の努力がやっと認められたわけですからね。実は私も去年出そうかと考えたことがあるんだが、自分のところの選手なのでなんとなく遠慮しちゃってね」大洋ナインは口をそろえて「フリー・バッティングのとき一番遠くとばすのは麻生だ」という。それもボックスにはいるなり、一球目からパッと調子を出してガンガン外野へ打つ、といった特色をもつ麻生だ。秋山がいっていた。「ホームラン競争をさせたらあいつが両リーグ随一だろう」晴れの出場がきまったこの日のホームランも一球目から打ち気に出て、2-0からたたいたものだ。「オールスターに出ることがきまった直後でしょう、かたくなりましたよ。まっすぐ、内角高目のボールでしたね。ぼくはどちらかというとボールを打ったときの方がよく長打が出るんですよ」手にもった帽子をいじくりながらテレくさそうにしゃべる。今シーズンの三ホーマーはいずれも国鉄の左腕(金田二本、渋谷一本)それもみんな代打として川崎球場で記録した。三原監督が黒木(国鉄戦で四ホーマー)とともにこの麻生を国鉄戦の前になるとよけいフリー・バッティングさせるのも、そうした実績があるからだろう。「ふしぎですね。川崎へ帰ってくると調子が出てくるんですよ。それに左は大すきだし・・・。せっかく出してもらったオールスター戦でもなんとか縁の下の力持ちをやってみたいですね」麻生は広島県松永市出身。二十六日のオールスター・ゲームでいわば故郷にニシキを飾るわけだ。三塁側ベンチにひとり残って、一塁側で多勢の報道陣にかこまれている麻生をみていた金田がしみじみいった。「ワシが悪いんじゃない。麻生がよく打ったんだ。2-0からでもプリンプリン振ってくる。やる気のないようなのが多いウチの選手にみせてやりたい気迫だよ」
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森中千香良

2016-11-07 19:45:07 | 日記
1963年

試合前のベンチで森中は鶴岡監督の隣にすわっていた。近鉄ベンチをのぞき込むように光っている監督の目と、女性のようにやさしい森中の目が対照的だった。「オイ、先発はオマエやで。きのういったとおりや。まさか忘れてへんやろな」という監督に森中は静かに答えた。「ハア、だいじょうぶです」試合はこの森中の一人舞台で終わった。プロ入り六年目ではじめての完封勝利。二回表にとんだブルームのたった一本のゴロのヒットがなかったら、ノーヒット・ノーランができるところだ。それでも森中は落ちつきはらった目と静かな言葉でしゃべった。「野村さんのサインどおりに投げたんです。それだけですよ。それをこんなにかこまれて・・・。悪い気はしないけど困っちゃうな。そりゃあ調子はよかったです。ストレートやカーブもシュートもみんなよかった。だからシャットアウトできたんでしょうね」まるで人ごとのようだ。プロのマウンドをふんでから一度も捕手にグチをいったことがない不思議な投手。四人兄姉の三男坊。すぐ上の兄さんと妹さんが四年前から新聞のスクラップをしている。記録を見ながらときどき励ましの声をかけるのは妹さんの役目。六年目だが、公式戦に出たのは四年前から。そのスタートの年が5勝。それから11勝、10勝と安定したピッチングをつづけてきている。だが心中では10勝投手に不満だ。「いくらたまに好投しても、投手はやはり20勝せなあかんよ。10勝じゃまだ一人前じゃない。ちょうど半人前だもの」ときどき妹さんのスクラップをのぞいているから自分の成績に詳しい。去年は一度も完投はなかった。リリーフで九つも勝って、あとひとつが先発。結局スタミナがなかったんや。だからことしのキャンプは一生懸命やりました。一にスタミナ、二にもスタミナでね・・・」プロ入り27勝目ではじめてシャットアウトできたのは、この猛練習のせいだ。「ことしは調子がいいです。やれそうです。こんなにいいスタートを切ってとび出したし、ことしこそおとなのグループ(20勝投手)の仲間入りしなくちゃ・・・」六年間気が弱いヤツといわれてきたが元気にいった。野村も手ばなしでほめた。「あいつ(森中)は、ほんとうに力のあるヤツなんや。このあとの東映戦が楽しみやね」
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