大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・417『リッチとコットン』

2023-06-21 11:37:17 | ノベル

・417

『リッチとコットン』詩(ことは)   

 

 

 クール! こんなアニメを待っていた!

 すごいよ、三笠ってイギリスで建造されたんだぜ!

 日英同盟は今も生きている!

 乗組員が高校生というのがいい、それも学校じゃ目立たないモブ、失礼、普通の高校生!

 普通じゃないさ、みんな傷を持っていて、その傷にまつわる思い出が三笠のエネルギーってところがいい!

 思い出エナジー!

 テキサスとか他の国の戦艦が出てくるのもいい!

 四人? 四匹? ネコメイド可愛い!

 大和は三年ちょっとで沈んだけど、三笠は今でも保存されてる、縁起がいい!

 横須賀が舞台になるアニメって初めて、期待してる!

 横須賀、行ってみたい!

『つよ〇す』は横須賀舞台だ

『つよ〇す』はエロゲだ!

 エロゲ差別すんな!

 船に神さまが付いてるってかっこいい!

 付いてるじゃなくて憑いてるだ。

 憑いてるって化け物か!?

 地球温暖化否定してるけど?

 CO2が400ppmって多いみたいだけど、それって0.04%のことなんだぜ、ペットボトルにお箸突っ込んで、ポタリ落ちる雫一つ。そんなんで温暖化、オレは信じてねえ!

 そういうところに目ぇ向けないで、アニメを楽しもう(^_^;)

 声優がお気に入りばかり!

 百武真鈴! 

 吉永百合子って、ちょーベテランなんだけど、他の声優に比べたらお母さんて感じ!

 声優の歳言うの禁止!

 いやいや、三笠の船霊だから、お母さん的な?

 ヤマトの亜流にならないことを祈る。

 花園あやめイチオシ! イノチ!

 リンちゃん、小早川凜太郎!

 東郷って艦長の役だろ?

 東郷って司令長官! 連合艦隊!

 三笠一隻だから艦隊にはならない、ヤマトもそうだったし。

 天音のCV酒井さくらって新人?

 あ、聞いたことないかも?

 知らないの? あんたたちににわか?

 に、にわか呼ばわりすんな!

 制作発表会で、いちばん右端、上手(かみて)って言うの? そこに居た。

『犬が西向きゃ尾は東』で香里菜の裏の声やってる。

 よし、チェック!

 アニメフェスティバルのメインモニターでPV流れてるよ、今日から!

 

 

「いやあ、すごい! すごいねぇ! すごい!」

 

 

 すごいを連発してヨリコ王女はベッドに倒れ込んだ。

 脚を悪くしてからモニターはベッドの足元の位置にある。特等席はベッドの上なので、ヨリコさんは遠慮なくわたしと並んでモニターを見ていたんだ。投稿されたコメント全部読んで満腹。

 アニメフェスティバルの二日目から日本の秋アニメ『宇宙戦艦三笠』のプロモーションが始まった。

 200インチの大型プロジェクターに『宇宙戦艦三笠』のPVや、横須賀や、声優さんたちの映像が流されている。

 プロジェクターの前には、海軍博物館から借りてきたっていう三笠の1/100模型なんかも置かれていて、急場に間に合わせた感がしない展示になっている。

 早くもファンたちが動画を流して「いいね」やスレが立ちまくっている。

「百武真鈴の行動力もすごいわね、さくらを引っ張って行ったのは真鈴よ」

「去年の文化祭、いっしょにパレードしたんでしょ? あの企画も彼女だったって」

「うん、そう。いっしょに学校のプロモーションビデオ撮ったり、卒業証書持ってきてくれたり……」

「『恋するマネキン』じゃ、ヨリコさん、声優もやったよね」

「そのどれもこれも百武真鈴、あいつは声優よりもプロデューサーに向いてるかもね」

 

 ヨリコさんは99%、友人と後輩の活躍を喜んでいる。

 でも、横顔を見ると、1%の寂しさが見える。

 ヨリコさんも、多彩な人だ。ヤマセンブルグの王女を引き受けてしまって諦めてしまった未来があるんだ。

 まだやっと19歳、思うところもあるよね。

「ふふ、諦めてしまったと思ってる?」

「え、あ……」

「まだまだこれからなのよ、わたしも詩(ことは)さんも。きっと、何年か何十年か先にはゴールがあってさ、そのゴールって、どのルートを通ったかで見え方は違うけど、同じものだと思う」

「なんか、極楽浄土的」

「アハ、極楽はまだご勘弁。卒業証書をみんなで持ってきてくれたじゃない。あれ、とっても嬉しくて。でも、思ったの。こっち来るの遅らせて日本で卒業式出てても、同じように嬉しかった。きっと如来寺で、婦人部のお婆ちゃんたちも来てくれて祝勝会とかになったと思う」

「祝勝会?」

「え、あ……うん、やっぱり何かに打ち勝ったって感じ? フフ、言い間違えただけなんだけど、潜在意識かも……」

「そうね、うん、そのニュアンス分かる」

「あ……でも、やっぱり違うのかなあ、エベレスト登るのっていくつかルートがあるでしょ、アイガー北壁とか」

「あ、うん、あるよね。ああいう登山ルートって、遭難者の遺体がそのまま残ってるって。坊さんの登山家が言ってた」

「え、そうなんだ」

「プ、ダジャレ?」

「え、そうなん……遭難? アハハ、ほんとダジャレだ(^_^;)」

「あ、ごめん、話の腰折っちゃった」

「いいわよ、やっぱ、まだまだアヤフヤ……詩さんもでしょ?」

「うん、もちろんよ」

「女の人生は長いからねえ……」

「プ」

「え、おかしい?」

「あ、ごめん、ヨリコさんと女王陛下が重なっちゃった」

「え、わたし、あんな婆さんになるの!?」

「ええ、いいじゃない、とっても素敵なお婆さまよ」

「外面はいいからねえ…………ねえ、これからはコットンって呼んでいい?」

「コットン?」

「コトハだからコットン。わたしのこともリッチーがいいかな」

「リッチ?」

「あ、うん、それもあり。その時のノリで伸ばしても縮めても。学校の中では、そう呼ばれてたし。もう、お互い友だち言葉だし」

「そうね……うん、二人きりの時はそれでいこう」

 

 パチパチパチ!

 

「「え?」」

 

 振り返ると、バンとナンシーが小さな体で大きく拍手してくれていた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・416『母を見送って』

2023-06-18 09:39:15 | ノベル

・416

『母を見送って』詩(ことは)   

 

 

 


 ほんとうは空港まで見送りに行きたかった。

 


 でも、宮殿の車寄せで手を振ることで済ませた。

 おとつい、ロンドンで開かれている日本アニメフェスティバルに行くヨリコ王女を見送ったのも、この車寄せだった。

 王女は全英アニメ協会の招きでアニメフェスティバルの主賓で出かけている。

 つまり、ほんの二三日宮殿を離れる人への見送り。

 いってらっしゃい  いってくるね  ただいま  おかえり

 そんなノリで済ませられるようにね。

 


 見送ったのはお母さん。

 


 四月に怪我をして腰から下が動かなくなった。その付き添いに日本からやって来て、もう三か月以上も帰っていない。

 うちはお寺だから、坊守(ぼうもり)のお母さんの仕事も多い。ボランティアもやってるし、いちど日本に帰る必要があった。というか、本心は気が気ではなかったはずだ。

 うちのお寺は、檀家の婦人部の活動が活発。その婦人部の人たちをまとめているのはお母さん。家には、さくらと留美ちゃんが居てくれているけど、学校があるし、さくらは声優の真似事も始めたみたいだし。やはり一度戻らなければならない。

 本当は、しばらく来なくていいと思ってる。

 車いすの操作にも慣れたし、少しだけだけど脚の感覚も戻ってきた。完全に元に戻ることはないんだろうけど、これからの人生、このハンデを抱えて生きなければならない。

 女王陛下も「これを機会に、宮殿内のバリアフリーを進めましょう」とおっしゃる。「いえ、いまの設備でも十分です」と申し上げると、「いえ、わたしのためよ」とお応えになる。

 お母さんが留守の間、ソフィーに介添えさせようかともおっしゃったけど、丁重にお断りした。ソフィーは情報部に籍を置きながら近衛への出向ということになっている。ヤマセンブルグは侍従武官に近衛士官を配置している。将来、ヨリコさんが女王になった時にブレーンにさせるため。陛下の気配りは射程距離が長い。

 

「あ、もうお立ちになった……」

 

 そのソフィーが車寄せまでやってきた。

「もうしわけない、段取りが悪くて遅れてしまった」

「ううん、いいわよ。本人は直ぐに戻って来るつもりだから」

「コトハさんは、その……自立するつもりなんでしょ?」

「うん、でも、母は――今まで構ってやれなかったのを取り戻したい――と思っていて、それはそれで尊重してあげたいし」

「以心伝心、惻隠の情……どっちだろ?」

「シンパシー、英語にもいい表現があるわ」

「そうね。部屋に戻ろうか?」

「ちょっとお庭を散歩するわ」

「あ、ちょうど紫陽花が良い具合だから、見に行こう」

「お仕事は?」

「三十分は大丈夫」

「じゃあ」

 ウィーン

「ああ、電動になったんだ」

「うん、宮殿は広いから、意地を張らずにね」

 健康のためにも、しばらくは普通の車いすにしようと思ったけど、外に出ることを考えたら、やっぱり電動だ。

 

