鈴木大介著「脳が壊れた」は、中高年の方々にお勧めしたい新潮新書である。
フリーのルポライター鈴木大介は41歳の若さで、右脳に脳梗塞を発症した。
身体の左側への後遺症は軽かったものの、一見して他者には分かり難い高次脳機能障害が残ってしまった。
高次脳機能障害とは具体的にどういうものか、リハビリはどう行うのか。
前半は、次々と自覚することになる障害と、その自殺を考えるほどの辛さなどを、体験者として縷々明かしている。
後半は、若くして脳梗塞を発症した原因の、大胆な自己分析である。
著者は原因は過労であり、それは
背負い込み体質・妥協下手・マイルール狂・働き中毒・吝嗇・善意の押し付け
など自身の悪い性格の結果であり、自業自得だったとしている。
ヤハイ! これって鈴木さんほどではないが、森生にもそういう傾向があると思った。
夫人のちゃらんぽらんな性格や、脳腫瘍摘出前後の惑乱をも赤裸々にし、著者が家事まで背負い込んだ経緯を明かしている。
実の両親との疎遠と、夫人と義母に大きく助けられた実情をも述べていて、胸に迫る。
著者にはすぐ泣く感情の暴発や、相手を凝視し続けるという他者に不快感を与える高次脳機能障害がまだ残ってはいる。
しかし新書を一冊書き上げるまで回復した。そして将来を見据え、自己改革に舵をきった。
それは41歳というまだ若い体内諸器官と、夫人と義母の献身的な支援と、ルポライターという職業によるものだろう。
文章は明快である。深刻悲惨な話であっても、つい笑いを誘う雰囲気を醸し出している。
脳梗塞はいつか、誰にも発症するかもしれない恐ろしい病である。
この病を知り、予防するために、ご一読をお勧めします。
最後に、夫人から読者への挨拶が載っている。僅か8頁の短文ながら、のほほんと物事の本質を把握し、愉快な名文です。
この人、決して「馬鹿嫁」なんかではない。
挿絵は横尾忠則の「Y字路」です。
160905
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