1960年
みずからのサヨナラ打でかせいだ二十四勝目、文字どおり堀本の一人舞台だった。七回一死一、二塁で伊藤を救援してみごと後続を断ち、その後十回まで投げてわずか一安打。そしてその裏小山から安打を奪ってケリをtけるはなばなしい活躍ぶり。国松が決勝のホームを踏むのをたしかめない前に一塁ベンチをとび出したナインは、一塁ベース上に突っ立っている堀本めがけて殺到した。「堀本サマサマや」ナインにつかまれるようにしてベンチへもどった堀本に浜崎コーチがいま流行のダッコチャンを左腕にからませた。「これがきょうのお祝いや」「大事にしますね」-自分でたたき出した勝利の味は格別だろう?「きょうはピッチングのことより、バッティングの方を聞いてもらいましょうか。最後のは外角スライダー。その前がカーブだろう。カーブ攻めを覚悟していたんでボックスのずっと前に立ったのがよかったな。外角を打つにはボックスの前に立つのにかぎるわ。八回の二塁打?あれも外角のカーブや」八回裏一塁に森をおき、右翼線に二塁打。森は本塁寸前に別れて決勝打とはならなかったがこれも外角打ちの見本のような当たりだった。「ここまでできたんだから、どうしても勝たんことには・・・」少し気ばった感じ。ここでまたカメラマンにグラウンドへ呼びもどされて「外角のスライダー・・・」を連発。「もう、よろしおまっか」と関西ベンでことわってからタオルを首にまきつけ小走りにロッカーへ。通路に待ちかまえていたファンの手をふりほどくのも一苦労の堀本だ。「・・・点をとらさないためには堀本より仕方なかった。あいつはたのもしいやつ・・・」水原監督の声がロッカーから流れてきた。「連投はもちろん覚悟していますわ。いまのウチの状態じゃ毎日投げるのもあたりまえやと思ってますさかい。しかし手がちょっとしびれてね」右手を二、三度握りしめた。着がえながらそばにやってきた長島が「堀本さん、参りました」と最敬礼。「こら、ひやかすな」どちらからともなく笑った。これで堀本の登板数は実に51。巨人の試合が97だからいかに堀本の比重が大きいかわかろう。-いよいよ30勝が迫ってきたね。「これからがホネや。別に記録は意識してないがね。まあのばせるだけのばしてみますが・・・」と金歯を光らせた。
みずからのサヨナラ打でかせいだ二十四勝目、文字どおり堀本の一人舞台だった。七回一死一、二塁で伊藤を救援してみごと後続を断ち、その後十回まで投げてわずか一安打。そしてその裏小山から安打を奪ってケリをtけるはなばなしい活躍ぶり。国松が決勝のホームを踏むのをたしかめない前に一塁ベンチをとび出したナインは、一塁ベース上に突っ立っている堀本めがけて殺到した。「堀本サマサマや」ナインにつかまれるようにしてベンチへもどった堀本に浜崎コーチがいま流行のダッコチャンを左腕にからませた。「これがきょうのお祝いや」「大事にしますね」-自分でたたき出した勝利の味は格別だろう?「きょうはピッチングのことより、バッティングの方を聞いてもらいましょうか。最後のは外角スライダー。その前がカーブだろう。カーブ攻めを覚悟していたんでボックスのずっと前に立ったのがよかったな。外角を打つにはボックスの前に立つのにかぎるわ。八回の二塁打?あれも外角のカーブや」八回裏一塁に森をおき、右翼線に二塁打。森は本塁寸前に別れて決勝打とはならなかったがこれも外角打ちの見本のような当たりだった。「ここまでできたんだから、どうしても勝たんことには・・・」少し気ばった感じ。ここでまたカメラマンにグラウンドへ呼びもどされて「外角のスライダー・・・」を連発。「もう、よろしおまっか」と関西ベンでことわってからタオルを首にまきつけ小走りにロッカーへ。通路に待ちかまえていたファンの手をふりほどくのも一苦労の堀本だ。「・・・点をとらさないためには堀本より仕方なかった。あいつはたのもしいやつ・・・」水原監督の声がロッカーから流れてきた。「連投はもちろん覚悟していますわ。いまのウチの状態じゃ毎日投げるのもあたりまえやと思ってますさかい。しかし手がちょっとしびれてね」右手を二、三度握りしめた。着がえながらそばにやってきた長島が「堀本さん、参りました」と最敬礼。「こら、ひやかすな」どちらからともなく笑った。これで堀本の登板数は実に51。巨人の試合が97だからいかに堀本の比重が大きいかわかろう。-いよいよ30勝が迫ってきたね。「これからがホネや。別に記録は意識してないがね。まあのばせるだけのばしてみますが・・・」と金歯を光らせた。