 脚を悪くしてから、毎日ベッドを起こしてもらって広大な庭園を眺めていた。

 

 本を読んだりゲームをしたり、パソコンをやったり。

 でも、少しずつ庭園を眺めている時間が増えて、先月からはヨリコ王女から貸してもらった双眼鏡を使っている。

 双眼鏡で眺めているのも悪くは無いんだけど、やっぱり、一番は自分の足を運んで直接観ることだ。

 花には匂いがあるし、空気や風の流れも間近に寄らなければ分からない。

「わあ、大きい」

 うちの境内にも紫陽花はあるけど、一回り以上大きい。

「こっちではハイドランジアって言うんだけどね、元々は18世紀に日本から輸入したものを品種改良したものなんだ」

「そうなんだ、この子たちのご先祖は日本から来たんだ……」

「あっちには日本から来たばかりの紫陽花もあるよ。大阪の領事館で育てていたやつ」

「わあ、ほんとだ、こっちの子に目を取られて気付かなかった」

 見比べてみると、日本の紫陽花は、どこか慎ましやかで微笑ましい。

 紫陽花は、育て方や土壌によって花の色が変わる。一輪ずつ違うというのではなくて、ポットや花壇ぐるみで色が異なる。それが時間差で変わるので色々あるように見えるんだけど、ここの紫陽花は、株ごとに色が違うように見える。

「庭師の技らしいんだけど、聞いても教えてくれない」

「フフ、国家機密なのかな」

「ハハ、どうだろ」

「花言葉は……旺盛な好奇心」

「え、そうだった?」

「わたしが付けたの」

「そうか、旺盛な好奇心……いいね、普通は『移り気』だからな……なんだか……」

「「さくらを思い出す!」」

 アハハハハ

 同時に同じことを思ったので笑ってしまう。

「年内にウクライナに行く」

「え?」

「戦闘に参加するんじゃない。もう三人亡くなってるからね、陛下もお許しにはならない」

「じゃあ……」

「復興していくプロセスを見るんだ。早晩戦争は山を越えて復興のフェーズになる」

「復興のお手伝いね」

「むろんそうだけど、戦争と戦後の復興は、いわば極限状態の中での国家経営。日本も復興援助の先頭に立つだろうし、そういう一切合切含めての勉強」

「そうなんだ……」

「殿下のお帰りは一日遅れるそうだ」

「そうなの?」

「殿下も向こうのアニメファンも、紫陽花のように好奇心いっぱいだからね。あ、公式には向こうの要請ということになっている」

「フフ、そうなんだ」

「そろそろ時間か……お前たち、もう出てきていいぞ、バンシーとリャナンシー」

 

 ヒ(;゚Д゚)!?

 

 可愛い声がしたかと思うと、紫陽花の陰から1/12サイズの真理愛学院生が出てきた。

「わたしの本性は魔法使いだ、ずっと前から見えている」

『知ってる!?』

『ヒギンズの子孫!』

「そう身構えるな。ご先祖のように退治したりしないから」

『ほんと?』

『ほんとか?』

「ああ、それより、名前を付けてもらったんだろ。教えてくれ」

『バン!』

『ナンシー!』

「なんか略しただけみたいだが……うん、親しみが籠った良い名前だ。よろしく頼むぞ」

『お、おお!』

『まかしとけ!』

 アハハハ

 魔法使いと妖精と人間と、ケラケラ笑いながら宮殿に戻る。

 

 ソフィーは車寄せまで戻ると、きれいに敬礼を決めて衛士詰所に戻って行った。

 

 入れ違いにヨリコさんから――ごめんなさい、帰りは明日になります――のメールが届いた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・415『宇宙戦艦三笠制作発表会』

2023-06-12 11:48:26 | ノベル

・415

『宇宙戦艦三笠制作発表会』さくら   

 

 

 うち以外は、みんなオーディションで選ばれた声優さん。

 

 今日は『宇宙戦艦三笠』の制作発表会。

 会場の飛空船劇場のステージには主役四人の声優とエライさんが並んで、例によって、ガチガチにあがってるのはうち一人(^_^;)。

「おまたせいたしました、それでは、ただいまより『宇宙戦艦三笠』の制作発表会を開かせていただきます」

 MCのベテラン声優さんが麗しくも押しのある声で開会を宣言しはります。

 このベテラン声優さん、宮崎駿がまだ東映動画にいたころから声優をやってはった吉永百合子さん。

 実年齢よりは20歳は若く見えると言う人で、江戸川アニメにとっても大事な方らしい。

 

 よう知らんけど(^_^;)。

 

 東京には昨日の午後から来てる。

 昨日はスタッフとキャストの顔合わせをやって、すぐ二回分の収録。

 早く終わったら渋谷ぐらい行けるかと思たけど、録音は夜の8時までかかってしもて、そのまま江戸川アニメが用意してくれたホテルに入って寝るだけやった。

 

「ごめんね、また忙しい思いさせちゃって」

 お風呂から上がると、先に上がった真鈴先輩はベッドで胡座をかいて酒盛りの最中。

「いいえ、新しい声優さんとも会えて楽しかったです」

「うん、わたしも吉永さんとは初めてでさ、めっちゃ緊張した!」

「ええ、あれで、緊張してはったんですか!?」

「してたわよ、『で、あなたのことは、なんて呼んだらいいのかしら?』ってミカさんにかける台詞、二回もNG出しちゃった」

「ああ、あれ、なんでNGなのか分からへんかったです」

「劇中のチュートリアルクリアして、みんなで『勝った!』って万歳して『で、あなたのことは、なんて呼んだらいいのかしら?』まで12個も人の台詞があるのよ。吉永さんのこと意識しちゃって気持ちが切れてしまってさ」

「え、そうやったんですか!?」

「さくらの方がすごいよ。三笠に召喚された時、天音ひとりが素っ裸でさ「ギャーーー!!」って悲鳴あげるじゃん。一発できまったもんな」

「アハハ、あれって、その前にひとの台詞あれへんし(^_^;)」

「うん、でも、さくらって才能あるかもよ」

「ないですないです(^o^;)、先輩のお引き立てで面白がらせてもろてるだけですよ」

「それは何よりだ『楽しくなくっちゃ仕事じゃない』というのが吉永さんのモットーなんだよ」

「え、そうなんですか? って言うか、どんな人なんですか? なんか名前からすごいですけど」

「吉永百合子っていうのは本名でね、元々はアングラ劇の役者さんだったんだ」

「アングラ劇?」

「ああ、テントとか小さな劇場でやってる芝居。大女優に似た名前を逆手にとって劇中で物真似とかやってたんだけど、バイトで始めた声優が面白くって本業になったって人。なにをやっても余裕でさ、圧倒されるわけですよ」

「休憩の時『神さまの役って初めてなのよぉ』って喜んではりました」

「ああ、うん、オネエサンとか姉御って感じの役が多かったからね。いっしょにやらせてもらって、わたしも勉強になる」

「ですねえ、なにごとも勉強です!」

 

 その吉永さんが、いっしょに舞台に立ってMCをやってはる。

 ふつう、制作発表会のMCというのは進行台本持ってやるらしいねんけど、吉永さんはマイクだけでやってはる。

 これも、元役者さんの矜持やねんやろか。

 わたしの右は花園あやめさん。

 今回はトシ(秋山昭利)いう男子生徒の役。いつもはかいらしい女の子の役が多いねんけど、今度は引きこもりのヘタレの男の子。『犬が西向きゃ尾は東』では井上香里奈の声の裏と表を花園さんとやらせてもろた。

「今度もいっしょだね、どうぞ、よろしくぅ(^▽^)/」

 スタジオ入りした時、握手かと思たらハグしてくれはって、メチャ嬉しかった♪

 

 ほんで、花園さんの右が真鈴先輩、その右が修一(東郷修一)役の小早川凜太郎さん。

 小早川さんは……頭の中で反芻(はんすう)しよと思たら、監督(今回も宗武真監督)の話が始まった。

 そして、今日は6月12日で、月曜日。

 本業である学校は営業日なわけで、わたしは、初めて声優の仕事で学校を休んでしもた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・414『探訪 空堀商店街とこらへん』

2023-06-07 11:19:18 | ノベル

・414

『探訪 空堀商店街とこらへん』さくら   

 

 

「400年の昔、ここには大坂城の南端で、東西方向に空堀が掘られていたんだ。それが、これだ!」

 

