英国では子供が小さいころから、Thank you (ありがとう)とPlease (どうぞとかお願いの意味)という言葉を厳しくしつけられる。
私がここ英国へ来た51年前(1972年)に落ち着いたポールの家で、初めに教え込まれたのがこの2つの言葉だった。たとえばお茶はいかが?と言われたら Yes Please だし要らなければ No Thank you という具合。だからポールも死が迫ってきた1週間くらい前まで、体をふいたりお水や食べ物を上げたるすると必ず Thank you の言葉が返ってきた。
その2つの言葉のエピソードが忘れられない。
ショッピングカートを引っ張ってマーケットへ買い出しに行く途中、若い男性が歩道の端に座り込んで車の修理をしていた。この歩道は幅1メーターくらいで狭く彼の後ろをサーと通り過ぎたとたんに Thank you will be nice. (ありがとうの一言がいいのに)と言われてしまった。思わず Thank you と言って歩いたが、どうして歩道でお礼を言わなきゃならないのだ?と思った。彼は自分の道路だと思ったものか?それ以来この歩道を通るたびに、その男性の言葉を思い出す。
ルーシャムの青空マーケットは多国籍人種のるつぼのような所で、売っている品物も西インド諸島のタロイモや、イタリアからのキーウイ、トルコからのシシトウ、スペインのトマト、南米からのパイナップルなどが安く売られている。
私はなるべくビニール袋を使わないよう、昔から手作りの買い物袋をたくさん持って行って、必ずこの袋に入れて頂戴と布袋を出して入れてもらう。たいていの年取った女性の売り子はそれだけで Thank youと言ってくれるが、この日果物を買って この袋に入れて と言ったところ Please !! と言われてしまった。確かに Please put it in this bag なんだけど、忘れてしまうんですよ。生意気に若い娘からPlease を言えと強制され、ムカッときたがそれなら相手も Thank you くらいは言えよ。
孫のジュードはもうすぐ8歳になる小学校3年生、時々親の都合で、迎えに行くのが無理でそのたびに必ずお呼びがかかってくる。こちらでは11歳になるまで子供は一人で通学させない。特にジュードは家から離れた私立の学校だからバスか電車と徒歩で迎えに行くしかない。普段は彼の両親が自家用車で送り迎え、こんな規則だから朝夕の学校の送り迎えに車が大混雑している。
先日も迎えに行ったら、学校の玄関から私を見つけて走ってきて、抱きついて、Thank you Nana, Come to pick me up. なんて行儀のよい男の子に育ったことかと嬉しくなった。