1962年
ゲームがはじまると麻生はバットをかついでブルペンへ走っていく。控え投手がウオームアップしているそばで思いきった素振りを二度三度・・・。気合いがこもってくると打席へはいる。左腕、上手投げ、下手投げ、いろいろな型の投手を相手にじっくり目をならす。それが代打の準備運動だ。オールスター戦出場がきまったことをきいて三原監督が喜んだ。「これは川上君のタイムリー・ヒットですな。代打ひと筋に生きてきた男の努力がやっと認められたわけですからね。実は私も去年出そうかと考えたことがあるんだが、自分のところの選手なのでなんとなく遠慮しちゃってね」大洋ナインは口をそろえて「フリー・バッティングのとき一番遠くとばすのは麻生だ」という。それもボックスにはいるなり、一球目からパッと調子を出してガンガン外野へ打つ、といった特色をもつ麻生だ。秋山がいっていた。「ホームラン競争をさせたらあいつが両リーグ随一だろう」晴れの出場がきまったこの日のホームランも一球目から打ち気に出て、2-0からたたいたものだ。「オールスターに出ることがきまった直後でしょう、かたくなりましたよ。まっすぐ、内角高目のボールでしたね。ぼくはどちらかというとボールを打ったときの方がよく長打が出るんですよ」手にもった帽子をいじくりながらテレくさそうにしゃべる。今シーズンの三ホーマーはいずれも国鉄の左腕(金田二本、渋谷一本)それもみんな代打として川崎球場で記録した。三原監督が黒木(国鉄戦で四ホーマー)とともにこの麻生を国鉄戦の前になるとよけいフリー・バッティングさせるのも、そうした実績があるからだろう。「ふしぎですね。川崎へ帰ってくると調子が出てくるんですよ。それに左は大すきだし・・・。せっかく出してもらったオールスター戦でもなんとか縁の下の力持ちをやってみたいですね」麻生は広島県松永市出身。二十六日のオールスター・ゲームでいわば故郷にニシキを飾るわけだ。三塁側ベンチにひとり残って、一塁側で多勢の報道陣にかこまれている麻生をみていた金田がしみじみいった。「ワシが悪いんじゃない。麻生がよく打ったんだ。2-0からでもプリンプリン振ってくる。やる気のないようなのが多いウチの選手にみせてやりたい気迫だよ」
ゲームがはじまると麻生はバットをかついでブルペンへ走っていく。控え投手がウオームアップしているそばで思いきった素振りを二度三度・・・。気合いがこもってくると打席へはいる。左腕、上手投げ、下手投げ、いろいろな型の投手を相手にじっくり目をならす。それが代打の準備運動だ。オールスター戦出場がきまったことをきいて三原監督が喜んだ。「これは川上君のタイムリー・ヒットですな。代打ひと筋に生きてきた男の努力がやっと認められたわけですからね。実は私も去年出そうかと考えたことがあるんだが、自分のところの選手なのでなんとなく遠慮しちゃってね」大洋ナインは口をそろえて「フリー・バッティングのとき一番遠くとばすのは麻生だ」という。それもボックスにはいるなり、一球目からパッと調子を出してガンガン外野へ打つ、といった特色をもつ麻生だ。秋山がいっていた。「ホームラン競争をさせたらあいつが両リーグ随一だろう」晴れの出場がきまったこの日のホームランも一球目から打ち気に出て、2-0からたたいたものだ。「オールスターに出ることがきまった直後でしょう、かたくなりましたよ。まっすぐ、内角高目のボールでしたね。ぼくはどちらかというとボールを打ったときの方がよく長打が出るんですよ」手にもった帽子をいじくりながらテレくさそうにしゃべる。今シーズンの三ホーマーはいずれも国鉄の左腕(金田二本、渋谷一本)それもみんな代打として川崎球場で記録した。三原監督が黒木(国鉄戦で四ホーマー)とともにこの麻生を国鉄戦の前になるとよけいフリー・バッティングさせるのも、そうした実績があるからだろう。「ふしぎですね。川崎へ帰ってくると調子が出てくるんですよ。それに左は大すきだし・・・。せっかく出してもらったオールスター戦でもなんとか縁の下の力持ちをやってみたいですね」麻生は広島県松永市出身。二十六日のオールスター・ゲームでいわば故郷にニシキを飾るわけだ。三塁側ベンチにひとり残って、一塁側で多勢の報道陣にかこまれている麻生をみていた金田がしみじみいった。「ワシが悪いんじゃない。麻生がよく打ったんだ。2-0からでもプリンプリン振ってくる。やる気のないようなのが多いウチの選手にみせてやりたい気迫だよ」