 ソニーが指差したのは、商店街を西に下って曲がって、さらに下った路地の突き当り。

 高さ5メートルほどの石垣が聳えてる。

「そうなん……なんか、石の隙間をセメントで固めてて、電車の高架下的やし」

「ここは生活道路だからな、安全の為に塗り固められている。正式には大坂城南惣構堀跡というんだ」

「元々は野面積みだったみたいね」

「ああ、一部には打ち込み接ぎ(うちこみはぎ)が窺える。大坂の陣に備えて補強された部分かもしれん」

 ソニーとメグリンの話は難しくて、よう分からん(^_^;)。

 商店街に戻って、改めてキョロキョロ。

「きれいにしたあるけど、よう見ると、けっこう古い建物が多いなあ……」

「ここらへんは、奇跡的に戦災を免れているんだ。地元の人たちは古いだけの町と思っていたらしいが、外から来た人間が、その貴重さに気付いて、地元の人たちも加わって保存しつつ活用しているんだ」

「そうねえ……『プリンセストヨトミ』って映画ができたころから注目されたかなあ」

「あ、その映画は知りません!」

 ペコちゃんの感想にソニーがビビットに反応する。

「あ、豊臣の末裔が生き残ってて、そのお姫さまを護っていく……的だったかなぁ? お好み焼きのオヤジさんが陰の豊臣政府の総理大臣だった」

「ネトフリで探して見ます!」

 いやはや、ソニーの向学心はスゴイぜ。

「あ、手押しポンプがある!」

 今度は留美ちゃんが発見。

 石垣の横にレンガ造りの朝礼台みたいなのがあって、その横に手押しポンプ。

「ああ、これは井戸なんだ!」

 どうやら、まだ現役の井戸とポンプらしい。いやあ、戦災に遭わへんかったいうのはえらいことやねんわ。

「あ、スーパー玉ちゃん!」

 御用達のスーパーを見つけて喜ぶ留美ちゃん。ほんまは別の名前やねんけど、留美ちゃんは可愛く自分だけの愛称で呼ぶ。

「商店街に、こういうスーパーがあるのは郊外の商店街なんだけどね」

「へー、そうなんですか?」

「心斎橋とか天六商店街とかそうでしょ。まあ、ここはそれだけ地域に軸足が載っている証拠ね」

「先生、詳しいんや!」

「あはは、卒論が『商店街と地域性』だったからね。大阪の大学だったら、ぜったい空堀商店街取り上げてたわねえ」

「表は今風だが、隙間とかから伺える元々の建物は年季が入ってるぞ」

 確かに、看板で隠れてる庇は古い軒瓦。建具にもプリントではない木目が入ってたりする。

「登録有形文化財?」

 ソニーにも分からん表示があった。

「重要文化財ってほどじゃないけど、今の技術で建てるのは難しいのが指定を受けて保護されてるのよ」

「ええ、それは見当はつくんですが、現役の店舗だというのがすごいです」

「中はお屋敷になってるみたい……」

 そういう留美ちゃんのあとに付いて入る。

 中庭というか、複数の建物の真ん中が20坪ほどのセメント塗りの空間で、周囲のお店が取り囲んでる。

「胡同(ふうとん)に似てるかもね」

「胡同は、もう、本場の北京にもありませんよ」

「でしょうね、まあ、そういう共同の憩いの場って感じかな」

 

 で、左手が喫茶店なんで、ペコちゃんのオゴリで一休み。

 

 一息ついて、店を出て振り返ると、喫茶店は、さっき「登録有形文化財?」と感心した門の横にある土蔵やった。

 よう見たら気ぃつくねんけど「登録有形文化財?」の看板に目を奪われてたんで分からへんかった。

「こういうのが三つもあるらしいぞ」

 いつのまにかパンフレットをゲットしたソニーが感心する。

「一日じゃ周り切れないわねえ……」

「留美の言う通りだ、今日は的を絞るぞ」

 さすがは、女子高生にして現役陸軍伍長、瞬間で残り時間と目標を見定めて、うちらの先頭を行く。

 

「この橋を渡るぞ」

 

 商店街を東に出ると、今度は北に進んで橋を渡った。

「あ……え……?」

 橋を渡り切って留美ちゃんが振り返る。

「気づいたか」

「うん、歩道橋かと思ったけど、下の道路から上がって来る階段もないし……作りが、橋というよりは道路」

 そこまで言うと、橋のたもとに走る留美ちゃんとメグリン。

「ちゃんと橋だ」

「高津原橋(たかつはらばし)と書いてある」

 それがどないしたんと、うちは思う。広い大阪、まあ、こういう、ちょっとけったいなもんはあるやろ。

 うちの近所にも30号線のくせして、13号線と呼ばれてる府道があるし。

「さくら、考えて見ろ」

「え、うち?」

「お前意外にさくらはおらん」

「え、えと……」

 留美ちゃんとメグリンが興味津々、ペコちゃんとソニーがニヤニヤ。

「実は、ここは南北の地形を見ても分かるんだが高台だった。大正時代に市電を通すことになったんだが、当時の市電は力不足で、高台を超えることができなくてな。それで、市電が通る分だけ高台を削った。ところが、町の真ん中を削ったものだから町が分断されて不便になる。そのために道路を繋ぐ形で橋が掛けられたというわけだ」

「な、なるほど……(;'∀')」

 こいつ、ほんまに外人なんか?

「それだけ、大阪という街は、住民の生活を大事にしていた。これは誇っていいことだと思う」

 パチパチパチ!

 三人が拍手、うちも遅れんように、パチパチパチ!

 

「さ、次いくぞ」

 

 次に向かったのは、ちょっと北に歩いた南大江小学校の脇。

「ここだ」

 ソニーが示したのは、歩道の脇にある白いテントのような檻のようなオブジェ。

「なんやのん、これ?」

「まあ、覗いてみろ」

 オブジェの両横にはアクリルがハメてあって中が覗ける。

「あ、水が流れてる!」

 留美ちゃんが気づいてメグリンと肩を寄せ合う。

「太閤下水ね」

「そうです、学校では教えないんですか?」

「高校じゃやらないわね、やるとしたら小学校……かな」

 うちらは習わへんかった。

「これ、太閤さんが作ったやつ?」

「ああ、そうだ」

「ふうん……」

「興味薄いなあ」

「あ、いや、そんなことあれへんよ(^_^;)」

 いや、正直、空堀から一キロほど歩いて来たわりには……食べ物屋さんやらおしゃれな店期待してたから。

「パリやロンドンで下水が完備したのは19世紀だ。それを、秀吉の政権は16世紀に作っている。それも、特権階級者用ではなくて、町人たち一般庶民が住む地域にだ」

「そ、そうなんや」

 まあ、それを復元して見れるようにしてんのはすごいと思うねんけど、ちょっとお腹が減った。

「少し、誤解しているようだな」

「へ、なにが(^_^;)?」

 お腹の音聞こえたかなあ(^o^;)

「この下水は、いまでも現役だ」

「あ、ほんと!」

 留美ちゃんが、説明のプレートを見つける。

「日本というのは、こういうところが凄いんだ……」

「は、はひ」

「ごめん、ちょっとシリアスになってしまったな」

「よし、今日は先生が晩ご飯もおごっちゃおう!」

 ええ!?

 ここは一致して、全員目ぇがへの字になる。

「もうちょっと行くと、谷四で、府庁もあるからね」

 え、それて、府庁の公務員さんらの食堂……思ても顔には出さへん。

 タダ飯というだけで嬉しい。

 

 それに、実際に御馳走になると、これがけっこうなボリュームで美味しかった!

 今度の部活は、食レポを書いて文化祭のネタにしよう!

 飯代は、部費からということで! あきませんか? あかんやろなあ(^_^;)

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・413『真鈴先輩のメールと散策部の探訪』

2023-06-04 16:26:15 | ノベル

・413

『真鈴先輩のメールと散策部の探訪』さくら   

 

 

 珍しく、急ぎの話やなかった。

 

 ほら、堺東のホームで電車待ってたら、電車よりも早く入ってきた真鈴先輩のメール。

 電車の中で確認したら――三日、お寺に伺ってもいいかなあ?――という、穏やかな内容。

 三日は二日先の土曜(つまり、昨日)なんで――大歓迎です!――と三秒で返事を打った。

 すると二秒で返事の返事が返ってきた――じゃあ、宗武監督といっしょに行きます!――

 ゲ、宗武監督!?

 宗武監督いうのいは江戸川アニメのえらいさん。ほら、『犬が西向きゃ尾は東』の声優にド素人のうちを起用したオッサン。

 つごう三回東京に行ってなんとか終了、最初は準レギュラーとか言われてたけど、三回で済んだいうのは、やっぱり思てたほど使い物にならんいうことで削られたんやと納得してる。

 せやさかい、もうパチモン声優にかり出されることは無いと安心してた。

 ところが、東京バナナを自分で、人形焼きを真鈴先輩に持たせてやってきた監督は、すごい事を言うた!

