1962年
「カネさん(金田のこと)に借りをひとつだけ返した」と徳武はうれしそうにいった。金田が投げるゲームにかぎって徳武は不思議にヘマをする。「この前の中日戦(十二日・後楽園)も一死一、三塁でぼくが打って併殺打なんですよ。あれがなければ金田さんが勝ってた。それにきょうも同点にされるエラーはするし、三回また一死一、三塁でゲッツーでしょう。これでひとつは借りを返したが、まだ二つ残ってます」金田が徳武を本当の弟のようにかわいがっているのは有名な話だ。徳武の早大での後輩安藤(元)(東映)も「歩き方や言葉つきまで金田さんのマネばかりしている。ワシ、ワシといったりして」といわれるくらいだ。しかし報道陣にかこまれるとワシとはいわなかった。金田がいった。「ほんまにあいつはオレのときに妙なことをしよる。若いのに委縮しちゃいかんわ。ワシのように下り坂の選手とは違うんやからな。しかしかわいいヤツやで」八回の逆転二塁打を打ったバットは町田のものだったそうだ。「町田さんがぼくのバットを使って折ってしまったんです。それできょうは逆に町田さんのバットを借りて・・・。別に折ろうという気持ちじゃなかったが・・・アッハッハッ。カーブです。中村はあのとき0-3からカーブばかり投げてきた。スピードがなかったんじゃないか。監督さんに打つ前バットを短く持てといわれたのもよかった。それにしても巨人は迫力がないですね。四番がああじゃね。長島さんはバットが振れてないですよ。最後に一本打ったがヤマかけたみたいだった」ロッカーへ帰ってきた徳武に町田がこわい顔をして近寄ってきた。「人のバットを使っていい子になって・・・」もちろんこれは冗談だ。徳武は答えた。「だからさっき新聞社の人に町田さんのバットで打ちましたとちゃんといっておきました」町田はニヤッと笑ってフロへ出かけた。
「カネさん(金田のこと)に借りをひとつだけ返した」と徳武はうれしそうにいった。金田が投げるゲームにかぎって徳武は不思議にヘマをする。「この前の中日戦(十二日・後楽園)も一死一、三塁でぼくが打って併殺打なんですよ。あれがなければ金田さんが勝ってた。それにきょうも同点にされるエラーはするし、三回また一死一、三塁でゲッツーでしょう。これでひとつは借りを返したが、まだ二つ残ってます」金田が徳武を本当の弟のようにかわいがっているのは有名な話だ。徳武の早大での後輩安藤(元)(東映)も「歩き方や言葉つきまで金田さんのマネばかりしている。ワシ、ワシといったりして」といわれるくらいだ。しかし報道陣にかこまれるとワシとはいわなかった。金田がいった。「ほんまにあいつはオレのときに妙なことをしよる。若いのに委縮しちゃいかんわ。ワシのように下り坂の選手とは違うんやからな。しかしかわいいヤツやで」八回の逆転二塁打を打ったバットは町田のものだったそうだ。「町田さんがぼくのバットを使って折ってしまったんです。それできょうは逆に町田さんのバットを借りて・・・。別に折ろうという気持ちじゃなかったが・・・アッハッハッ。カーブです。中村はあのとき0-3からカーブばかり投げてきた。スピードがなかったんじゃないか。監督さんに打つ前バットを短く持てといわれたのもよかった。それにしても巨人は迫力がないですね。四番がああじゃね。長島さんはバットが振れてないですよ。最後に一本打ったがヤマかけたみたいだった」ロッカーへ帰ってきた徳武に町田がこわい顔をして近寄ってきた。「人のバットを使っていい子になって・・・」もちろんこれは冗談だ。徳武は答えた。「だからさっき新聞社の人に町田さんのバットで打ちましたとちゃんといっておきました」町田はニヤッと笑ってフロへ出かけた。