大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・250『ボートを出て密かに観戦』

2024-09-26 11:02:18 | 小説4
・250

『ボートを出て密かに観戦』 メグミ 




 露蒙騎馬軍団の戦闘は五分五分に見えた。

 むろん、ボ-トを出て草原の窪地に身を潜めての印象だから戦場全体が見えているわけではないけど、西之島戦争や天狗党での経験が、そう判断させる。

ハナ:「くそ、身震いしちまうぜ!」

メグミ:「用を足すなら、あっちの茂みでやってよねぇ」

ハナ:「ち、ちげーよ! 武者震いだ(>▢<)」

メグミ:「これは他人様の戦争だよ」

ハナ:「わ、分かってるよ(;'▭')。でもよ、青銅の騎士は反則じゃねえかぁ……」

 戦争に反則も無いんだけど、ハナの感覚では人の10倍はあるだろう青銅の騎士の戦闘力、防御力は反則めいて見えるんだろう。

マイ:「テムジンは綻びを探してるのよ。いや、綻びを作っている。走り回っていれば、敵も味方も流動化せざるを得なくって、流動化してしまえば、おのずと隙ができるわ。騎兵戦闘ではモンゴルに一日の長がある、隙ができる確率はロシア軍の方が大きい」

 さすがはマイさん、いや児玉元帥。

ハナ:「よくジレねえなあ劉宏も」

メグミ:「漢明は見ているだけよ。ああやって元帥であり大統領である劉宏が出張っていることが最大の抑止力になるのよ。ね、よく見てみ、劉宏の軍団には闘気が感じられないでしょ」

ハナ:「そ、そうだな。メグミもなかなかの読みじゃねえか(`^´)」

 マイさんの視線が目の前の戦闘からハンベに移った。何を見ているんだろう……今のモンゴルではパルス機器は使えない。偵察衛星も軍事に関する情報はほとんどブロックされているはずだ。

マイ:「経済情報は伝わるのよ」

ハナ:「ええ、ここは戦場だろ?」

マイ:「ドンパチやるだけが戦争じゃないのよ。見てごらんなさい」

ハナ:「え、グラフとか数字とかはカラッキシなんだぞ(^△^;)」

メグミ:「え……ルーブルがメチャクチャ下がってる!」

マイ:「劉宏が手持ちのロシア国債を売りに出した。漢明だけじゃない、世界中が売りに出してる。劉宏が手を回したんでしょうねえ。化石燃料も半分以上取引停止にして、各国も追随しつつあるみたいよ」

メグミ:「ロシアは長期戦には耐えられませんねぇ」

マイ:「ええ、このモンゴルの戦闘が最初で最後になるでしょうねえ」

 わざわざ西之島からボートを飛ばしてきたけど、意外にあっけない。

ハナ:「あ、漢明の方から誰か駆けてくるぞ!」

 ハナが目を剥いて指さした方角。漢明の隊列から二騎駆けだしてきた。

メグミ:「あれは……朱元尚……後ろはフーちゃんだ!」

マイ:「まずいなあ……」

 マイさんの心配はすぐに状況の変化として現れた。

 露蒙両軍の一部がこれに気づき、モンゴルは無視したが、ロシアは数瞬で敵認定し、十数騎が二人に向かった。

 今の今まで眠ったように静かだった漢明軍にも、いっせいに緊張が走った!



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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銀河太平記・249『突出する准将』

2024-09-21 09:20:49 | 小説4
・249

『突出する准将』 胡盛媛中尉




 国境の向こうで戦闘が始まっても我が騎兵三個旅団は、順番待ちのパレード部隊みたいに落ち着いている。いたずらに緊張したりテンションが上がっているのは、わずかの新兵たちと、うちの准将ぐらい。

 まだ少年の匂いの残る二等兵はともかく、准将がワタワタしているのは、ちょっとみっともない。

 うちの准将は兵学校こそは出ているけど、ほとんど軍政畑に身を置いて、戦闘経験はおろか実戦部隊に居たこともほとんど無い。

 わたしがしっかりしなくっちゃ。

 一人は全員のために、全員は一人のために……お父さんが教えてくれた。

 単なるスポーツの教訓なんかじゃない。軍隊、いえ、人が複数で行動する時には必要な心構えだって言っていた。

 見渡すとあがっている新兵のそばにはベテランの兵が付いている。あるいは、伍長や先任の兵が寄り添っている。

 わたしも僭越ながら准将の傍でお助けしなければ!


 カメラを国境の向こう、始まったばかりの戦場に向ける。


 活発に両軍の騎兵が動く中にひときわ大きな騎兵があちこちに見える――青銅の騎士――だ。

 モンゴルの騎兵は巧みに青銅の騎士を躱して通常の騎兵を攻撃している。数騎で取り囲んだかと思うと、直後にその場を離れる。すると、ロシアの騎兵が倒れる。時どきは二三騎まとまって倒され、次の数騎が止めをさす。

 モンゴル騎兵のワイヤー攻撃だ。でも、青銅の騎士には通じない。青銅の騎士はその大剣で易々とワイヤーを切り、直近のモンゴル騎兵を追って、馬ぐるみ切り捨てていく。

 しかし、モンゴル騎兵も、その間に一騎二騎と敵と味方の間に入り青銅の騎士の目を逸らせて、味方を救う。しかし、その救助も必ず成功するわけではなく、まとめて返り討ちになるモンゴル騎兵もチラホラ。

 10分ほどすると、モンゴル兵は青銅の騎士を避けて、通常の騎兵や、その背後の騎兵砲部隊に襲い掛かる。奥に入り過ぎたモンゴル騎兵を青銅の騎士を先頭に数騎のロシア騎兵が囲み、討ち取られる者、逃げおおせる者。ざっと見て五分五分の戦い……いや、微妙にモンゴルが押されているのかもしれない。

 数の上では、圧倒的にロシア兵が多い。この戦いぶりでは、時間が経つとモンゴルが不利だ。

「そうとも限らないわよ……」

 いつの間にか准将とわたしは劉宏元帥の傍まで来ていて、元帥は、わたしの心配が分かったように呟やかれる。

「全軍、西北に移動」

 元帥は右手を上げて進路を示し、静かに移動し始める。

 攻撃に移るわけではない、牽制しているんだ。ロシア軍が吊られて横に伸びる。本能的に漢明軍の介入を恐れているんだ。

 その僅かな怖れの隙を狙って、十騎あまりのモンゴル騎兵が一騎の青銅の騎士を取り囲み、甲冑の隙間目がけ、同時に銃を撃つ。

 パパパパーン!

 ほとんどゼロ距離射撃された徹甲弾は、騎士の関節を狂わせ、一ニ発はメインサーキットにダメージを与えて無力化していく。一体だけだったけど、突然爆発して支援に来た通常騎兵もろとも爆散する個体もいる。

「おもしろい!」

 ひとこと叫ぶと、准将は突然駆けだした!

「部長!」

 わたしも追随する。このまま駆けては国境を超えて戦場に突入してしまう。広報とは言え軍人、軍服を着て携帯用の銃は持っている。戦闘への参入ととられても不思議ではない。背後の味方には期待できない。大人数が出てしまえば、本当の参入、参戦になってしまう。

 一刻も早く連れ戻さなきゃ!

「部長ぉー! 准将ぉー! 停まってくださーーい!」

 声が届かない……准将の馬は上級将校用のオートホース、わたしのはリアルポニー。届かないかぁ……。

 これはもう、准将の馬を撃って強制停止……カメラを銃に換えて狙ってみる……でも、射撃に自信のある方じゃない。間違って准将に当ってしまうかも。

 ピピピピ ピピピピ

 あ(''◇'')!

 迷っているうちにハンベのアラーム。

 国境を超えてしまった!!