「この役に決めたんだけど」

「「え!?」」

 うちも真鈴先輩もビックリした。

「監督、今日は相談だけだって(#`Д´#)!」

「え、もう話通してあるって?」

「それは、今日伺うことについてだけだって(-o-;)!」

 先輩が嵌められたのか、先輩もグルなんか、けっきょくは、今までと同じパターンで新しい仕事を引き受けることになってしもた(;'∀')。

 仕事は秋アニメ『宇宙戦艦三笠』というスペースアドベンチャー。

「宇宙戦艦といえば、ヤマトだけど、ヤマトの元は戦艦大和。あれは沈んじゃったからね。そこへいくと三笠はバルチック艦隊をやっつけた世界的な殊勲艦! なんたって、現物が横須賀に残ってるでしょ! インバウンドでは東京や横浜に後れを取ってるけど、これで、世界の目は横須賀に日本のスピリットを発見、刮目することになる!」

『宇宙戦艦三笠』は、横須賀の高校生たちが地球を救うために三笠に乗ってマゼラン星雲のピレウスいう星を目指すという、パチモンぽいストーリー。

 きっと、江戸川アニメらしいイワクがあるんやろけど、あえて聞きません。

 なんちゅうても、真鈴先輩の目の底が真剣やったし。

 素人同然のうちが考えても、秋アニメの声優を今ごろオーディションもせんと選ぶいうのはありえへんし(^_^;)。

 

 で、それはいったん置いといて、4日の今日は、一足飛びに秋が来たんちゃうかというような青空が広がる日曜日!

 

 大人たちは市長選挙の投票に! 

 うちら高校生は、久々に散策部の探訪に出かけた!

 

「今日の探訪は、ここだ!」

 今度のガイドを自ら引き受けたソニーが自信満々に指さしたのは…………はいからほり?

「バカ者! 下に漢字で書いてあるだろうが!」

 あ!

 アーケードの上に大きな赤字で『はいからほり』と書いたあるのんで気ぃつけへんかった。その下に白い看板がぶら下がってて『空堀商店街』と黒字で書いてある。

「そらほり商店街!」

 アハハハ(≧∇≦)

 ソニーには呆れかえられ、ソニー以外の三人に笑われてしまう。

「いやあ……どっちが日本人だかぁ……」

 中二からの担任で(今年は外れたけど)月島神社の巫女でもある散策部顧問のペコちゃん先生が呆れかえる。

 留美ちゃんとメグリンは、まだ笑いが収まれへん。

 クハハ クフフ

「ちょ、そこまで笑わんでもええんちゃう(`_´)」

「い、いや、ごめんごめん(^_^;)」

「わるいわるい(^_^;)」

「い、いや、せやかてね、ちょっと見てみいや」

 うちは、改めて『空堀商店街』のアーケードの中を指さした。

 ( ,,`・ω・´)ンンン?

 マジマジと指先を見るみんな。

「この商店街て、下り坂になってるやん。買い物終わって戻ると、坂の上にこの出入り口が見えて、スッコーンと抜けたみたいに空が見えるやんか。昔は、アーケードとかも無かったやろから、買い物してても、見上げて歩いてたら、空がきれいに見えたと思うんよ! それでそらほり商店街…………あ、もうええわ、ちゃっちゃと行こか」

 期せずして、先頭を歩くことになって、商店街に突撃。

 

 今日は、ソニーのリクエストで地下鉄谷町六丁目で降りて、大阪市は中央区の空堀商店街に来てる。

 名前の通り商店街なんで、アーケードがあるわけで、梅雨時のいま、雨に降られても大丈夫というソニーのチョイス。

 せやけど、天気はいい意味で裏切ってくれて、初秋を思わせるぐらいの爽やかさ。

 予定よりもあちこち周れて楽しかった。

 で、どんな風に楽しかったか。明日あらためて報告しますよってこうご期待!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・412『今年も梅雨入り』

2023-05-31 09:11:56 | ノベル

・412

『今年も梅雨入り』さくら   

 

 

 この月曜日から制服自由期間になった。

 

 自由というのは、なんでもありではなくって、制服であれば自由という意味。

 うちはジャンパースカート、留美ちゃんはジャンパースカートの上から指定のカーディガン。

「「おはようございまーす!」」

 ハンゼイのドアを開けてごあいさつ。

「おはよう、うん!」

 早川のおばあちゃんが、うちらのヘルメットをふんだくると体を捻ってカウンターの下に仕舞う。

 ハンゼイは朝からモーニングのお客さんでいっぱい。それをテキパキとこなしていくマスターの昴(あきら)さんとパートの早川のおばあちゃん。

 早川のおばあちゃんは、うちの婦人部では田中のおばあちゃんに次ぐ年寄りやねんけど、若いころミナミの喫茶店で働いてたんで、歳を感じさせへん身のこなしでフロアーやらレジをこなしてる。「ってきまーす」「ってらっしゃい」はちょうど入ってきた常連さんの「いつものモーニング」とすれ違って表に出る。

「早川のおばあちゃん、コス変わってたね!」

「あれ、現役やった時の制服やて」

 テイ兄ちゃんがスマホ見せながら教えてくれた。黒のワンピに白いエプロン、七分の袖口と襟が白で、いかにも昭和の喫茶店。五月の連休明けまでは瑞穂さんと同じコス着てたけど、やっぱり思うところがあるねんやろね。

 

――通勤通学のみなさん、おはようございます、市長候補の○○でございます、来たる市長選挙……――

 

 路地から出たとたんに、市長候補の元気な声が聞こえる。

「ふふ、元気があっていいわね」

 自分は大人しいくせに、人が元気ににぎやかしてるのは好きな留美ちゃん。

 交差点では、いつもの婦警さんが信号の横で目を光らせてる。信号待ちの宅配のミニバンの運ちゃんも女の人。

 ちょっと速足でエスカレーターを上がって行くのは阿倍野のS女学園。進学に熱心で一時間目の前に0時間目があるらしい。今日も堺の女は元気です。

「あ、降ってきたよ」

「まあ、どこかのミサイルとちゃうさかい」

「だね」

 ホームに出ると鈍色の空からミストのような雨で、点字ブロックのところまで濡れ始めてる。

 朝のうちは雨が残るけど、昼までにはあがるという予報なんで傘は持ってきてへん。

 念のためにスマホでチェックする留美ちゃん。

「よし、雨もミサイルも大丈夫みたいだよ」

「よしよし」

「あ、外人さん」

 隣の列に半袖半パンの欧米系が三人。

 外人なんて、大阪では珍しいこともなんともないねんけど、堺東の駅は観光のルートからは外れてるし、朝のラッシュ時にホームに立ってるのは珍しい。

 行先案内のディスプレーに『次の列車は三国ヶ丘を出ました』のお知らせが灯る。

 ワオ

 感動の面持ちでスマホの画面と見比べてる。

「体験通勤電車だね」

 YouTubeなんか見てると、日本の鉄道に感動したいう外人さんの動画がいっぱい出てる。

 けど、通勤時間帯の動画というのは、あんまり見たことが無い。

「昨日はごりょうさんとか見て、一発通勤電車の動画をアップするんやろなあ」

 評判通り、時間ピッタリに来る電車に感動したという感じ。

 雨の日は、けっこう電車遅れるねんけどね、まあ、よかったよかった。

 ブルブル ブルブル

 マナーモードにしてたスマホが震える。

 チラッと見たら、真鈴先輩のメール。

 この人のメールは、ちょっと怖い。

 ちょうど電車も来たみたいやし、読むのはまた後で。

 細かい雨粒の付いたディスプレーをスカートでグヌっと拭ってポケットにしまう。

 堺の街に今年も無事に梅雨がやってきました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・411『バンとナンシー』

2023-05-26 09:26:37 | ノベル

・411

『バンとナンシー』詩(ことは)   

 

 

 ついつい出てしまう言葉ってあるよね。

 

 はにゃ?  アセアセ  さーせぇん  草  ビエーン  こみこみで  知らんけど  まるっと

 

 大学の構内では今風の言葉が溢れてる。

 言葉って、同族意識の現われ。

 ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく

 石川啄木の歌なんか身に染みてよく分かる。

 同じ言葉を聞いて、同じ言葉を使っていると安心、とりあえず人との距離が近くなる。

 あまり、流行りの言葉って使わない方だけど、気が付いたら「ブルータス、わたしもか!?」って感じで口にしたり、メールで使ったりしてる。

 お母さんが東京の出身なんで、生まれも育ちも堺なのに標準語っぽい言葉になってる。お母さんの親類に言わせると「詩(ことは)ちゃんのは関西訛の東京弁」だそう。

 わたしには、人が使わない口癖がある。

 

 ナマンダブ

 

 きちんと書くと南無阿弥陀仏。

 家がお寺なので、このナマンダブは日に数十回は聞く。

 ひょっとして、生まれて初めて聞いた言葉なのかもしれない。

 兄の時とはちがって難産だったので、お父さんが立ち会ったらしい。

 お坊さんというのは、嬉しいにつけ悲しいにつけ「ナマンダブ」が口を突いて出る。

 お父さんは、生まれたばかりのわたしに思わず手を合わせて「ナマンダブ」って、お母さんが言ってた。

 病院から家に帰ると、檀家の総代さんや婦人部長さんなんかも来ていて、ベビーベッドのわたしに盛大に「ナマンダブ」を投げかけた。

 さすがに、口に出して言うことは、めったにない。

 

「ううん、言ってるわよ」

 

