プロ野球 OB投手資料ブログ

昔の投手の情報を書きたいと思ってます

権藤正利

2016-11-30 21:28:58 | 日記
1962年

「ああ、もったいないことを!」三塁側スタンドのファンからタメ息がもれた。二年ぶりの完封勝利を目の前にした九回裏、阪神の攻撃がはじまる直前、権藤は三原監督にたたかれてマウンドをおりてきた。「阪神の攻撃が二番からだから、大事をとって秋山と代えたんだろう」だれの目にもそう思えた投手交代だったが、権藤はベンチにはいるとさっそく小林トレーナーの前へ左手をさし出した。「またやっちゃったんですよ」九回表二死二、三塁で遊ゴロをバットの根もとで打ったため、左手の親指つけ根のスジがしびれてしまったのだそうだ。またと真っ先に出たのは五月十七日の対国鉄八回戦で金田から同点タイムリーを打ったとき、同じところを痛めているからだ。「ほとんどウオームアップなしに出て、ほんまにヒヤヒヤもんだった。でも責任をはたせてよかったよ」みごとしめくくり役をはたした秋山が、息をはずませて権藤のそばへかけ寄ってきた。「ゴンにはずいぶん借りがあるからな。そのうちにチビチビお返ししなきゃあ」最高殊勲選手になった一昨年、何度か権藤のリリーフでピンチを救ってもらった秋山がまず一つそのお返しをしたわけ。「きょうくらい楽に投げられたことはないね。だからカーブはそう使わずにすんだよ。阪神はブリブリ振りまわしてくるからやりいいんだ。シャットアウト?そりゃあしたかったが突発事故には勝てんもんね」うまそうにタバコを吸い込みながら話す権藤の顔にはそうくやしさは出ていない。そんなことよりもっとうれしい記録がまだある権藤だ。防御率NO1と被本塁打ゼロ。「ホームランを打たれたときの味を忘れてしもうたからね。久しぶりに味わってみようかとも思うんだが、ボールは自然と低目へきまって打たれんわ」こんな冗談もいえるほどの権藤。セ・リーグの投手でまだホームランを一本も打たれていないのはこの権藤だけだから当然かもしれないが・・・。
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城之内邦雄

2016-11-30 21:11:25 | 日記
1962年

「ジョー、ジョー」としょっちゅういっている別所コーチが、その城之内がはじめて完投勝利をやったというのにむずかしい顔をしていた。「ダメだ、最後に寺田にホームランを打たれて。2点で押えていれば合格点はやれるが、3点とられたらダメだ。調子がいいと思うと、そう深く考えもしないであんな打ちやすいカーブを投げてしまうんだ。味方が何点とっていても投手には関係ないんだ。1勝4敗と負けているときでもあまりいろいろ考えなかった。考え込むぐらいの方がいいんだ。あれも野放図なやつだ」城之内は完投したあと、だいぶ別所コーチにおこられたらしい。「ぼくはほめられるよりおこられる方がいいんです。まだほんとうの調子じゃないですからね。もっとスピードも出るし、ナイターになったらまあ見ていて下さい」巨人一のむっつり屋として有名だった城之内もだいぶなれたらしく、いろいろ話すようになった。ナイターでの活躍をいまから予告するほどだから、球の速い投手が有利なナイターにはよほど自信があるらしい。投げても投げても勝てなかったときの苦悩物語りを聞こうと思ったら別所コーチのいうとおりこれはムリだった。「打たれたってくよくよしないですよ。だってプロなんですからね。打たれてこそうまくなるのでしょう」とケロリといってのけた。「きょうはぼくがよかったというよりバックがよく打ってくれたから勝てたんですよ。寺田さんに打たれたカーブは肩口にはいってまずかったが、ほかのカーブは悪くなかったでしょう」それから口の中で「これでやっと約束が果たせた」とつぶやいた。城之内をとった巨人の内堀スカウトに、去年の十二月末「四月中に完投して勝ちます」と約束していたそうだ。「あのときは巨人にはいるという感激でついいってしまったんですが、近ごろはたいへんな約束をしたものだと後悔したんですよ。しかしこれで果たせた」といいながら重荷がおりたという顔をしていた。
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