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・248『モン漢国境沿いで初任務』

2024-09-16 11:35:12 | 小説4
・248

『モン漢国境沿いで初任務』 胡盛媛中尉




 うちの騎兵三個旅団は見せ駒なんだ。


 騎兵旅団というのはナポレオンの昔から馬に乗った兵士の部隊ということなんだけども、三百年前に戦車が現れると、馬に乗ってる分、歩兵よりも速いというだけの騎兵は役目が無い。いや、ロボット兵なら、時速100キロで走るのがザラにいるから、ほんとうに辺境のパトロールやパレードぐらいしか使い道が無い。
 だから、第一次大戦から騎兵は馬の代わりに戦車に乗るようになって騎兵部隊とは機甲部隊、つまり戦車隊のことになった。だから、騎兵と言っても馬に乗るのは健軍祭のパレードで戦車部隊の前に一個中隊分の騎兵を歩かせるだけ。その騎兵も一個小隊を除いてはオートホース、つまりロボット馬。
 リアル馬をたくさん出すと落とし物の心配がある。パレ-ドが通った後に落とし物が残って、後続の部隊がグチャグチャに踏んでは、見た目も臭いもすごいことになる。だから、パレードの時のリアル馬は落とし物のしつけを施した一個小隊だけ。

 いま、その一個小隊のリアル馬を前衛にオートホース一個大隊。その後ろに三個旅団の戦車部隊と自走砲部隊。つまり、パレードの時の編成と同じ。つまり、見かけは立派だけども本気で戦争をやるつもりなないという編成。

 工兵隊や補給部隊、そしてなによりも歩兵部隊を連れていないので本気ではないということが、軍人でなくとも、ミリオタの高校生にだって読み取れる。

 つまりつまり、漢明軍はパレード用の部隊をモン漢国境沿いに並べ、折り目正しく国家的警戒感を示しているだけなんだ。


「中尉、カメラカメラ!」


 大佐、いや准将が手をはためかせてわたしを呼ぶ。

「元帥がお出ましになった、絶好のシャッターチャンス!」

「はい!」

 わたしは、自身でカメラを担いで馬(広報用のポニー)に乗り、頭の上三メートルにはドローンを付き従わせて劉宏元帥の前に出る。

 幕舎の脇には『帥』の元帥旗と、今朝はその半分の『劉』の字を染めだしたのが並んで草原の風にはためいている。背後と左右には一個大隊の騎兵部隊が徒列。

 元帥の野戦服に身を包んで騎乗している姿は、馬が立派な分、ちょっと可愛い。アイドルが一日署長を引き受けたみたいで、なんだかプロモーションビデオを撮っているような気になってくる。

「下から舐めるように、そう、元帥の右から左に抜けて、カメラはあくまでも元帥に。ドローンはちょっと引き気味でフォローさせよう……」

「こんな感じですか?」

「そうそう、元帥旗と被った時はゆる~くズームして、さり気にアップ……よーし、オーケー」

「あと、部隊の全景とかは……」

「まだ撮っとらんのかね」

「あ、整列したのは初めてですから」

「仕方ない、このあと、馬で駆けながら撮ろう」

 他にも二班撮影隊が居るんだけれど、准将は半分以上わたしの横に付いている。別に、旧上司の娘であることをおもんばかってのことじゃない。わたしに付いていれば元帥と接触する機会が多いからだ。

 ウワァァァァァァ  ドーーーーン  ドーーーーン  パチパチパチ

 国境の向こうから吶喊の声やら、銃撃、砲撃の音が聞こえ始めた。

 どうやら、再びモンゴル騎兵とロシア軍の戦いが始まったようだ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・247『朱元尚 大統領と写真を撮る』

2024-09-13 14:36:24 | 小説4
・247

『朱元尚 大統領と写真を撮る』 朱元尚



 大統領の権限は大きく且つ広範囲に及ぶ。


 この朱元尚を資源開発公司の管理職のまま現職に戻し、准将にした。

 選鉱機の情報を獲得しホトケノザの試掘事業にも目鼻を付けたのだから、少将に進級して、中央の軍政職に就けるかと思った。軍務局長か作戦部次長、あるいは軍需局長。

 それが准将という半端な階級で中央軍の広報部長という役職だ。

 補任にあたっては異例なことに劉宏大統領自らが官邸に呼び出して行われた。

 大統領は陸軍元帥の軍服姿で現れた。

「いやあ、一昨日陸軍長官を罷免した後、後継が決まらなくて、暫定的にわたしが陸軍長官を兼務してるの。本来なら陸軍省の長官室で行わなければならないんだけど、仕事が立て込んでいて呼びつけることになってしまった。ごめんなさいね」

 王春華のボディーにPIしてからは言葉遣いを改めている。わたしもTPOを考える方だが、大統領の立ち振る舞いはリラックスしていてとても自然だ。

「いえ、准将クラスの補任は書類で済ますことが多くありますので、かえって恐縮しております」

 そう、准将クラスの補任は少将以上の補任がある場合についでに行われる。昔の王朝時代の言葉で言えば、少将以上が上から二番目の勅任官。准将は将の字がついてはいるが三番目の奏任官。奏任官なら、直属上司である長官から辞令を交付されるだけ。大統領から直接辞令をもらうことは、少将以上のついでがない限り行われない。厚遇であることに違いは無い。

「広報は、軍の内外、身軽に飛び回れて短期に見聞を広められるわ。人はどういうか分からないけれど、近い将来に軍の、あるいは軍関連機関の枢要に立つ人には適任のポジションだと思うわ」

「はい、この朱元尚、粉骨砕身任務に励みます」


 それから辞令が交付され、これでお仕舞と思ったら、大統領が意外の提案をしてきた。


「せっかくだから記念写真を撮りましょう」

「き、記念写真ですか!?」

 思わず声が上ずってしまった。補任のおりに記念写真を撮るのは親任官たる上将に限られ、准将単独ではあり得ない。

 これは軍広報のトップに『新任広報部長補任式』と大々的に載せられる。

 少なくとも「えぇ、准将なのぉ」と不足顔だったカミさんには喜んでもらえる。

「じゃあ、記念写真撮るから、お願い」

 大統領がインタホンに呼びかけると、すでに待機していたんだろう広報係りが三脚付きのカメラを持って次室から現れた。

「失礼します」

「え?」

「ごめん、驚かせたかなあ。君が粉を振っていたのを聞いてね、大佐、いや准将の人事と同時に発令しておいたの(๑´ڤ`๑) 」

「よろしくお願いします、准将(''◇'')ゞ」

「あ、ああ、よろしくな胡盛媛中尉」

「じゃ、その国旗の前にしましょうか」

「ハ!」

 勇んで国旗の前に行く……と、大統領が横に並んだ!

「え、あの、ごいっしょされるんですか?」

「はい」

 普通補任の記念写真は国旗の前で起立の姿勢で撮る。任命者が横に並んで撮ることなどあり得ない。

 すごい厚遇!

「視察の時なんか、よく現場の人といっしょに写真撮りますからねえ(^▭^)」

 そうだ、大統領は視察どころか、どうかすると官邸の庭掃除をやっているオバサンなどとも気楽に写真を撮っている。

 ということは、ただのスナップ写真?

「あ、えと……大統領」

「なあに、フーちゃん?」

 フ、フーちゃん? 