「え、ほんと!?」

「言葉に出さずに、口の形。時どきはほんとに言ってる」

 窓辺の花を替えながらお母さんが楽しそうに言う。

「ここのお花は使い放題で、嬉しくなっちゃう」

「ああ、でもほどほどにね(^_^;)」

 三日前から宮殿に戻っている。

 やることは、少しずつのリハビリなので、病院でなくてもいいということで、女王陛下が手配してくださった。

 宮殿の庭はビックリするほど広くって、敷地面積は大仙公園と変わらないくらい。

 敷地の手入れや警備には日本の軽トラックやバンが使われている。

 お母さんは、その広大な庭から花を摘んできては、部屋中に活けている。

 日本の病院だと、こんなには活けさせてはもらえない。

「ちょっと花瓶を借りてくるわね」

「あ、ほどほどにねぇ……」

 

 お母さんが出ていくと枕もとに現れる。

 

『『おはよう、コトハ』』

 聖真理愛の制服を着た二人の妖精。

「おはよう、板についてきたわね」

『『うれしい!』』

 クルンと回って体育座り。

 一度はシルエットのまま消えてしまった。

 でも、わたしが呪文を唱えたので戻ってこれたと言う。

 呪文なんか唱えたつもりは無いんだけど、二人の妖精は、そう言って涙ぐんでいた。

『魔石が目ざめめたときは、もうダメだとおもったよ』

『森の奥、ピューって引きもどされるところだった……』

『光があらわれて、もどしてくれた……』

『もう、なんの力もないけれど、傍にいるだけでいいのならいいって、光がいった』

『ほんとうに居てもいい、コトハ?』

「うん、いいよ。いつも相手してあげられるわけじゃないけど、そばに居るだけならね」

『『うんうん』』

「ウフフ」

『コトハ笑った!』

『うれしい!』

『うれしい!』

 ピョンピョン

「制服のままバク転しちゃダメだよ(^_^;)」

『ダメなの?』

『うれしいから、ピョン! ピョン!』

 パンツ見えちゃう……けどいいか、フィギュアみたいにちっこいし。

 

 こうやって小さなともだちが増えた。

 バンシーとリャナンシー。

 微妙に言いにくい、ちょっと縮めよう。

 

 バンとリャン……なんだか麻雀みたい。

 ……バンはそのままで……リャナンシーは……ナンシー。

 決まった、これで行こう。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバン(バンシー)ナンシー(リャナンシー)が友だち
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・410『詩ちゃんからのメール』

2023-05-21 20:05:46 | ノベル

・410

『詩ちゃんからのメール』さくら   

 

 

 詩(ことは)ちゃんが怪我をして三週間、おばちゃんがヤマセンブルグに飛んで二週間。

 

 うちも留美ちゃんもヤキモキしてる。してるねんけど、おいそれとは行かれへん。

 往復で4日はかかるし、お金はもっとかかるし。テイ兄ちゃんは「飛行機代くらい出したるで」と言うてくれるんやけど、やっぱり、以前ほど簡単にはいかれへん。

 今までは、頼子さんの付き添い的な名目でアゴアシは向こう持ちやったけど、頼子さんが正式に向こうに行ってしもてからは、そういう裏技も使いにくい。ちょうど中間テストの時期でもあったしね。

 まあ、阿弥陀さんにお願いしといたら、どこかでええ目も出てくるやろ。

 

 ヤキモキしてたら、詩ちゃんからメール。

 

――やっと、メールを打てるようになったよ。動かないのは腰から下だけなんだけど、上半身もあまり動かさないようにってドクターから言われてたしね。PS5でゲームとか動画を見るのは一回一時間の許可が出てるんだけど、メールは気持ちが入るというか、血圧とかに影響もあるので許可が出なかった。「やってしまった(^_^;)!」という気持ちはあるんだけど、それほど悲観もしてません。お母さんが、いろいろ世話をしてくれて、ちょっと子供時代に戻ったみたい。また連絡するね。KOTOHA――

 最初はいっぱい書こうと思って、でも、しんどなってやめたいう感じのメール。

――一日も早い回復を祈ってます(^▽^)、行けるようになったら飛んで行くよ!――

 半端な返事を打って、留美ちゃんとのツーショット(間にブタネコダミア)を付けて送った。

 めちゃ短いメールやねんけど、打っては消して、消しては打ってで一時間もかかってしもた。

 

 ニュースで、ゼレンスキー大統領が広島にやってきたニュースをやってた。

 

 ゼレンスキーはうちなんかよりも、ずっと国を離れにくいに違いない。

 せやけど、はるばる日本まで飛んできた。

 服装は、いつもの、オッサンがちょっとコンビニに買い物行くようなかっこ。

 ゼレンスキー……微妙に長いからゼレスケ。

 え、ちょっと失礼? なんて呼んだらええ?

「……ゼレさん……かな?」

 留美ちゃんがコタツの向こうで言うので、ゼレさんに決定。

 ゼレさんはエライ!

「あ、市長選挙始まるんだ」

 留美ちゃんがスマホを触る手ぇを停める。

「選挙か……」

 もひとつピンとこーへん。

「あ、新人さんが二人出てるけど、二人とも四十代だよ!」

「あ、そう……」

「来年からは投票できるんだよ、あたしら」

「え……ああ!」

 選挙権は18歳からや。

 ちょっと狼狽えた。

 

 ピンポンパーン♪

 

 パソコンに着信音。

 画面に飛びつくと、頼子さん!

 頼子さんとの交信記録と内容は、ちょっとライブではお知らせできません。

 王女としての頼子さんのOKが出たら、またお知らせしますね。

 

 今日も昼間は暑かったけど、明日も蒸しそう。

 コタツの前の相棒を見ると、生徒手帳を開いて制服の運用を調べてる。

 合服とか着れるとええねんけど。 

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・409『寝返りうって……』

2023-05-19 07:45:30 | ノベル

・409

『寝返りうって……』詩(ことは)   

 

 

 

 寝返りを打っても下半身がついてこない。

 

 ゆるく絞った雑巾のようにグニャリ。

 上半身は右を下にしているのに腰は斜め上を向き、脚はねじれて交差してしまう。

 神経がやられて感覚は無いんだけど、内臓がよじれるような感じがお腹から上に伝わってきて気持ちが悪い。

 フレデリック先生も「面倒でも手を使って動かした方がいい」とおっしゃる。褥瘡(じょくそう)と言って、ベッドに接したままのところの血流が悪くなって良くないそうだ。

 よっこらしょ……

 体を曲げ、やっと膝のところまで手を伸ばして交差した脚を戻す。

 普段は意識もしないでやってる寝返り、こんなに大変だとは思わなかった。

「あ、ごめん、気づかなかった」

 お母さんがとんできて介助してくれる。

「大丈夫、そろそろ自分でもできるようにしなくっちゃ」

「そうね」

 そうねと言いながら介助はやめない。

「きょうは大使館にいくんでしょ?」

「うん、でも午後には帰って来るから」

 長期滞在になりそうなので、ビザを申請するために日本大使館で相談するんだ。ビザを出すのはヤマセンブルグなんだけど、大使館が間に入ってくれる。というか、イッチョカミしておきたい外務省だとかの思惑らしい。

「あ……」

「どうかした?」

「もう一回触ってくれる?」

「え……こんな感じ?」

「やっぱり……」

「やっぱり?」

「微かにだけど、お母さんの手の感触……あるかも」

「ほんと!?」

「ちょっと爪を立ててくれる?」

「あ、うん……」

「……錯覚かもしれないけど、感じるような気がする」

「ちょっと、先生呼んでくる!」

 

 先生がやってきて、触診をしてくださる。

 

「奇跡だ! 感覚が戻って来るかもしれない。ちょっと様子を見て、大学病院で精密検査をやろう、ちょっと連絡してくるよ」

 スマホを出しかけ、院内では使えないことを思い出して部屋を出て行った。

『ドクター……』『あ、すまん……』

 廊下で走りかけた先生が看護婦さんに叱られてる。

 ガチャリ

 その看護婦さんが入ってきた……と思ったら、ヨリコさんとソフィー。

「え、二人とも、なんかくたびれてないですか?」

「あ、うん、ちょっと、ソフィーといっしょに運動してたから(^_^;)」

「先生、走ってたけど、なんかあった?」

「それが、頼子さん……」

「「え!?」」

 お母さんがバラシて、二人は息を呑んで向き合った。

 ドタドタドタ 『殿下!』『あ、ごめ……』

 廊下に飛び出して、また看護婦さんに叱れれてる。

 

 お母さんに起こしてもらって外を見ると、テラスに出た三人が、それぞれスマホを構えて電話の最中。

 ひょっとしたら希望を持っていいかも……いやいや、もっと様子を見なきゃ。

 でも、今日は、ちょっと早めに車いすで日に当ろうと思った。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・408『ヨリコ王女、無名の島で初めての国事行為に臨まれる』

2023-05-13 17:04:06 | ノベル

・408

『ヨリコ王女、無名の島で初めての国事行為に臨まれる』ソフィー   

 

 

 詳しく言っている余裕はない。

 

