若年寄の遺言

リバタリアンとしての主義主張が、税消費者という立場を直撃するブーメランなブログ。面従腹背な日々の書き物置き場。

市区町村によるザルな実態調査と、そもそも抜け道だらけの社会保障 ~ 国保の外国人不正利用問題 ~

2018年09月14日 | 政治
「社会保障制度と外国人受け入れとは相性が悪い」というのが持論の私。
社会保障について、採るべき道は3つ。

1.自国民、外国人を問わず手厚く適用させる。そのためには少々の抜け穴も容認する。
2.自国民への給付を圧迫しないよう、外国人への適用を厳格に制限する。
3.自国民への厚遇や抜け道をふさいで公平性を保つと同時に、社会保障給付を削減、縮小させる。


私は断然3番推しだが、これに同意してくれた人はあまりいない。
いわゆる左翼は1番、右翼は2番を推しているが、この1番と2番の対立の中で話題となっていたのが「外国人が国保を悪用しているのではないか」という論点。

これについて、厚労省が始めた調査が議論を呼んでいる。

外国人の国保調査に論議 開始半年、偽装滞在は未確認 - 共同通信
======【引用ここから】======
 外国人が高額医療を受ける目的で来日し、偽りの在留資格で国民健康保険(国保)に加入する恐れがあるとして厚生労働、法務両省が1月に始めた調査制度が論議を呼んでいる。約半年で在留資格偽装がはっきりしたケースは見つかっておらず、外国人を特に疑う調査で偏見を助長すると中止を求める声も出ている。
======【引用ここまで】======

この記事を受けて、1番を推す左翼から
外国人の国保不正利用はデマだった
という声があがっている。

果たして、そんな単純なものだろうか。

モリカケや自衛隊日報問題、障害者雇用水増し問題で
「行政が歪んでいる。行政は信用ならない」
と主張してきた左翼が、厚労省の調査内容を鵜呑みにしている姿は滑稽である。