 あ、そうか、以前プライベートで西之島に行った大統領と胡盛媛中尉は既知の仲なんだった。

「あのう……軍服の写り具合が、生地の質感が違うので……」

「ああ、わたしのは、間に合わせのお仕着せだものねぇ」

「はい、准将のは上海縫製公司のオーダーメイドの英国製の生地で、レンズを通すと……補正はできますが」

 そうだ、西之島で以前のはダメにしてしまったが、帰国するとカミさんが新たに注文して、そのおろしたてをを着てきたんだ。

「軍服なんて、しばらく着てなかったからねえ……まあ、このままでいいわ。今日は准将が主役なんだし」

「承知しました」

「じゃ、お願いね」

「では、撮りまーす」

 パシャパシャ パシャ パシャパシャ パシャ

 十数枚の写真を撮って、そのうちの三枚が、その日のうちに大統領のSNSと軍の広報に載った。

 写真は無修正で、明らかにわたしの方が軍服もきれいでキマッテいるのだが、大統領のフランクさと可愛らしさが勝っている。

 大統領のSNSのは、三枚の写真――どれがいいか分からないので三枚とも出しました(^_^;)――と手書きのキャプションが付いている。

 いちばんイイネが付いたのは、セルフタイマーにして中尉も入って三人揃ってピースを決めた一枚だった(-_-;)。上海縫製公司のオーダーメイドでキメタわたしは、そのぎこちない笑顔ともども「悪党のボスみたい」「なにか企んでるみたいな?」「大人の七五三!」などとさんざんだった。


 その准将補任式から十日、わたしは騎兵三個旅団を率いてモン漢国境沿いに出師された大統領の簡易幕舎の横、広報部20名を引き連れて待機している。

 大統領の幕舎には元帥であることを現す『師』の旗、わたしのそれには『広』の旗が草原の風にはためいている。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・246『ボートは西を目指して』

2024-09-08 12:01:56 | 小説4
・246

『ボートは西を目指して』 メグミ




 世界中のプライベートボートの最高峰は孫大人の筋斗雲。第二が劉宏大統領のオイド。その第二のオイドと遜色が無いのがマイさん(実は児玉元帥)のボート。マイさんのボートもオイドを原型にさまざまな改良が成されて別物と言っていいものなんだけど、マイさんは単に『ボート』とか『うちのボート』としか呼ばない。

 そのボートに乗ってモンゴル平原を目指している。

 ロシアが南に下ってきている。

 ロシアは最初マンチュリアに下りてきて沿海州から鴨緑江辺りを切り取るつもりだった。半ば観測のつもりで撃った弾道ミサイルが全弾撃ち落とされ、防備が硬いことを知ってモンゴルに目標を切り替えた。

 最終目標は極東において不凍港を獲得し太平洋から世界に進出しようと言う、数百年前の帝政ロシア時代からの夢だ。

 この宇宙時代に不凍港もないのだけど、民族的、あるいは国家的生理というのは動かしがたい、あるいは度しがたいもののようだ。

 中国は漢明という核を広げようか、あるいは核のまま充実を図ろうか迷っている。

 中国は大帝国になると80年、長くとも100年で衰退と分裂の時代に入る。今の中国は漢明という国号の通り、ほぼ漢民族だけで結束した国。劉宏大統領は心の奥では漢明のまま国力の充実を図ろうとしている。その方が強く安定した国家になることを理解しているんだ。

 いかつい将軍の姿を捨てて王春華の可憐なボディーにPIしたのは、不慮の事故のためだと言われているが、わたしもマイさんも大統領の深慮遠謀だと思っている。
 しかし、いかに劉宏大統領が可憐な姿になって中華の充実と世界の平和を願っても、漢明十億の本能を制御することは難しい。偉大な軍人であり政治家である彼は戦いながらも、絶えず現状での落としどころを探っているはずだ。

 だからこそ、マイさんはシマイルカンパニーのオイドを駆って西太平洋を超えてモンゴル平原を目指している。
 今次のモンゴル事変の成り行きと、劉宏大統領の目の色、心の在りかを確かめるために。そして、事変規模の紛争を戦争に拡大させないために。

「それに、どうやら孫大人もしゃしゃり出てきているようだしね」

「え、あ、そうですね(^△^;)」

 心の中で思いを巡らせていただけなのに、しっかり読まれて、まるで会話していたかのように言葉が返ってくる。マイさんも油断がならない(^_^;)。

「向こうに着いたら戦うことになるんだろ、西之島戦争からこっち、実戦やってねえから、体が疼いちまってよ~」

「アハハ、しょうがない奴だなあ、ハナは」

「あ、いや、あくまで自衛のためしかしねえし」

「メグさん、ちょっと鏡見せてやってよ」

「はい」

「あ、いらねえって! あ、止めてよオートミラーは!」

 首を動かしても目をつぶっても見えてしまうオートミラーを強制モードにしてやる。

「あ、アハハハ……可愛くし過ぎなんだよメグさんはぁ(''='')」

「長いことほったらかしにしといたし、年が明ければ18なんだし。日本の法律だと、もう成年だぞ」

「わ、分かってるよぉ(n*´△`*n)」

「あ、またフーちゃんの放送が始まるわよ」

 マイさんが目の前をワイプするとフロントガラスの前に仮想モニターが現れた。

『ニーメンハオ漢明軍のみなさん。こんにちは世界のみなさん。胡盛媛がお送りします『KMミリタリー』の臨時ニュースです。昨日から散発的にロシア軍とモンゴル騎兵部隊との戦闘が続いていますが、今朝、未明から大きな動きがありました。青銅の騎士たちに包囲され身動きが取れなかったリムジンとドライジンの部隊ですが、未明にテムジンがわずか十数騎を引き連れて奇襲攻撃を加え、騎兵一個中隊と青銅の騎士二体を撃破しました。青銅の騎士は、それぞれ首と右腕を失いましたが完全な破壊には至っていない模様です。破壊には至っておりませんが、ロシア側は大事をとって部隊を数キロ下げた模様です。テムジンの部隊には10名ほどの戦死者が出た模様で、ただいまは、戦死者の回収と負傷者の治療にあたっているようです。軍事用語では戦場整理と申しますが、これは、おそらく数時間で終了になり、午後には再び戦端が開かれる見込み……え、あ、部長から、我々も前線に出るようにと命令を受けました、え、あ、ちょ、部長……』

『オホン、ロシア軍は思いのほか慎重、最前線での実況も可能なようなので、乾坤一擲のレポートをお送りしたいと思います(^▽^)』

「なんだか、いろいろ面白いことになりそうね」

 水平線の向こうに八重山諸島が見え始め、オイドは進路を北に向けて沿海州を目指した。
 

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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銀河太平記・245『ハナの皮膚を張り替える』

2024-09-03 15:10:47 | 小説4
・245

『ハナの皮膚を張り替える』 メグミ




「新造した方が早いんだけどねえ……」

「フフ、メグさん、三回目だぞ」

「あ……でもねえ」

 つい言ってしまう。

 胸の皮膚を張り替えてやりながら、つい口に出てしまう。

 ハナの義体は世代も型番も違う寄せ集めで出来ている。そのために、全身を同じ規格の表皮で覆うことができない。当然色合いも質感も異なり、見た目にはほとんどフランケンシュタインだ。
 
 西之島戦争では全損といっていいダメージを受けたハナだけど、コアブレインが無事だったので奇跡的に復元してやることができた。
 思えば、あの時に新造ボディーにしてやれば良かったんだけど、早く現場に戻りたがったし、正直ハナ一人に十分な時間や資材をかけてやる余裕も無かった。本人も全然平気にしていたしね。取りあえずは首から上と肩から先の見てくれだけを整えてやった。

「着替えの度にバイトの子が卒倒するようじゃなあ」

「あ、まあ、それもそうだけどな」

「とりあえずは、腕と胸から上だけはやっておこう」

「何分ぐらいかかる?」

「まあ、半日だね」

「半日もジッとしてんのかよ!?」

「辛抱しろ、いちおう外国に行くんだ人をビビらすことのないようにしとかなくちゃな」

「あ、ああ、分かったよ。でもさ、半日黙ってたら死んじまうからよ、なにか話してくれよ」

「そうだな、こんな機会もそうそう無いだろうしな」

 昨日の『KMミリタリー』を見てマイ(児玉元帥)さんが現地に行くと言い出した。

 青銅の騎士がひっかかったんだ。

 青銅の騎士はロシアが作ったロボット騎士。個体によっては人の脳を使っているという情報もあって、それを信じるならハナと同様、義体化が進んだ人間ということになるけど、詳細は秘匿されているのでロボットにカテゴライズされている。

 製造にあたってはパルス動力の工作機械を騎士一機の製造に一台摺りつぶすほどに使われており、特に骨格と外殻は並のパルス特殊鋼の数倍の強さがあると言われ、運動性能と抗堪性(こうたんせい) は世界一だと言われている。
 それに、動力はパルス機関ではなくボディーに収められた超小型核融合炉なので、AP機の影響を受けないし、道義的責任を問われることもない。

 マイさんや王春華のスペックなら倒せないことも無いだろうが、重装甲の戦闘艦を撃破するくらいの手間と時間がかかる。まして、青銅の騎士は人の形と大きさ。数はそれほど多くは無いだろうが、連携してかかって来られたら攻撃できる時間も限られる。

 まあ、それもこれも含めて現物を見て、対策を考えようというのがマイさんの狙いなんだろう。

 阻止しなければならないのは、ロシア軍の漢明への侵入だ。侵入したとしても数個騎兵旅団でどうこうできるほど漢明は甘くない。せいぜい、数時間か数日か侵入した事実を残せるだけだ。
 しかし、ほんの数日でも居座られては漢明の威信が揺らぐ。威信が揺らげば、周辺国は漢明を侮り、国内的にも安定を欠くことになる。せっかくPIに成功して順調に内政を立て直しつつある劉宏政権の土台を揺るがすことになる。

 今の劉宏政権なら日本や西之島との平和的共存の道を探っていくに違いない。漢明が再び武断的政策をとるようになれば、漢明自身にも大きな損失、後退になるだろうし、世界の恒久的平和も絵に描いた餅になり果ててしまうだろう。

 地球が乱れれば月や火星も不安定化し、宇宙規模で言えばようやく緒に就いたばかりの太陽系の開拓、銀河宇宙への進出にも望ましくない影響が出るに違いない。

「なあ、一人で自分の世界に入られたら、退屈で仕方ねえんだけど」

「え、ああ、ごめんごめん(^_^;)。ハナはさ、将来の夢とかあるのか?」

「夢? 夢なら、もう叶ってるぞ」

「そうなのか?」

「うん、食うに困らなくってよ、なんでも言える仲間がいてよ、仕事もあってよ。食堂と神社と鉱山。一人で三つもこなせてよ、シゲジイもお岩さんも口は悪いけどよ、なんか、お袋と親父みたいでよ。メグさんは姉ちゃんみたいだし、バイトの連中は近所の手下って感じで。ハナ的には言うことねえ」

「そうか、そうなんだ」

「ああ、そうさ。だからよ、この島守ることなら、なんだってしてやる」

「それは心強いな」

「おお、任せとけ」

「でもさ、ハナはまだまだ若いじゃないか」

「お、おう。永遠の十七歳ってやつだ」

「ハハ、なんか似合わねえ」

「うっせー!」

「お姉ちゃんだからな」

「くそ、余計なこと言っちまった(;'∀')」

「旅行したいとか思わないのか?」

「え、ああ……」

「どうしたぁ?」

「西之島以外じゃ、その……いいこと無かったしな」

「ハナが見た世界なんて、ほんのハナクソみたいなもんだぞ」

「あはは、ハナクソかぁ……うん、クソにはちげえねえよ」

「いつか世界が平和になったら、お姉ちゃんと世界旅行に行こう!」

「世界旅行? メグさんとかあ?」

「いやか?」

「あ……それもいいけど、島のみんなで行くのもいいなあ」

「団体旅行かぁ……」

「それと……」

「それと?」

「え、あ……なんでもねえ」

 それから、ずっとあれこれ脈絡もなくお喋りして、最後に皮膚の定着をし終わった時、この妹分は静かに寝息を立てていた。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・244『お岩食堂でKMミリタリー放送を聴く』

2024-08-30 16:49:29 | 小説4
・244

『お岩食堂でKMミリタリー放送を聴く』 メグミ



 島のクセモノたちがお岩食堂に集まっている。

 西之島最大の食堂はブンカ―の基地食堂なんだけど、みんなお岩食堂に集まりたがる。

 安くておいしいご飯が食べられるだけじゃなくて、アットホームな雰囲気が好まれてる。本来はカンパニーの社員食堂なんだけど、来る者は拒まずで、胡同(フートン)やナバホ村、ちょっと遠いけど市役所のある北区からも人が来る。

 ちなみに西之島はいちおう日本領で、日本の地方自治法が適用され、島は東西南北四つの区になっている。けれど日ごろ〇区と呼ばれるのは北区だけで、あとは旧来の呼称(胡同・ナバホ村・カンパニー)と呼ばれて結びつきが強い。

 食堂の主はお岩さん。

 昔々は月で金融関係の仕事をしていたらしいけど、その後いろんな道をたどって食堂の女将に収まった。西之島戦争の時は部隊指揮も立派にこなして、ほんとうに正体不明の女傑。

 従業員は食堂の近くにある氷室神社巫女のハナ。神主のシゲ老人ともどもカンパニーの鉱山で働いていたんだけど、シゲ老人が神社を造ると巫女を兼ねるようになり、今では食堂の人気ウェイトレスでもある。

 近ごろは北区の街の子たちもバイトで入ってくれるようになった。単に小遣い稼ぎというだけではなく、人間関係や人との接触、付き合い方の勉強になるというので、地味に人気がある。

 かくいうわたしもラボの仕事のキリが付くと自然と足が向く島のホットステーション。

メグミ:「はい、来月のシフト表できたわよ~」

 ハンベで作ったシフトを厨房のPCに送る。

お岩:「ごめんねメグ、ビールでも飲んで帰ってぇ!」

メグミ:「うん、ありがとう!」

 お礼を言った時には、もうシフト表のプリントアウトと張り出し用の指示ををしてカツ丼五人前を作り始めている。

 カツ丼の他に油の爆ぜる音がしたかと思うと、いつの間にかハナが巫女服のまま炒め物を作り、その横でバイトの子がカツ丼のご飯をよそって炒め物の皿を並べている。

シゲ:「こらぁ! 食堂じゃ巫女服脱げって言ってんだろがあ!」

 シゲ老人がビールの泡を飛ばしながら文句を言う。

ハナ:「もう、自分は神主服のままだろがあ! ちょっと頼む」

 バイトの見習いに頼むと、その場で巫女服を脱ぎ始める。

 みんなは慣れっこだけど、バイトの子たちは慣れなくて目のやり場に困ってる。ここに来たころのハナは野生児というか、ほんの子どもだったけど、このごろは一人前の体格になってきた。

 ヒィ!

 バイトの一人が小さく悲鳴を上げる。

 身を隠すと言うことをしないので、体のあちこちの傷跡が丸見えになるんだ。

 顔や手先の見えるところは直してやったんだけど、服で隠れるところは後回しになってる……そろそろ直してやらなくちゃなあ。

 はい、おまちぃ! ハナぁ、あと頼んだよぉ!

 へい!

 隣りのテーブルの客にカツ丼を渡すと、お岩さんが横に座って、それを待っていたかのようにモニターにフーちゃんの軍服姿が映った。

お岩:「ピッタリのタイミングだ」

メグミ:「タイマーでもかけてんのぉ?」

お岩:「フーちゃんは娘みたいなもんだからねぇ、気になって、いつもタイミングが合っちまう」

 この時間はKMミリタリー放送(漢明の軍隊放送)の時間で、近ごろ国内外で評判のいいフーちゃんが担当している。

胡盛媛中尉:「ニーメンハオ漢明軍のみなさん。こんにちは世界のみなさん。胡盛媛がお送りします『KMミリタリー』の時間です。先日マンチュリーへのミサイル攻撃に失敗したロシアは、その攻撃をモンゴルに向けました。ロシアの狙いはモンゴルを勢力下に置いたのち、我が漢明と雌雄を決するところにあると思われます。一昨日ハルハ川河畔で痛手を被ったロシア第三騎兵旅団は西に向かって東より侵入してきた第一第二旅団と合流を目指している模様です」

 画面がモンゴルの地図に切り替わる。

胡盛媛中尉:「西のモンゴル平原では第三旅団に壊滅的打撃を加えたテムジンの息子、リムジン、ドライジンの騎兵部隊が待ち受けている様子です。合流の為に西に向かっている第一旅団ですが、現在はその進撃速度が落ち、待ち受けていたテムジン部隊に痛手を受けたと思われ、一両日にには火ぶたが切られるであろう西部戦線の展開は予断は許さないと、我が統合参謀本部戦略室は見ております……あ、追加のニュースが入ってきました」

 画面の外から原稿が手渡される。なんか大昔のテレビニュースみたいだけど、こういうアナログ感がフーちゃんにも合っていて人気になっている。

 原稿を渡されたフーちゃんが、一瞬、笑顔のまま固まってしまう。

胡盛媛中尉:「ただいま命令を拝受いたしました。本職は、このままモンゴル平原に取材に参ります。つきまして……え、部長?」

 食堂中に怨嗟の声が上がった!

 なんと画面に朱元尚大佐が割り込んできた。

朱元尚大佐:「中央軍広報部はホットなニュースを全国の兵士諸君並びに世界のみなさんにお伝えするべくモンゴル平原に現地取材に向かいます。むろん担当は我らが胡盛媛中尉。むろん中尉ひとりではありません。この朱元尚自らが若干の部隊を引き連れ安全万全の取材であります」

 乞うご期待とばかりの笑顔の前にもう一枚の原稿が送られ、大佐はそのままフーちゃんに渡した。

胡盛媛中尉:「追加のニュースです。モンゴル平原でロシア軍とモンゴル軍の戦闘が開始されました」

朱元尚大佐:「おお、意外に早い展開になってきました。これは、ただちに出発しなければ!」

胡盛媛中尉:「まだです部長」

朱元尚大佐:「なにかね?」

胡盛媛中尉:「ロシア軍の中核には青銅の騎士が含まれており、これにモンゴル軍は苦戦中の模様で……」

朱元尚大佐:「青銅の騎士だとぉ……」

胡盛媛中尉:「はい青銅の騎士……あ、部長!」

 画面から朱元尚が消える、いや、泡を吹いて倒れた?

お岩:「青銅の騎士……ちょっと面白くなってきたじゃない( ,,ÒωÓ,, ) 」

メグミ:「え?」

 お岩さんが目を輝かせて戦闘モードになって、周りを見ると他にも目を輝かせているろくでなしどもがチラホラいた。

 青銅の騎士……Bronze Horseman !?

 英語に変換してやっとわたしもピンときた!

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
  
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銀河太平記・243『怪我人治療と蜂形ドローン』

2024-08-26 16:37:23 | 小説4
・243

『怪我人治療と蜂形ドローン』孫大人 




 テムジン部隊の馬は先祖から受け継いできたリアル馬だ。

 巡行速度25キロ 最大戦速65キロ 航続距離45キロ

 軍用的表現をすれば、まあ、こんなところで並の馬と変わらず。大方の軍隊で使っているオートホースの足元にも及ばない。

 だが、テムジンの馬にはブースターが付いていて、瞬間的には150キロを超える速度が出せる。馬の運動神経と連動させているので、高速移動や方向転換をしても馬に負担はかからならない。馬は自分の意識と力で飛んでいると思っている。近接戦闘ではOH(オートホース)でも太刀打ちできないだろう。

 敵は、易々と接近して撃つなり切るなり自由に攻撃できるが、攻撃した瞬間にテムジンの馬は目の前から消えてしまう。
 実際はブースターを使って数メートルから十数メートル、馬との呼吸が合っていれば百メートル以上を瞬時に移動。敵からは消えたように見えるのだ。
 敵がオートホースに乗ったロボットでも、このブースト移動を数回続ければ演算速度が間に合わずに撃破されてしまう。

 テムジンは千騎余りの部下と共に、このブーストを使って西の戦場を目指している。ハルハ川のロシア軍を手玉に取ったあと、テムジンは眼前の敵が陽動であることを悟り、全軍に移動を命じた。50秒普通の並足で走らせ、残りの10秒でブーストをかける。
 50秒の並足も10秒のブーストも同じ距離を駆けるので、普通のリアル馬の倍の速度が出ていることになる。

 時々、テムジンは右手を上げ、手信号で最後尾の10騎に殿(しんがり)を命じる。10騎は5騎ずつに分かれ、追撃して来た敵をワイヤーで引っかけ、その都度数十騎の敵を人馬共々撃破する。敵は、その度に捜索と態勢の立て直しに追われ、なかなか追いつくことができない。

 五度目にゴルジンが殿に出た時は一気に200騎も撃破して、敵は追撃を諦めた。


「なんだか自分の目で見たようね」

 東鈴が馬乳酒と乾パンを配りながら冷やかす。やっと怪我人の手当てが山を越えたようだ。乾パンを配り終わって、最後の一人の包帯を巻きなおしてやっている。

「自分の目と同じだぞ」

 蜂形ドローンを充電してやりながら文句を言う。

「俺だって、あのブースト馬があれば十分に付いていけるぞ」

 ワハハハハ

 明るい笑い声が湧き上がる。

「大人、そりゃ無理だって」

 腕を吊った若いのが目をへの字にして笑う。

「儂だって、満州馬賊の頭目なんだぞぉ」

 ワハハハハ

「大人、あんたの商売人としての腕は認めるよ。でも、馬にかけちゃ世界で俺たちの右に出る者はいねえよ」

「そうだよ、孫大人。ブースト馬を使いこなすのはモンゴル人でも早くて五年、普通でも八年はかかる」

「俺は十年かかったぞ」

「だから怪我が一番ひどい」

「うっせえ!」

 ワハハハハ

 儂は、落伍したテムジンの部下を拾いながらテムジンを追いかけている。

 テムジンの部下とて万能ではない。ハルハ川で七人、途中の殿で脱落した者を二人拾った。

 戦死者が八名出ている、戦死者は遺品と少しの遺髪をとって、その場で葬った。

 行方不明が数名いるそうだ。おそらくは生きてはいないだろうが「死んだ」とは言わない。この点も満洲馬賊と変わらない。ただ、馬の技術については馬賊はモンゴルに敵わない。

「大人、そんなもので長距離の偵察とかできるのかい?」

「ああ、お前たちの馬といっしょさ。まあ、普通に使うなら、儂が馬に乗る程度にはできるだろうがな」

「見ていいかい?」

「ああ、同期してやるから、自分で使ってみ」

「うん」

 ハンベを操作して蜂形ドローンと同期してやる。

「おお、180度の3Dだ……」

 ブ~~ン

「思った方向に飛んでいく」

「ああ、見たいと念じたら固定される」

 ブ~~ン

「「「「おお!」」」」

 ハンベの画面が東鈴の尻のアップで固定された。

「ちょっと、どこ見てんのよ(ꐦ°᷄д°᷅) !」

 バシ!

 イッテエエエ(˚>ᯅ<) !

 東鈴が包帯を巻き終わったそいつの腕をシバキタオシて、我々はテムジンを追いかけた。
 



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
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銀河太平記・242『ハルハ川沿いの戦い』

2024-08-22 10:56:55 | 小説4
・242

『ハルハ川沿いの戦い』孫大人 




 敵の騎兵部隊は横に広がった。広がっても、その厚みはさして薄くなったとも思えず、その数五千ほど、背後には後詰がおるかもしれず、一個師団は優にいるだろう。

 先頭の千余の騎兵が差し渡し二キロほどの横隊になるのに三十秒もかかっていない。

 横に広がった分、進撃速度は落ちるが、テムジンの部隊も突撃しているので自分たちの進撃速度は重要ではない。

「包み込まれて殲滅されるよ(''◇'')」

 ハンベで鳥観図に変換した戦場の映像は数分後のテムジン隊の全滅を予測させた。

 テムジンが左手を上げ、グルッと回して左を指した。

 すると、左翼の二騎が俄然速度を上げて敵の右翼に周る。

 一騎は敵の右翼の外へ。もう一騎は人馬共々背を低くして敵の右翼中央に突撃していく。

「え、殺されるわよ!」

 東鈴が叫ぶ。右翼の外に周った一騎はともかく中央の一騎は接触と同時に倒されるだろう。

「中央のをズームしてくれ」

「う、うん」

 東鈴がタッチすると、画面は中央に迫る一騎をアップにした。

 戦場をくまなく観察するために、複数の蜂型のカメラロボットを飛ばしてある。そのうちの一つが中央に迫る一騎を大写しにした。

 とたんに消えた!

「違う、後ろに飛んだ!」

「え?」

「馬の腹にブースターを付けてんの、それを逆噴射して後ろに飛んだ!」

 とたんに、敵右翼の三割ほどがなにかに躓いてもんどりうって倒れる。

「ワイヤーかなにかを張ったんだ!」

 そうか、二騎でワイヤーを張って敵右翼の馬たちの脚を絡めとったんだ!

 飛び退る瞬間にワイヤーの端を地面に打ち込んで固定したんだ。跳び退るという意外な動きで、敵はワイヤーもワイヤーが打ち込まれたことも気づいていない。

 倒れた馬は百に近いだろう。すかさず、テムジンは自分の左翼を引き連れて突進、混乱する敵右翼の残敵に飛びかかっていく。

 ズドド ズドドド パパン ズドン パパパン ズドン パパン

 彼我の銃声が響く。

 テムジンは敵の混乱に乗じて部隊を突撃させる。

 前方の数百は壊滅して残りも混乱させたが、この突撃は少し無謀だ。多勢に無勢、各個に包まれて摺りつぶされてしまう……と思ったが、テムジンは全部の馬にブースターを取り付けさせていて、リアル馬とは思えない挙動と敏捷さで馬を操り、正確に銃撃を加える。

 ズドドド パパン ズドン パパパン ズドン パパン ズドド 

「あれ?」

 東鈴が声を上げると、敵の後方で混乱が起きている。

「おお、ゴルジン!?」

 敵右翼の外側を周っていたのはゴルジンだったのだ。そのゴルジンが反対側の敵左翼の後ろから出てくると、敵後尾の数十騎がバタバタと倒れて土煙が上がっている。

「そうか、ゴルジンは後ろからワイヤーを引き回してるんだぁ(^▽^)!」

 春鈴が喜ぶが、敵も馬鹿ではない、さっさと足元のワイヤーを切って無力化する。

 敵は十分足らずで三割の騎兵を打ち倒され、テムジンの損害は十騎余りに止まっている。

 敵は進撃を停めた。

「もう一度立て直して向かって来るでしょうねえ(^へ^)。」

 ここでポップコーンを渡してやったら、ムシャムシャ食べてサッカーの観戦でもするような感じの東鈴。

 儂も、これから戦の本番と腰を落ち着けるが、ちょっと様子がおかしい。

 シュポポーーーン シュポポーーーン

 敵は、そこいらじゅうに対人地雷を撒くと、馬を下りて塹壕を掘りだした。

「持久戦に持ち込むつもりかしらね」

「増援があるのかもしれん、健康な兵は半分ちょっとだろうしなあ」

 ようやく敵も持ち直し、うかつには手出しできなくなって二時間近くが経過した。

 その間、いつの間に出したのか、斥候たちが一騎二騎と戻って来る。

 都合四騎ほどから報告を聞いて、テムジンは回覧板を回すような気楽さで、こちらに寄ってきた。

「これは陽動だ、敵の主力は西に集中している」

 それだけ言うと自分の配置に戻り、さっと手を挙げるとたちまち千騎余りの騎馬部隊が一斉に西に走った。全馬ブーストをかけているので、あり得な速度になる。俺と東鈴の馬にはブーストの機能が無いので、ポックリポックリ普通の速度で移動。

 そのコントラストがなにかオチョクッテいるように見えるのか、目の前には自分たちが撒いた地雷も残っていて、敵は直には追撃には移ってこなかった。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
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  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
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  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
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銀河太平記・241『敵襲・草原に土色の草が萌える』

2024-08-18 11:04:02 | 小説4
・241

『敵襲・草原に土色の草が萌える』孫大人 



 モンゴル平原の一帯はAP(アンチパルス機)の波動によってパルス兵器が使えない。むろん満州戦争のころと違って、APとて絶対的な効力があるわけではない。

 しかし、誇り高いモンゴル人たちがAPを設置している以上、それを無視して近代兵器を使いまくれば、世界中から不信の目で見られる。モンゴル人たちは、たとえ占領されても抗い続けるに違いなく、結局は勝利の実を採りにくくしてしまう。

 ロシアは、はるか千年の昔にはチンギス・ハーンとその息子たちに国を取られ、タタールの軛(くびき)と呼ばれる苦難と苦渋の時代を過ごさなけれならなかった。

 その雪辱を晴らすためにも、ロシアは騎兵でやってくる。

 騎兵と言っても20世紀以来、機甲部隊を指す。非パルス戦車、装甲戦闘車、誘導ミサイル、各種誘導弾。無人機にドローン兵器。

 はてさて、どんな展開になるのかと窪地に身を伏せる。

 前方には、同様に窪地に身を伏せたテムジンの兵たちの背中が見える。

「10騎足りない」

 東鈴が呟いた時、地平線の少し手前で仕掛け花火のように連続して火花が散った。

 ピシュピシュ ズドン ズコン ズドド ピシュピシュ ズドン

 遅れて各種携帯兵器が目標を破壊する爆発音や衝撃音が伝わって来る。

「10騎、別動隊になって、敵をブチノメシテるわ……移動しながら次々に……」

「すごい腕だな、戦車やミサイルは屁でもないんだなぁ」

「人も馬も義体化されてるんだろうけど、尋常な能力じゃないわねえ」


「これで、敵も普通の騎兵でやってくる」


 突然の声にビックリしたら、テムジンが儂たちの後ろに来ている。

「( ゚Д゚)!?」

「え、わたしでも気が付かなかった( ゚Д゚)!」

「これで敵は純粋の騎兵で攻めてくる。相当の激戦になるから少し後退してくれ。危ないと思ったら退避してくれ、悟兵の筋斗雲なら逃げ切れる」

 そこまで言うと、返事も聞かずに戻った。

「あら?」

 首を戻すと、前方の窪地に居たテムジンの部下たちの姿が消えている。

 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ

 そこに百を超える弾着の土煙。敵の射撃も見事で、土煙は、あたかも土色の草が一斉に芽吹いたかのようだ。

「少し下がるわよ」

「おお」

 移動した二秒後には、二人でいたところにも土色の草がいっぱい芽吹いたアル。

 春鈴がチラッとジト目になるが、声に出した「アル」ではないのでノーカウント(^_^;)。

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……

 地平線の向こうから優に千を超える馬蹄の響きが地を揺るがして迫ってきた。



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
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  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
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  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
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 ※ 事項
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銀河太平記・240『ハルハ川』

2024-08-14 11:48:57 | 小説4
・240

『ハルハ川』孫大人 




 親父の孫悟勇が跡継ぎを誰にするか悩んでいたころ、儂は東京に出ていた。

――トンキン?――

 それはベトナムだ。

――ああ、TOKYOね――

 テキストチャットで話しているので、時どきスカタンになる。

 テムジンの100騎といっしょに行軍中なので会話を控えている。

 うっかりアルアル語を使って100元取られるのも業腹でもあるしな。

――その東京がどうかした?――

 東京の団子坂というところに下宿していた。

――あら、美味しそうなところね――

 むかし、坂の下に美味しい団子を出す茶店があったらしい。

――フフ、坂で躓いて団子みたいに転げ落ちる悟兵を想像した。でも、なんで団子坂、都心からは微妙に離れてる感じだけど――

 好きな女の子が居てなあ、その子の実家が千駄木にあった。

――千駄木……ああ、団子坂あたりの地名ね――

 それでな……

――………………――

 ちょっと、聞いてるかぁ?

――その女の子って、惟任美音でしょ――

 なんで知ってるアルか!?

――あ、50元――

 え……あ、テキチャ、ノーカウント!

――だから半額にしてあげたじゃない。ジャキーン!――

 効果音入れなくていい!

――むかし、あのあたりじゃ千駄木小町って言われた子ね……学習院を優秀な成績で卒業した才色兼備……横須賀でお店出してたのね……ほうほう……あの児玉元帥が士官学校のころになかなかの関係にねぇ……ねえ、大人になってからは月に一二度しか実家には戻ってないはずなのに、どうして団子坂なんかに? 横須賀に行った方がチャンスは多いでしょ?――

 フフ、読みが浅いわ(`^´)。

――なによ――

 横須賀にいる時の彼女は店のママだ。つまり営業用の顔しか見せない。横須賀で、仲良くなっても、結局のところは客でしかない。しかし、千駄木に戻った時は、素のままの、本来の惟任美音なわけさ。

――ほおぉ……でもさ、結局はものに出来なかったわけでしょ。いっしょじゃない――

 ふふ、まだ読みが浅い。

――え……あ、惟任美音って、カルチェタランの初代オーナーじゃない!?――

 フフ、東鈴の検索は、どうも灯台下暗しの傾向があるなあ。

――フン、ほっといてよ!……あ……まさか、わたしの外見とか、その惟任美音をコピーとかしてないでしょうね!?――

 おまえたちJQシリーズの外見はデフォルトのままだ。

――そ、そうならいいけど。でも、なんで団子坂とか千駄木の話しになるの?――

 あのあたりは、少し行くと日暮里でな、台東区と荒川区の境目なんだ。間には神田川が流れていて常磐線と山手線が走っていて、日暮里から東はストンと崖になっていて景色が変わるんだ……

――あ……そうか、ここの地形に似てる!――


 東鈴が思い至ったところで、先頭を行っていたテムジンが停止を命じた。


「ここはノモンハン、下を流れているのはハルハ川だ。ロシアはこのハルハ川に沿って南下してくる。ここなら状況次第で西のモンゴル平原にも東のマンチュリアにも行けるからな。西に進ませれば敵はモンゴル平原を蹂躙し漢明になだれ込み、東を許せばマンチュリアに浸透し地盤を固めるだろう。いずれにしても、我々の脅威であり世界平和への許しがたい挑戦だ。我々は、ここで敵を待ち受ける。ゴルジンの50騎はここで、俺の50騎は向こうの窪地で待ち受ける。この鷹を放つことで合図とする。光学迷彩を掛けた上で待機。かかれ!」

 おお!!

 ヨタ話をしているうちに、テムジンは着々と状況にあった戦法を考えている。

 しかし、この100騎あまりで、ロシアの騎兵とどう渡り合うつもりか……ちょっと時めいてきた。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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銀河太平記・239『テムジンと出撃』

2024-08-08 11:04:09 | 小説4
・239

『テムジンと出撃』孫大人 




「あっちの1000騎は?」


「ゴルジンの兄のリムジンとドライジンの部隊だ。跡は継がせんが馬のほとんどは譲った」

「じゃあ、テムジンの馬は、この100騎だけか?」

「十分だ、100%リアル馬だしな」

「リアル馬アルか!?」

 ジャキーン

 東鈴の目がレジスターになって、また百元取られた。

 23世紀の今日、馬の99%はオートホース。100%のリアル馬は動物園かよほどの好事家でなければ使わない。オートホースも仕事や作業に適した調整が必要で、テムジンたちモンゴル人も仕事のほとんどはオートホースの調整だ。

 またも百元ふんだくられた儂などに構わずに、テムジンは1100騎に語り掛けた。

「ロシアと漢明は、この偉大なモンゴルの大地を戦場に変えようとしている。やつらには一かけらの正義も無い! かつての満州戦争で失敗し、漢明は、その実力の全てを戦争に賭けることはしない。ロシアも漢明と全力でぶつかる意思は無い。さきほど、満州の上空で双方のミサイルが激突し、全面戦争の無謀さを知った。そこで、パルス兵器を禁じているモンゴルの地で、その雌雄を決しようとしているのだ! これを座視すれば、モンゴルはかつてのように、ロシアと漢明の門に下らねばならぬであろう! 我ら草原の子らは、モンゴルの歴史に燦然と輝くチンギス・ハーンの末裔である! もとより世界帝国の夢など持たぬ我らであるが、その誇りはこの胸の内にある。モンゴルの地を奴らに許せば、やつらと、その欲望を他国の領土に向けようとしている邪悪な国々は野放図に、その食指を伸ばし世界を、やがては、この太陽系を果てしなき戦争のるつぼに投じるであろう! その野望を挫き、我らの平和を守るために立ち上がるぞ!」

 オオオオオオオオオオオ!

 1000騎と100騎の騎馬隊が雄たけびを上げる。数十秒昂りに任せ、やがて右手を挙げて制してテムジンは命じた。

「リムジンとドライジンは南の漢明に当れ、俺とゴルジンは北方のロシアを制する。かかれッ!!」

 オオオ! ドドドドドドドドドドド!

 蒼天の下、大地に馬蹄を轟かせ、1000騎と100騎は南北に分かれた。儂は東鈴と馬を並べてテムジンの100騎に付いていく。

「ねえ、テムジンは漢明には『当たれ』、ロシアには『制する』って言ったけど。違いはあるの?」

 東鈴が馬を寄せて聞いてくる。

「『当たれ』は、まず交渉しろという意味がある。『制する』は見つけ次第ぶちのめすという意味だ」

「ほう……じゃあ、あたしたちは面白い方に付いてきたわけだ(^▽^)/」

「ふ、不謹慎アル(>◇<')」

 ジャキーン

 東鈴の目がまたレジスターになった(-_-;)



 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
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  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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銀河太平記・238『テムジン・2』

2024-08-04 15:10:16 | 小説4
・238

『テムジン・2』孫大人 




 ここからはアルアル語は封じる。


 なぜか……テムジンとは、アルアル語など使って自己韜晦する以前の付き合いだったからアル。

 いや、だからアルアル語は封じる。

 児玉元帥を相手にしていても時々出てしまうアルアル語、少し苦労するかもしれないが、このモンゴル平原でテムジンと駆けるなら青年孫悟兵に戻らなければならないアル。

 アル?

 いや、だからアルアル語は封じる! 使ったら罰金!

「罰金て、ちょ、ここで実戦とかやる気なの!?」

 見かけよりも広いゲルに通され、お茶の用意にテムジンが出ると、東鈴が目を三角にする。

「テムジンと出会ったのは運命だ。テムジンとは運命の付き合いをする」

「なに、その運命の付き合いって!?」

「大丈夫だ、テムジンも一族の長。仲間を生かし、このモンゴルの草原を守るのが定め。命は粗末にはせん」

「でも」

「東鈴は筋斗雲で奉天に戻れ、ここが片付いたらすぐに戻るから」

「昔の遊び相手が見つかったらお払い箱ってわけ?」

「いや、だから……」

「だれが戻るかぁ!」

「声大きいアルぅ」

「あ、罰金、100元」

「ひゃ、百元!?」

「さっさと払う」

「し、仕方ないア……」

「ア?」

「ア……明日があるさ(^_^;)」

 ハンベで百元を送金する。

「そうそう、ジャキーン(右目に100,左目に元)」

「目をレジスターにするのはヤメテ」

「明朗会計よ、ストックが無くなったら円とかドルとかでもいいから……あ、来たわ。え、二人?」


 東鈴の言う通り、テムジンは聞かん気の強そうな若者に馬乳酒を持たせて戻ってきた。


「出撃前でもてなしもできんが、馬乳酒で乾杯だ。これは末息子のゴルジンだ。俺の跡はこいつに継がせようと思っている。挨拶しろ、ゴルジン」

「ゴルジンです、お見知りおきを」

 折り目正しく礼をするが、目に刺すような光があって、一から付き合うには骨の折れそうな若者だ。馬乳酒の盃を置く動作も馬に鞍を載せるように無駄が無い。
 
「若いころのテムジンに似ているな」

「ああ、棘はあるが腹は座って、統率力も兄たちに勝っている。今度の戦は、こいつにとってもいい経験になる。こっちは嫁か?」

「いや、儂の助手だ。東鈴という」

「トンリン、いい響きだ……義体率は半分以下だな」

「いや、東鈴は100%だ」

「ん……この美しさで、どこも義体化していないのか?」

「いや、逆だ」

「え……ロボットなのか?」

 テムジンは、ただ驚いただけだが、ゴルジンは無表情なまま目を尖らせる。テムジンも昔は似たような目をしたが、その後は、高い確率で殴り合いになった。

「助手だが、口うるさい女房……いや、娘みたいでもある。東鈴」

「春鈴です、よろしくお願いいたします」

「うむ。では、さっそくだが……」

 テムジンは、無駄口をたたくことも無くモンゴルとその周辺の状況を説明してくれる。どうやら声明を発表する以前から漢明もロシアもモンゴルには手を伸ばしていて、政府の意志決定がなされたら一挙に行動に移せるようになっていたようだ。

 チンギスハンの末裔らしく10分ほどで概略を説明すると、儂と東鈴をうながして外に出た。

 ゲルの外には、いつの間にか先ほどの50騎に加え、1000騎近い騎馬部隊が揃っていた。
 


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・237『テムジン・1』

2024-07-31 11:25:30 | 小説4
・237

『テムジン・1』孫大人 




 北京秋天を思うと、それよりも壮絶な、いわば北京蒼天とでも言うべき壮絶な青空が見えてきたアル。

 北京の半分、奉天の四半分ほどしか水蒸気を感じさせない空は、まるで仰ぎ見る者を染めてしまいそうなほどに蒼いアル。

 緩い坂道を上っているので、このまま筋斗雲を進めていくと、そのまま空に上ってしまいそうな気持するアル。

「いっそ、空を飛ぶ? 短時間ならステルスレベルマックスにできるけど」

 気持ちを察した東鈴が気を効かすアル。

「このままがいいアル、飛んだら空に呑み込まれそうアル」

「惜しいわねぇ、小さな雲が一つだけ残ってる」

「惜しいか……かえって空の蒼さを荘厳(しょうごん)してる思うアルよ」

「荘厳ねえ……なんだか、そのまま解脱とかして新興宗教でも開きそうね」

 宗教開いて世界が救われるなら、それもアリ思うアルよ。

 しかし、この蒼天の下では間もなく満州戦争並みの戦闘が行われるアル。

 ここいらは昔からの変わらぬ遊牧やってるアル。今ごろは羊たちも避難させ、人間もゲルを畳んで避難準備の真っ最中思たアル。

 
 峠を越えると、蒼天のぼっち雲を映したように白いゲルが残ってるアル。ゲルの傍らにはポールが立っていてデザインされた狼の旗。

 
 テムジン!?


 児玉元帥以上に古い友人の名前思い出したアル!

「ちょ、なにすんのよ!」

 手を伸ばして筋斗雲の緊急停止を押したアル。

「テムジンは、こういうの嫌うアル。ここからは歩くアル」

「テムジン……知り合いなの? まだ一キロはありそうだけど?」

「ああ、老婆婆(ラオパアパア)の髪がまだ真っ黒だったころからの付き合いアル」

「あたしは?」

「ああ……ついて来てくれ。どのみち紹介しなくちゃならない、いっぺんに済ますいいアル」

「テムジンて本名? 古い鍛冶屋でなければモンゴルの古い英雄の名前だと思うんだけど」

「世襲名アル、父親死ぬとテムジンの名を受け継ぐアル」

「ちょっとぉ……すごい殺気なんだけどぉ」

「だいじょうぶ、ほんとうに殺そう思う、殺気ないアル」

「そう……言われてなきゃ、ソッコー首の骨へし折りに行ってるところよ」

「東鈴、物騒アル」

「え……向こうの方から近づいてきた」

「どうやら敵ではないと認識したアル」

 ゴヘーーイ!

 テムジーン!

 儂もテムジンも同時に駆けだして草原の真ん中で、ガシっとぶつかるようにしてハグし合った。

 同時に、どこでどう隠れていたのか、50騎余りの騎兵が湧いて出て、儂とテムジンを取り巻いたアル。

 東鈴も10騎ほどに取り巻かれている。そいつらはみんな弓に矢をつがえて東鈴に狙いを定めていたアルよ(^_^;)。


 
☆彡この章の主な登場人物
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  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
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  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
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  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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銀河太平記・236『西へ』

2024-07-25 11:55:39 | 小説4
・236

『西へ』孫大人 




「ん、なんで西に進むアルか?」


 山海関を出て奉天に戻る道を走るのかと思ったら、筋斗雲はそのまま西に向かって走っている。

「なに言ってんの、自分でも西が危ないって思ってるくせに」

「一度、奉天に戻ってからと思たアル」

「カルチェタランなら大丈夫、老婆婆と鈴麗が居る。あの二人の方が店と街に関しては悟兵よりも分かってる」

「そうアルな。とりあえず満洲里アル」

 満洲里とはハルピンの西方400キロ、モンゴルの東に位置する街で、モンゴルの街でありながら「満州」ではなく「満洲」とキチンと表記する由緒正しい街アル。たぶん、大昔は満州の勢力がこのあたりまであった名残りアル。

「了解」

「なんで、西が危ない思うアルか?」

「そりゃあ、さっきのミサイルはフェイント、あるいは観測気球。力技でぶつかりあったら、すぐに本格的なパルス兵器同士のぶつかり合いになるでしょ。本格的な世界大戦は両国とも避けたい、21世紀の大失敗も有ったことだし。両国ともモンゴルを挟んで通常兵器の密度が高いし、平原ばかりだし通常兵器でドンパチやるにはうってつけだし」

「フフフ……」

「なによ、気持ち悪い」

「東鈴、世界で最初の共産国はどこアルか?」

「え、ソ連でしょ、100年もたなかったけど」

「では、二番目はどこアルか?」

「モンゴル」

「なんでモンゴルアルか?」

「ソ連に隣接してるし、影響受けやすかったからでしょ」

「フフ……理解が浅いアル」

「なんかムカつく(^_^;)」

「モンゴルは中国から逃げたかったアル。歴史的にいじめられてばかりだったアルから、ソ連の親類になるのが手っ取り早かったアル」

「あ、でも、モンゴルの南半分は長いこと中国に入って自治区になってたでしょ。いま向かってる満洲里とかそうだし」

「逃げ遅れて中国に掴まったアル」

「そうなんだ……そうか、その記憶を刺激すれば、わりと簡単に自分の勢力圏に取り込めるとロシアは思うわけか」

「ちょっと高度をとって欲しいアル」

「え、飛んだら目立つよ」

「そこをうまくやって欲しいアルよ、飛んだ方が距離稼げるアルし」

「へいへい」

 東鈴は器用に高度10メートルほどを維持して飛んでくれるアル。

「少し落としてくれアル」

「気づいた?」

「ああ……これは……」

 木の間隠れに手入れの行き届いたAP機が見える。

「でも、あんな旧式機、役に立たないでしょ」

「いや、そうでもないアル」

 AP機とはアンチパルス波動機。つまり、パルス機関やパルス兵器を無効化する防衛兵器アル。

 モンゴルは豊かな国ではないので最新のAP機ないアル。漢明や先進国のパルス機器や兵器を無効化することは難しいアルが、それをピカピカに整備していることの意味は大きいアル。

 モンゴルはパルス機器は大嫌い! 使う奴も大嫌い!

 という意思表示にはなるアル。

 つまり、このモンゴルで事を起こそうとしたら、児玉元帥言うところの元亀天正の戦争をやるしかない。

 あの『北京秋天』の絵を思わせるマンチュリアの空の下で繰り広げられた満州戦争のことが思い起こされたアルよ。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー       
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 


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