 すでに、バンシーとリャナンシーが憑りついている。

 放置していれば、詩(ことは)さんの容態は悪化する。バンシーはそのものズバリ死を予告する妖精。リャナンシーは人に才能を約束するけれども、その代わりに命の灯を削って短命にさせてしまう。

 今はまだシルエットだけだけの、いわば予兆だけれど、はっきり姿を現してしまえば手の施しようがなくなる。

 

 ギーコ ガチャ  ギーコ ガチャガチャ  ギーコ ガチャガチャ

 

「ちょ、ちょっときついわね……」

「辛抱してください、帰りはエンジンを掛けられますから」

「りょ、了解……でも、こんなコスプレしなくちゃいけないの」

「言い伝えですから……」

 

 やっと夜が明けたヤマセン湖を主従甲冑に身を固めてボートを漕ぐ。

 

 甲冑は王家伝来のもので、殿下はプリンスアーマー、わたしはウィザードアーマー。

 伝説では、立国戦争の時に国王となるヤマセン公と魔法使いのヒギン・ヒギンズが魔王を打ち倒し、その時に魔王から降伏のしるしにもらった魔石が無名の島に隠されている。

 魔石の封印を解くには国王または王位継承者が鍵に手をかざさなければならない。

 それも、立国戦争の時のコスでなければならず、王室には、キング、クィーン、プリンス、プリンセスの甲冑が用意されている。わたしのは先祖伝来のウィザードアーマー。

 

「見えてきました」

 

 朝もやの湖面に浮かび上がったシルエットは、子どもの頃、父に「憶えておくんだよ」と100メートルの距離で目に焼き付けさせられて以来。

 父も祖父から「憶えておくんだぞ」と一度見ただけで、上陸したことはない。

 日ごろは靄に包まれることが多く、たまに晴れても湖面の照り返しでまともに見ることができないと言われている。

 グーグルアースに写ってしまった時は、即刻女王の名前で削除が依頼された。

 魔王は、その魔石を譲るにあたり「島を人の目に晒してはならない、王室の者以外に教えてはならない。また、その利用は十年に一度とし、王の在位期間に三度の使用を超えてはならない。そして、魔石の効能はヤマセンブルグの国内においてのみ有効である」と約束させた。

 世界各地で起こる戦争や災害に胸を痛める歴代国王は魔石の力を使って収めようとしたが、その約束の為に果たすことはできなかった。

 陛下も、エリザベス女王がお倒れになった時に魔石の力を使おうとされたが、病床のエリザベス女王を移すためには魔石の事を伝えなければならず、見送られたばかり。

 そして、今回、下半身マヒになった詩さんを救うために魔石の使用を決意された。

 

 ただ、陛下自身ご高齢であり、また、詩さんに救われたとはいえ、転落で陛下もお体を痛められているので、ヨリコ殿下がお役目を務められる。

 

 ガチャ ギー ガチャ ガチャリ……ガチャ ガチャリ……ギー……

 

 二人分で50キロを超える甲冑を軋ませながら島の奥を目指す。

「ウゥ……こんなの着てる意味あるのぉ……」

「殿下はお気づきにならないでしょうが、この島の瘴気は大変なものです、この甲冑を着ていなければ10分ももちません」

「そ、そうなの?」

「三代フェルディナンド王が早逝されたのは、キングスアーマーをお召しにならなかったからだと言われています」

「ああ、イタリアから養子で来たっていう」

「はい、甲冑はフリーサイズだったのですが、それでも合わないほどにお太りになられ。実家から送られた甲冑で間に合わせたからだと言われています」

「そ、そうなの(^_^;)」

「あ、あそこです」

 言い伝え通り、三つ目の目印を過ぎたところで魔窟の入り口が見えた。三メートルほどの間隔をあけて結界の石が据えられ、その向こうに石の扉がある。

「なんか書いてある……」

「解呪の所作です」

「手をかざすだけじゃないの?」

「それは最後です……ムムム……」

 魔王は、丁寧に解呪の所作を図解で描いてくれている。足の運びと、身のこなしが上下に分けて描いてある。

「これって、散策部で玉串川を歩いた時、川岸にあったのに似てる」

「あれは、河内音頭の踊り方でしたね」

「魔王は、ひょっとして民族舞踊かなんかにして残しておきたかったのかもね……」

「最後の所が隠れて……」

 絡まった蔦や葉っぱを取り除くと、とんでもないことが描かれていた!

 

「では、参ります!」

「おお!」

 

 一連の所作というかステップをガチャガチャ踏んだあと、問題の最後の部分に取り掛かる。

 

 セイ!

 

 入り口の左右の石に上り、剣を抜き放って同時にジャンプし、前転しながら交差する。

 シャキン!!

 あいた(>△<)!

 最後に尻餅をついた殿下ではあったが、なんとか一発で決めることができた。

「殿下、扉が感応しました!」

「おお!」

 扉がエメラルド色に輝き、正面のくぼんだ所には――put your hand here――の文字が浮かんだ。

「ここからは殿下です」

「うん!」

 殿下が手を当てる……なんの変化も無い。 

「殿下、手袋は外した方が良いと思います(-_-;)」

「あ、生体認証ってやったことなかったから(^_^;)」

「では、もう一度」

「うん!」

 殿下の手にはいささか大きいガイドライン。

 それに、少しでもピッタリ合うように指を伸ばし手を広げる殿下。

 お口もキリリと引き締め、額に汗を浮かべられ、思えば、これが殿下初めての国事行為!

 その一途さ、賢明さに扉が開き始めた。

 

 ゴゴ ゴゴゴゴ…………

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・407『バンシーとリャナンシー』

2023-05-10 10:16:16 | ノベル

・407

『バンシーとリャナンシー』ソフィー   

 

 

 愛用のホンダで宮殿を目指している。

 

 ついさっきまで、王室病院で詩(ことは)さんを見舞っていた。

「……あの子の枕もとに何かいるみたいなんです」

 詩さんのお母さんが、そっと教えてくれた。

 ハッとして、詩さんの枕もとに目を向けると、バンシーとリャナンシーのシルエットが見えた。

 バンシーは人の死を予告する妖精、リャナンシーは愛を囁く妖精。

 二人とも道路標識の妖精のシルエットで、まだ本性を現していない。

 霊感の無い人には見えない。勘の鋭い人には気配が、魔法使いには気配を消していても分かってしまう。

 そして、わたしは王女のガードであると同時に王室魔法使。

「カーテンが揺れて、日差しが揺れたんでしょう……ほら」

「あ、ほんと、レースの影がそう見えたんだ。ごめんなさい、変なこと言って(^_^;)」

 軽い暗示をかけてごまかした。二人の妖精も気づいていない様子だ。

 

 なにも無ければ、お見舞いで済まそうと思ったが、そうはいかなくなった。

 その足で病室を出て王宮を目指した。

 

 王宮も王室病院もヤマセン湖の畔に立っていて、厳密に言うとヤマセン湖とその周囲は王宮の敷地。

 今は、大半が国立公園に指定されている。通行や立ち入り制限が王室領と国立公園のそれと似ているので、そういうことにしてある。

 公用車以外の自動車の乗り入れは、一部を除いて禁止されている。

 わたしが乗っているホンダは660CCのアクティー、つまり軽トラックだ。

 ミッドシップで安定性は抜群、リッター18キロの燃費で、なによりも小回りがきいて可愛い。

 ボスのジョン・スミスはケッテンクラートというキャタピラ式のバイクを使っていたが、ナチスドイツの軽車両。

 本国任務になって、ボスはシュビムワーゲンを勧めたが、王宮に二台もナチの車両があるのは問題だ。

 

 トントン

 

 ノックすると「お入りなさい」と陛下のお声。

「失礼します」

「来ると思ったわ」

「陛下も?」

 これだけで通じた。

 陛下もご存知なのだ、詩さんの枕もとにバンシーとリャナンシーが来ているのを。

「事は急を要します」

「そうね、バンシーが居たんじゃ放ってはおけない……それもこれも、わたしが……」

「陛下のせいではありません、詩さんを病院に搬送するときに、魔法で信号を青にしてしまいました。その魔法の痕が呼びこんでしまったんだと思います」

「そうなの、でも思い詰めないでね。そのお蔭で初期治療がうまくいったんだし。コトハ自身もそういう感覚が鋭いようだし……鋭くさせてしまったのはわたしかもしれない……」

「陛下」

「あ、ごめんなさい。用件は、あれかしら?」

「はい、国王と国家の一大事にしか使ってはいけないものですが」

「いいわよ、十分、国王と国家の一大事です」

 そうおっしゃると、陛下は「よっこらしょ」と腰をお上げになる。

「陛下、今回は王女殿下にお願いしようと思います」

「え、でもヨリコは初めてよ、レクチャーもしていないし」

 コンコン

「お入りなさい」

「失礼します」

 入ってきたのは、メイド長にして女王秘書であるサリバンさんと付き従うメイド。メイドは王家の紋章の入った車付きの箱を押している。

 ガチャガチャ……箱の中で音がする。

「クィーンズアーマー!?」

 思わず口走ってしまった。

「そうよ、デーモンズホールに入るには、これくらいの武装が必要でしょう」

「バトルになるとは限りませんし、バトルにはしません」

「あらそう……」

「殿下には扉を開けていただくだけです、魔法石はわたしが一人で取りに行きます」

「でもね……」

「ありがとう、ソフィー」

 サリバンさんにお礼を言われて、わたしと王女殿下の冒険が決まってしまった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・406『イギリス国王の戴冠式と頼子さん』