行政のやること為すこと、きちんと疑ってかかろうじゃありませんか。

【市区町村には実態調査をする能力がない】

外国人の国保調査に論議 開始半年、偽装滞在は未確認 - 共同通信
======【引用ここから】======
 外国人が高額医療を受ける目的で来日し、偽りの在留資格で国民健康保険(国保)に加入する恐れがあるとして厚生労働、法務両省が1月に始めた調査制度が論議を呼んでいる。
~~~~~~(中略)~~~~~~
 調査制度は、外国人による公的医療保険の不正利用で保険制度が損害を受ける恐れがあるとの医療関係者の指摘を受け始まった。対象となる在留資格偽装は問題と指摘された利用形態の一つ。調査では国保加入間もない外国人が高額医療を申し込む時、国保を運営する市区町村は、その外国人が在留資格通りの活動をしているか実態を確認する。疑わしければ入管が調査、不正と分かれば在留資格を取り消す。
======【引用ここまで】======

外国人の不正加入を調査=国保適正化へ実態把握-厚労省
======【引用ここから】======
 厚労省は1月から、留学生なのに通学していない、企業経営者なのに事業を行っていないなど、在留資格に疑いがあると判断した外国人加入者について、市区町村が地方入管に通知する仕組みを試験的に運用している。
 今回は、(1)入管への通知件数(2)入管の調査により在留資格を取り消した件数(3)資格取り消し後、市区町村が保険給付費の返還を本人に請求したか-などを調べる。

======【引用ここまで】======

よーく読んでほしい。

調査の主体は、在留資格の審査を担当する法務省入国管理局・・・ではなく、市区町村になっている。市区町村の事態調査に基づき、入管が追加調査をする流れになっている。
では、在留資格が「留学」の外国人が国保加入後2ヶ月で高額療養費の申請をしてきたとして、どうやって市区町村職員が実態把握をするのだろうか。

業務に専門性を持つ入管職員と違い、市区町村の職員は
「教育委員会→下水道→国保」
といった畑違いの人事異動を数年サイクルで繰り返すド素人集団。
そして、その業務は書類中心の形式審査。

そんな市区町村職員に実態調査をさせたとしても、彼らが行えるのはせいぜい学生証の確認が関の山。学校に対し当該外国人の出席状況を照会するといった、手間のかかる追加調査はしないだろう。照会したとしても、学校側に回答義務がなければ実効性は薄い。

また、仮に学校への照会や自宅訪問、通学風景の視認といった徹底的な実態調査を行い、その結果
「学生証は持っているが、ずっと入院治療していた外国人」
がいたとしても、市区町村はそうそう入管に報告はしないことは容易に想像できる。
真意は医療目的だが留学の在留資格のために形式的に入学手続だけ行った外国人なのか、ちゃんと留学するつもりだったが急病になってしまったのかの判別が付かないからだ。
「入国前に日本の病院への入院手続きをしていた」
といった超の付く特殊事例でなければ不正利用と断言するのは困難だ。

【市区町村には実態調査をする気がない】

この調査制度では、市区町村職員には調査に協力するインセンティブが全く無い。

国保の運営主体は市区町村から都道府県に移行している。
○平成30年4月から、国民健康保険は広域化されます
市区町村にとって、
「外国人の在留資格を質すのは本来なら入国管理局の仕事」
「国保財政の健全化を図るのは都道府県の仕事」
であって、自分達の仕事とは思っていないだろう。
調査すればするほど忙しくなる一方、報告しなくても何のペナルティもない。
報告した職員の給料が上がるわけでもない。

下手に報告して、追加調査によって不正利用が発覚したらどうなるか。
保険給付費の返還の必要性が生じ、医療機関に対し7割分の診療報酬を返すよう通知しなければならなくなる。そうすると、医療機関は不正利用をしていた患者本人から保険適用を受けていた7割分の支払いを改めて請求しなければならなくなる。
さらに、市区町村の担当者は国や都道府県から貰っている給付費負担金の減額修正をし、これを返還し、保険料を原資とする部分も修正をし・・・・
・・・と、携わる公務員や医療機関に膨大な手間が生じることになる。

市区町村の担当職員が
「えっ?不正とは思わなかったです。在留資格が『留学』で、学生証を持っていたから」
と上司に報告し、厚労省や法務省、都道府県に「不正利用はありませんでした」と調査結果を提出すれば、それでおしまい。
これならみんなハッピーである。

【対象抽出方法がザル】

厚労省は以前に、入国後間もない外国人への高額治療について
日本の保険証が狙われる ~外国人急増の陰で~ - NHK クローズアップ現代+
======【引用ここから】======
山屋記者:実は国はこの問題を重くみて、去年(2017年)、実態調査をしているんです。外国人が国民健康保険に加入して、半年以内に80万円以上の高額な治療を受けたケースが、1年間におよそ1,600件あったことが分かっています。
======【引用ここまで】======


1年間におよそ1,600件
という数字を示していた。

ところが、いざ市区町村による実態調査を実施する段階になって、厚労省は及び腰になった。関係各所での事務の煩雑さを重く見たのだろうか。

外国人の国保調査に論議 開始半年、偽装滞在は未確認 - 共同通信
======【引用ここから】======
 この制度に先立ち厚労省は昨年3月、高額治療を受けた外国人のレセプト(診療報酬明細書)を調査。2015年11月~16年10月の1年間、国保加入から半年以内にC型肝炎治療薬の処方など一定の高額医療を受けた外国人は19人で「不正の可能性が残る」とされたのは2人だった。外国人の国保加入者の総数は約95万人(16年4月)。
======【引用ここまで】======

病名や金額の条件で上手く絞り込んだ結果、対象を1,600件から19人への大幅圧縮に成功している。この絞り込みを行った厚労省の役人もまた、「霞ヶ関文学」の担い手である。

もし厚労省が万難を排し本気の実態調査を考えているならば、当初示した1,600件のレセプトを該当する市区町村に提示し、
「少なくとも、この1,600件については必ず調査し回答するように。併せて、窓口受付等の中で不正利用の疑いがあれば随時調査するように」
という形で通知するだろう。

ところが、現実には上記のように
「厚労省としては、対象になりうるのは全国で2人程度と見込んでいる」
と、やる気の無さを市区町村に暗に示した上で

外国人の国保調査に論議 開始半年、偽装滞在は未確認 - 共同通信
======【引用ここから】======
調査では国保加入間もない外国人が高額医療を申し込む時、国保を運営する市区町村は、その外国人が在留資格通りの活動をしているか実態を確認する。
======【引用ここまで】======

と、対象の抽出を市区町村の判断に委ねている。
外国人の高額医療の申し込みがあっても、市区町村の担当職員が
「入国間もない外国人だとは気づきませんでした」
「不正利用とは思いませんでした」
とスルーしてしまえばそこまでだ。

【違法なのか、抜け道なのか】

この問題は、外国人が国保を不正利用(制度の枠を超えた違法な利用)しているというよりも、制度がザルで合法的な抜け道がたくさんある、という方が適切だろう。
右翼は
「不正利用(制度内の抜け道利用)する外国人は許せない。抜け道をふさげ」
と主張し、左翼は
「調査の結果、不正利用(制度の枠を超えた違法な利用)をしていた外国人は出てこなかった」
と主張しているのではないか。
外野から眺めていて、議論がかみ合っていない気がしてきたのは私だけだろうか。

上記で例として挙げた
「学生証は持っているが、ずっと入院治療していた外国人」
というケースは、在留制度と国保制度を上手く利用した抜け道なのだ。

抜け道がある以上、それを利用するのは日本国民であれ外国人であれ悪いことではない。
抜け道を作ってしまった政府当局担当者の落ち度だし、そもそも、社会保障給付を多くの人に適用しようとすれば抜け道ができてしまうのは避けようがない。対象者が多ければ多いほど、想定外の利用方法を編み出す人が出てくるのは当然である。
抜け道を考えたとき、実数が圧倒的に多い日本国民の抜け道利用数の方が多いのは間違いないだろう。

と、ここまで考えて、やはり最初に戻る。

自国民への厚遇や抜け穴をふさいで公平性を保つと同時に、社会保障給付を削減、縮小させる。

これがきっと最適解だ。

国民皆保険がいかに杜撰でダメな制度か、考え直してみませんか?

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