2023-05-07 11:28:43 | ノベル

・406

『イギリス国王の戴冠式と頼子さん』詩(ことは)   

 

 

 お腹から腰にかけてガチガチ。

 

 手術の後、コルセットっていうかギブスで固められてしまって動きがとれない。

 フレデリック先生の話だと、成功の確率は半分ほど、その半分の確率で治っても完全には戻らない。

 でも、いまは考えない。

 お母さんも付きっ切りだったから、いまは別室で休んでもらってる。

 ナースコールもあるし、カメラも二台付いてるしね。

 腰から下が動かないという以外は、いたって健康。

 天井にディスプレーを付けてもらった。ソフィーの手配らしい。

 ディスプレーにはプレステ5が繋がっている。

「パソコンよりも操作しやすいから」

 ソフィーは、頼子さんやさくらと同じ真理愛の生徒だったし、うちにもよく来てくれていたので、わたしのことも良く知っている。わたし、日ごろの動画はプレステ4で間に合わせてる。

 パソコンよりも簡単だしネトフリやゲームにも直ぐに切り替えられるしね。横になったままなのでプレステのコントローラーの方が断然扱いやすい。

 ただ、プレステ5は初めてだったし、決定が✖ボタン、キャンセルが〇ボタン。ちょっと戸惑ったけど、まあ慣れた。

 そのコントローラーを胸元に戴冠式の中継を見ている。

 

 むろん、お目当ては頼子さん。

 

 心配半分楽しみ半分。

 式場のウエストミンスター寺院に世界中の王様やお妃、国家元首の人たちが入場する。

 みなさん、それぞれの国の礼装なので、それを見ているだけでも楽しい。

 入場はアルファベット順なんだろうか、なかなか現れない。

 あ

 枢機卿みたいな人が三人続いたので、まだもうちょっと先と思った瞬間に現れた。

 ナンチャラいうお目出度い行事用のドレスに、サッシュっていうタスキ、タスキの腰のあたりにナンチャラ勲章。

 

 ステキ……

 

 ちょっとだけ心配だったけど、完全にノープロブレム!

 お年寄りが多い来賓の中で、ひときわ輝いていて、その瞬間は頼子さんのプロモーションビデオみたいになった。

 カメラマンも目を奪われたのか、ずっと頼子さんを追っている。

 おかげで、正面・真横・後姿としっかり見ることができた。

 カトレアとスズランを掛け合わせたら、こんな感じ?

 華やかで、かつ愛らしい。そして、控え目に威厳さえ感じさせるんだけど、口元のアルカイックスマイルが神秘的。

 

 こういう儀式は待ち時間が長い。

 

 チャールズ国王の馬車が着いて、入場されるまでがけっこうある。

 来賓席では、足を組む人もチラホラ。

 こういう超フォーマルな席で足を組むのは、ちょっと無作法なんだ。

 わたしも、王宮で暮らすようになってサッチャ……イザベラさんに仕込まれたので、そこに目が行く。

 どうしてもくたびれたら足首を組むのは許されるので、そうやってる人もいるんだけど、頼子さんは、キチンと足を揃え、背筋も伸ばして立派だ。

 プログラムとかあればいいのに。

 進行が分からないから、コントローラー胸に持ってきてずっと画面を見てる。

 ちょっとラッコに似てるかもしれない。

 

 フフフ

 

 耳もとで小さな笑い声がして、チラッと見る。

 え?

 なんと、『妖精の飛び出しに注意!』の道路標識にあるようなシルエットの妖精が二人! 枕もとに座ってるのと寝そべってるのが、いっしょに画面を見てる。1/12サイズのフィギュアみたい。

 声を掛けちゃいけない……そう思って戴冠式を見ているうちに寝てしまった。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・405『母の事と頼子さんのお見舞い』

2023-05-05 09:46:40 | ノベル

・405

『母の事と頼子さんのお見舞い』詩(ことは)   

 

 

 お母さんは並の主婦ではない。

 

 坊守(ぼうもり)なんだ。

 坊守とはお寺の住職の妻のことで、単に住職の妻というだけではなくて、境内や本堂の掃除や檀家さんやご近所の付き合い、法事やご葬儀、報恩講などの行事の差配。そういうお寺の裏方の仕事一切を一人でやっている。

 まさに坊(お寺)の守り役。

 小さいころからお母さんは「コトハはお寺のお嫁さんにはならなくていいからね」と言っていた。

 わたしに対してだけじゃなく、お父さんやお祖父ちゃん、総代さんが居る時にポロリと言ってくれていた。

 周囲にも言っておかないと、どこでどんな風に話が持ち込まれるか分からないから。

 だから、小さいころから掃除の手伝い程度しかやったことがない。

 さくらがやってきて留美ちゃんもいっしょに暮らすようになって、掃除のほとんどはわたしたちに任せて、お母さんは、ご近所のボランティア的な仕事にも手を伸ばした。趣味のパン作りの技術を生かして、近所の作業所のパン作りの指導とかもやっている。檀家のお婆ちゃんたちのゲートボールのこととかもね。

 そのお母さんが、一切合切を放り出してヤマセンブルグまでわたしの世話をしにきてくれている。

 

「大丈夫よ、さくらも留美ちゃんも優秀だし。田中のお婆ちゃんも張り切ってお手伝いしてくださって助かってるの」

「そうなんだ」

 簡単に言ってるけど、準備とか大変だったと思う。思うけど、口にはしない。

 親子なんだから、ここは甘えておく。

 じっさい、下半身がマヒしてるから、お母さんが傍にいてくれるのはとてもありがたい。

 お風呂に入れないので、体を拭いてもらったり着替えをしたり、それこそ下の世話とか……お母さんでなければ、とてもやってもらえるもんじゃない。その、お母さんが長期滞在を覚悟して日本大使館に手続きに行った日のこと。

 

 トントン

 

「はいどうぞ……」

 返事して入ってきたのは、フォーマルな出で立ちの頼子さんと、お付きのソフィー。

「ごめんなさい、ついつい顔を出すのが遅くなって。お加減はいかが?」

「うん、脚以外は元気よ。陛下もお見舞いに来てくださったんだけど、手にギブスもしてらっしゃって、かえって申し訳ないくらい」

「ギブスだなんて、お祖母ちゃんも大げさなんだから。ほんと、軽い捻挫で済んだのは詩(ことは)さんのお蔭なのにね」

「でも、とても暖かいお言葉をかけていただいて、わたしも母も勇気百倍……その服装は、いよいよ?」

「うん、午後の飛行機でロンドンに行きます。戴冠式なんて初めてだから、もうガチガチで」

「フフ、いつかは自分の戴冠式をやらなくちゃならないんだから、練習だと思えば」

「ああ、それ言わないでぇ! 王女になるって決意するのだって何年もかかって大変だったのに、女王になるなんてムリムリムリ!」

「そんなことないわよ、王女って逆立ちするだけで女王でしょ」

「え……ああ、アハハ、そうよね! あ、でも、わたし一人で逆立ちできないの。体育のテストでも倒立は介添えしてもらって、ギリギリ合格のBだったし」

「介添え役なら、いっぱいいるじゃない。うちのさくらや留美ちゃん、それにソフィーも」

「自分はウエストミンスター寺院の外までです」

「え、そうなの、ソフィーって頼子さん専属でしょ?」

「中に入れるのは、女王のお付きに限られます。殿下は女王の名代ですから」

「そうなのよ、あのサッチャーなのよ!」

「殿下、ミス・イザベラとおっしゃってください」

「公の場では言ってるわよ」

「日ごろから言っておかないと、いざという時にボロがでます」

 すると、頼子さんはソフィーに向かってキッパリと言った。

「イザベラ」

「わたしに言ってどうするんですか」

「だって、このごろ似てきたもん」

「グ……それはご容赦ください(-_-;)」

「プ( ´艸`)」

「アハハ((´∀`))」

 明るく三人で笑えた。

 お母さんだけじゃない。

 頼子さんといい、ソフィーといい、わたしは人には恵まれた。

 ちょっと不自由だけども、頑張ろうと……頑張っていけると思った『子どもの日』の朝だった。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・404『下半身マヒ』

2023-05-01 12:28:04 | ノベル

・404

『下半身マヒ』詩(ことは)   

 

 

 うーーーーん(;'#')!  ま、負けへんもん(>皿<)!

 

 そこへ、学校から帰ってきた兄きが、そうっと後ろに周ってさくらの脚を触った。

「ひえええええ(⊙△⊙)!」

 一瞬膝立ちになったかと思うと、ドシンと前に倒れて脚をヒクつかせるさくら。

「どうだ、さくら!」

「ま、まいったまいった、コトねえちゃんには勝てませ~ん(;'▲')!」

「おまえら、なんの我慢会や?」

「せやかて、お祖父ちゃんが言うてたもん」

「なにをや?」

「『わしが足長いのは、子どもの頃から正座してきたからや』てぇ」

「なんや、それ?」

「お祖父ちゃんに聞いたわよ。諦一が坊主になる決心したのは足を長くするためだって」

「ええ?」

「『ええ坊主は、ちゃんと正しい正座してるから足が長い』て」

「まあ、それで正座の我慢会になってね」

「もう、テイ兄ちゃんがいらんことせんかったら、勝ってたのにぃ!」

「アハハ、まあ、詩の勝ちやろ。なんか、余裕やで」

「ウフフ、五年生よ、一年生に負けるわけ……」

 ドシン!

 わたしも仰向けに倒れてしまって、三人で笑う。

 アハハハハハ( ´艸`)(^O^)(≧∇≦)

 腰から下が完全に痺れてしまって、三人で馬鹿笑いして、お母さんが覗きに来て、逆さに見えたお母さんは若くって……え…………若くない。

「目が覚めた?」

「え……え?」

「お母さん、どうして?」

「頼子さんから知らせをもらって……」

 あ、そうだ……女王陛下が振り向かれたと思ったら、覆いかぶさるように倒れてこられて、とっさにお支えして……え、でも腰から下が痺れて……え、正座の我慢会は小学校の五年生で……

「さくらは?」

「うん、来たがってたんだけど、学校は暦通りでしょ。とりあえず、お母さん、飛んで来ちゃった」

 あ、ああ、そうだよね、我慢会やったのは何年も前で、その時の痺れが残ってるなんてないよね。

 え、でも、わたし、まだ痺れて感覚ない。

「手術してもらったの、ちょっと時間がかかるみたいよ……」

 

 コンコン

 

 ドアがノックされて、お母さんが「はい」って応えて、お医者様と軍服姿のソフィーが入ってきた。

「ヤア、時間通りに目が覚めたみたいだね」

 あ、この癖のある日本語は王宮医師のフレデリック先生、白衣着てるところは初めてなので、ちょっと分からなかった。

 熱と脈を調べると、にっこり笑って、こうおっしゃった。

「順調なようです、あとで手術した先生が診に来られるので、その時、また来ます。コトハさん、わたしたちの女王陛下を護ってくださって、本当にありがとうございます。お一人で落ちておられたら危ないところでした」

 そうだ、女王陛下!?

「陛下は?」

「手首を捻挫されただけです、あ、この説明はソフィーの方がいいですね。ソフィー」

 フレデリック先生と入れ替わって、ソフィーが横に来てくれる。

「少し時間はかかるかもしれないけど、きっと良くなります。お母さんも、しばらくこちらにいらっしゃるわ。ヨリコさんも夕方には来ると思います」

「今日は軍服なのね」

「6日の戴冠式には陛下の御名代でヨリコさんが行くことになって、その付き添です。準備や打ち合わせで部隊の方にも顔を出すので」

「ソフィーって、何を着ても似合うわ」

「所属が情報部なので、いろんなものを着こなせるように気を付けています。でも、個人的には真理愛(まりあ)の制服がいちばん好きですよ」

「わたしも、中学のは処分したけど真理愛のは残してるの」

「じゃあ、ぜひ」

「ぜひ?」

「真理愛の中庭、いや図書館の前で写真を撮りましょう、みんなで制服着て」

「え、でも、もう三回生だよ」

「大丈夫ですよ、去年の春は、みんなで中学の制服着たじゃないですか(287『制服が届いた!』)」

「あ、あれは、さくらに乗せられて、どっちかって言うと黒歴史だから(^_^;)」

「なにをおっしゃいます、あの立ち姿の写真、一番きれいに写っていたのは詩さんじゃありませんか」

「いやいや、そんなことないわよ」

「いえ……必ず、もういちど、立ち姿の詩さんの写真撮ります!」

「ソフィー……」

 パンパン

「さあ、麻酔から覚めたところだから、ここらへんにしておきましょう」

 フレデリック先生が手を叩いておしまい。

 お母さんは、一人残って中原中也の詩集を読んでいる。

 まだ持ってるんだ……そう思ったけど、さすがに疲れて、目を閉じたら、すぐに眠ってしまった。

 

 そして、下半身マヒになった怖さは、何日も遅れて少しずつやってきた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・403『王宮某重大事件・2・救急搬送』

2023-04-26 10:31:23 | ノベル

・403

『王宮某重大事件・2・救急搬送』ヨリコ   

 

 

 王宮の廊下をこんなに長く感じたのは初めて。

 

 ソフィーからの連絡を受けて、ケージと呼ばれる皇太子用の別棟から渡り廊下を通って母屋の宮殿に向かっている。

 王族の者は空襲や襲撃にでも合わない限り宮殿の中では走ってはいけない。

 だから到着まで五分もかかった(あとで確認したら一分ちょっとだったけど、その時は、それくらいに感じた)。

 

「お祖母ちゃん!」

 

 プライベートで二人っきりの時以外、王宮では「陛下」と呼ばなくちゃいけないんだけど、この時は「お祖母ちゃん」になってしまった。

 そして、イザベラさんやソフィー、それに王宮警備の衛士さんたちが介抱している女性に気付いて悲鳴が出るところだった。

 ソフィーのメッセージは――陛下が階段から転落なさいました、第二図書室下の階段です――というものだった。

 この時間は、お祖母ちゃんがお気に入りの詩(ことは)さんを連れまわしている時間。きっと話に夢中になって階段を踏み外した……と思っていた。

 

 想像は、半分当って半分外れていた。

 

 日本人的礼儀と謙譲の美徳を兼ね備えた詩さんは、お祖母ちゃんの二段下の階段を上がっていて、足を踏み外して転げ落ちてくるお祖母ちゃんを全身で庇ってくれていた。

「ヨリコ、大変なことをしてしまったわ( ´༎ຶㅂ༎ຶ`)」

 こんなに動揺してるお祖母ちゃんは初めて。

「陛下、殿下も来られました。あとはわたしどもにお任せになって、医務室へ!」

 イザベラさんが急き立てるけど、お祖母ちゃんは首を横に振る。

「トマス、お連れして!」

 きっぱり言うと、ベテラン衛士のトマス曹長が部下と共に担ぐようにしてお祖母ちゃんを連れて行った。

「詩さんも……」

 医務室へ運んでと言おうとしたら、ソフィーが耳もとで囁いた。

「脊髄損傷のおそれがあります、動かせません」

「ええ(⊙▃⊙)!!?」

 

 その直後、王宮医師のフレデリック博士が駆けつけ、ソフィーの見立てが正しいことを証明した。

 

 詩さんは、フレデリック博士の指示によってドクターヘリに載せられて、三十分後には王立病院で緊急手術の運びとなった。

「車を出して! わたしも病院に行くから!」

 いっしょにヘリに乗ると言ったら「前例がない」と止められ、次善の策で車で急ぐことにした。

 ソフィーが用意してくれたのは職員の自家用車。王室の車では法定速度を守らなくてはならないから。

 途中信号に引っかかってイライラするんじゃないかと思ったけど、不思議と信号に引っかかることが無い。

 信号を気にしていると、時おり妖精の標識が目に入る。

 子どもの頃から見慣れて気にも留めない交通標識だけど――お願い、力を貸して――と思う。

 五つ目の信号も、寸前で青に変わって――妖精が、神さまが味方してくださってる――と感謝の十字をきっているとイザベラさんからの電話。

『陛下は右手首を捻挫されただけで済みました。念のために、これから精密検査を受けていただきますが、フレデリック博士の御忠言もあって、陛下は一つの決断をなさいました』

「え、まさか王位を譲るって言うんじゃないでしょうね?」

 憲法で国王は死ぬまで国王。でも、お祖母ちゃんなら言い出しかねない。

「来月の戴冠式は、陛下の名代として殿下に出ていただきます」

 ちょっと混乱してから気づいた。

 来月の6日はイギリス国王の戴冠式だ。これは引き受けざるを得ない。

「分かったわ、謹んでお引き受けすると、お祖母ちゃ……陛下に申し上げて」

「畏まりました」

 電話を切ると、ちょっと胃のあたりが痛い。

 戴冠式……親類のお祝い事に、ちょこっと顔を出す……ようなもんじゃない。

 しきたりやマナーがいっぱいある。外国の王族や皇族とも挨拶やお話もね、そのためのレクチャーやら情報収集やらもね。

 それと、詩さんのこと……さくらや如来寺のみなさんにどう伝えたらいいんだろう……。

 心配と重圧……そして、詩さんにヤマセンブルグに来ていただくように、あれこれ企んだのはわたしだ。

 みんなに良かれと思って……でも、結局は世間知らず王女の我がままだったのか……。

「そんなことありませんよ」

 ルームミラーのソフィーがお姉ちゃんのような微笑みを返してくれる。

 そして、数えて七つ目の信号も寸前に青に変わって、ヘリに遅れること二十分で病院に着いた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
  •   

  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする